生物は遺伝子を運ぶ船とも例えられます。
遺伝子を次世代に繋げるのが、生物にとっての最大の使命です。
とすれば、個々の生物は利己的になってしまいます。
そして、人間は全員エゴイスト。
しかし、実際はかならずしもそうではありません。
わが身を犠牲にして他人の危機を助けた、というような話はニュースでよく出てきます。
そこまででなくても、赤の他人のためにボランティア活動をしたり、電車で席をご老人に譲ったり。
色んな場面で、色んな利他的な行動が見られます。
特に人類は、多くの動物の中でも、このような利他的な行動が発達しています。
しかし、このような行為は、自分の遺伝子の繁栄という意味では不利なはず。
なのに、なぜそうするのでしょう?
これまでは、慣習とか文化とか、社会的な学習の結果、このような行為を行う精神が身に付くのだと考えられてきました。
ところが、最近ではそれだけでなく、生物学的にも利他的な行動をとった方が子孫繁栄のために有利であることが明らかになってきつつあります。
具体的には、コンピューターシミュレーションで色んなゲームをして、どんな行動をとることが、最もプレーヤーの利得が増えるか調べられています。
普通は、利己的な行動の方がプレーヤーの利得は増えると考えがちです。
が、いくつかの条件での結果は、必ずしもそうはならず、場合によって利他行動をした方が結果的に利得が増えることがあるそうです。
つまり、利他的な行動を選択する人が有利になる条件が整っていた結果、このような遺伝子が引き継がれてきた、というのです。
このように、利他的な行動で利得が増えるメカニズムとしては、いくつかが提案されています。
一つは直接互恵と呼ばれる現象です。
相手に親切にしたら、相手もそのお返しで自分に親切にしてくれる、という考え方です。
別の考えとして、群選択というのもあります。
集団同士で競り合っているときに、その集団内で公益性のある行為を行うことにより、その集団が優位に立って、他の集団を圧倒します。
その結果、その公益的な行為をした人も繁栄を享受できます。
これらの他、最も大きい要因とされているのが、間接互恵という考えです。
だれかに親切にしたら、それが噂となって回り回って全然別の人から親切にしてもらえる、という考えです。
「情けは人のためならず」という言葉が生物学的に証明されたとも言えますね。
「情けは人のためならず」などというと、
「けっ、そんな甘っちょろいことを・・・」
などと斜に構えていう人もいるかもしれません。
しかし、実はそんな甘っちょろいことが人間の根本的性質の中に含まれていたというわけです。
世の中、暗いニュースがあふれていますが、こんな話を聞くと、案外人間も捨てたものではないな、という気になりますね。