今回は浸透圧についてです。

 浸透圧というと、高校の化学の授業で習った人も多いと思いますが、覚えているでしょうか?

 植物は、浸透圧を利用して様々な生命活動を行っています。

 そこで、これを改めて勉強してみよう、というのが今回の趣旨です。



 浸透圧とは、一言で言うと、水の中に何かが溶けている時にその溶液中に水が浸透していく力です。

 例えば、水分子のような小さな分子だけを通し、大きな分子を通さないような穴のあいた膜(半透膜)を考えます。

 その膜を挟んで、片側にはただの水(純水)、もう片側には塩水(塩化ナトリウム水溶液)を入れるとします。

 塩化ナトリウムは水に溶けてナトリウムイオンと塩素イオンになります。

 これらのイオンの回りには、水分子が何個かくっついてかなりな大きさになります(配位水とか陰イオン水とか呼びます)。

 従って、これらのイオンは膜を通れなくなっています。

 このような状態において、膜の付近では何が起こっているでしょう。

 水分子や塩素イオン、ナトリウムイオンは、液の中でブラウン運動と言ってランダムに動き回っています。

 そのうちのいくつかが、膜にぶつかります。

 膜にぶつかったもののうち、たまたま膜の穴を通りぬけるものもいればぶつかったまま通れないものもいます。

 ある時間で、純水から塩水側へ10個の水分子が膜を通るとします。

 そのとき、塩水のほうからは、9個とか8個とかしか通れません。

 水分子以外に、ナトリウムイオンやら塩素イオンやら、邪魔なものがあるので、膜にぶつかる量が少なくなるためです。

 この結果、差引き水分子1個か2個が、純水から塩水のほうに移動したことになります。

 これを言い換えると、1個か2個の水分子が膜を移動する力が与えられたのと同じことになります。

 これが浸透圧の原理です。



 浸透圧のもっとも有名な例がナメクジに塩ですね。

 ナメクジの体内の水分が、塩をかけることにより外に抜けていき、ナメクジは脱水により縮んでしまいます。

 植物では、例えば、根から水分を吸う力は浸透圧によるものです。

 すなわち、根の内部の水にはアミノ酸とか有機酸とかミネラル分とか糖分とか、色んなものが溶けています。

 土の中の水分にも、これらの成分は溶けていますが、植物体内のほうがずっと多いです。

 そこで、浸透圧により土から植物体内に水分が移動します。

 では、もしも逆に肥料分が沢山土の中の水に溶けていて、植物体内の濃度より高かったらどうなるでしょう?

 浸透圧の働く方向が逆転して、植物は水が吸えなくなります。

 雑草を枯らす時に、これを利用することがあります。

 尿素等の水溶性の肥料を高濃度に水に溶かし、生えたばかりの雑草にかけます。

 ただし、ある程度生育が進んでいるものは根域が深いので土の下の濃度の低いところから水を吸うので枯れませんが。

 話は戻り、上記のように根から取り込んだ水は、茎とか葉とかの個々の細胞内に入って行きます。

 これも、細胞の外より中のほうが色んなものが溶けているため、浸透圧により浸透していきます。

 そうすると、細胞内は水でパンパンに張ります。

 これを膨圧と呼びます。

 膨圧で細胞がパンパンにはることにより、植物は直立して、少々手で曲げても曲がらずに固い状態でいられます。



 さらに、取り込まれた水分のうちのいくつかは、気孔を通じて水蒸気として外気に抜けていきます。

 この気孔の開閉も、浸透圧が関与しています。

 気孔を形成している孔辺細胞が、膨圧によって変形して開くのだそうです。

 植物の生命活動は、浸透圧のような物理現象を巧みに利用しているのが多くて、面白いですね。