青い空

 28日日曜日、前日早めに寝ていた僕は、7時半頃に目が覚めた。遠征にしてはゆっくりめのスタートではあるが、そのおかげで疲れはだいぶ取れたようだ。

 朝一番に起きて、やはり気になるのは外の天気である。これは今回の台湾遠征に限った話ではなく、同じような撮影旅行の時には朝起きて真っ先に確認することである。その日の、その場所の天気によって、その撮影旅行の成果が全て決まると言っても過言ではない。そのぐらい天気というのは撮影する上で大事な要素なのだ。

 この日は、部屋の窓から差し込む日の光が妙に強かった。起きてすぐの寝ぼけていた僕はこの光でハッと目が覚めた。これはもしかして…?すぐに部屋の窓に駆け寄ると、僕の頭上には真っ青な空が広がっていた。よっしゃあ!!!思いっきりガッツポーズをした。以前もお話ししたとおり、正直台北の天気については何の期待もしていなかった。曇って当然だと思っていた。これは嬉しいサプライズである。まだ遠東MDも見てないのに異常なほど興奮してしまった。しかし「いい天気」というのはあくまで途中駅、「いい写真」を撮れて初めてゴールである。僕は溢れ出る高揚感を必死に抑えながらさっさっと準備を済ませ、ホテルのバイキングで朝食をとった。

 

 

 この朝食も、異様に美味しく感じるような気がする。しかし、こんな朝食もとっとと済ませ、早く空港に行きたい。ホテルにいる時間も勿体ない。空港に行くのが楽しみで仕方ないのである。僕はものすごい勢いで朝食を食い尽くし、ホテルを飛び出した。

 ホテルを出てもう一度空を確認すると、やはりそこには綺麗な青空が広がっていた。この空を再確認できた僕は、今日は最高の1日になると確信した。なんてったって、今僕がいるのは、「遠東MDのホーム」「遠東MD撮り放題の世界」台北なのだ。それだけでも凄いし、僕からしたら夢のような話なのだ。しかしそこに、「天気の良い」台北というのが加わってしまった。これはもはや、僕の夢すらも超えてしまった。僕の夢では収まりきらないほどの物だったのだ。当時の僕が相当な興奮状態だったのも頷けるだろう。

 とにかく一刻も早く、この天気のまま遠東MDに会いに行きたい。僕は早速いつもの松江南京駅に向かった。

 

 前日の夜に色々と今日の撮影プランを考えてみた結果、今日は2つの撮影地を回ることにした。まず1つ目は劍潭山の展望台。昨日下見に行った場所である。昨日は遠東MDの便がなく劍潭山から遠東MDを撮ることはできなかったので、今日は遠東MDを撮りにもう一度劍潭山に登ってみようというわけである。そして2つ目は、今日初めて行く撮影地である。

 

 最初に劍潭山に行くことにした僕は、昨日国立故宮博物院に行ったときと同じ要領で、松江南京駅から中和新蘆線で民權西路駅まで行き、淡水信義線に乗り換えて劍潭駅に出た。そしてまた昨日と同じように、駅から劍潭山の入り口まで歩いた。この日は朝だったからか、昨日ほどこの道のりはきつくはなかった気がする。いや、その道のりのきつさも感じないほどに興奮していただけかもしれない。

 

劍潭山の入り口。昨日来たときも全く同じような写真を撮っていたはずだが…この日も撮っていた。

 

 山に入ってからも、昨日下見をしていた甲斐あってすんなりと展望台までたどり着くことができた。前回もお話したことだが、この山は市街地にある割には思った以上に中が「山」という感じで、朝にこの山に登るのは涼しくて非常に気持ちよかった。正直この山登りだけでもかなり満足感がある。あくまでこの山登りは、遠東MDを撮るための「手段」に過ぎないのだが。

 

 

登っている途中に見つけたヒラタ(?)クワガタ。海外で見つけるとよりテンションが上がる。

 

 そうしてたどり着いた展望台からの景色は、相変わらず絶景である。晴れていてとても気持ちが良い。しかも、実はこれは当時は気づかなかったことなのだが、あとからこの日撮った写真を見返してみると、昨日よりも圧倒的に空気が澄んでいて綺麗である。昨日ここでANAの787を撮ったときは、その空気の霞み具合に「遠東MDではもっといい条件で撮らせてほしい」なんて思っていたが、なんと次の日には実現してしまった。もう少し長い間妄想をさせてくれと思うぐらいである。

 

 

上が昨日来たときの景色、そして下が今日の景色。空気の違いが一目瞭然である。

 

 とりあえずここまで条件がそろってしまえば、あとは自分が変なミスをしない限りいい写真が撮れるのは確実である。あとは安心して遠東MDが来るのを待つのみだ。お目当ての遠東MDはあと30分ほどでやってくる。それより前にも何便か着陸便がやってくるし、それで構図の確認などをしていれば暇になることはないだろう。というかそもそも、こういう海外の空港では日本では見れないようなご当地物がたくさん撮れるので、なにも遠東MDだけに狙いを絞る必要もないのである。

 それにしても、この展望デッキは本当に居心地が良い。天気もいいし景色もいいし、朝だから気温もちょうどいい。正直30分ぐらい余裕で過ごせてしまう。そしてこんな最高な環境の中で、僕は遠東MDという最高な飛行機を待っている。贅沢に贅沢を掛け合わせた感じだ。改めて遠東MDという素晴らしい飛行機に出会えて僕は本当に幸せだ。ちなみにこの展望台には、僕が今いる「撮影スポット」から少し離れたところにベンチがあり、父親はそこで休んでいた。

 

展望台にあった塔。この写真からもわかるように、この日は本当に天気が良かった。

 

 そういうわけで、あっという間に遠東MDのやってくる時間となった。例のごとく遠東MDはflightradar24にはまともに写らないので、今どこら辺にいるのかはわからないのだが、これだけ見渡しの良い展望台にいれば撮り逃す心配もない。

 よく目を凝らしていると、彼が現れた。さすがにあのJT8Dの轟音も、台北の街の雑踏の中にもみ消されてあんまり聞こえてこない。それでも僕にとってMD-80というのはずっと憧れの存在であり、輝いて見える。このときも、彼の存在感は僕にとっては十分すぎるぐらい大きかった。そんな彼に望遠レンズを向け、丁寧にシャッターを切っていく。台湾の街になんの違和感もなく溶け込む遠東MDの姿が、もう造られてからかなり経つはずなのに、その古さを感じさせず、地元の人々の足として元気に台湾の空を飛び交うMD-80の姿が、ファインダー越しではあるが僕の目にしっかり焼きついた。僕の周りには誰もいなかった。僕はこの瞬間を独り占めできて、なんて贅沢なんだろうか。

 

 
2018/10/28 FE22(MZG→TSA) MD-82(B-28021) at TSA/RCSS
 

 製造から30年経っても台北の地で力強く飛び続けるMD-80の姿を、バッチリ仕留めることができた。それにしても、あの「MD-80」が未だにこんな大都市の空を飛んでいるというのはやはり違和感がある。しかもこの光景があと4年も見れるらしい。MD-80なんていう飛行機をこんな大都市で未だにバンバン飛ばしている遠東航空とは改めて、本当に頭のおかしな会社である。無論、MD-80が大好きな僕はありがとう以外の言葉が出てこない。

 

    そんなわけで大満足のまま撮影を終えた僕は、すぐに下山して次の撮影地に向かうことにした。その前に、少し離れたところのベンチで休んでいた父親と合流しなければ。ということでそのベンチに行ってみると、確かにそこに父親の姿はあったが、他に台湾人の6人組のグループがいた。どうやら、父親とそのグループが色々と話をして盛り上がっていたらしい。僕が父親と合流すると、こいつが息子だなんだと再び盛り上がっていた。最後には一緒に記念写真まで撮った。少し面白い経験だった。

 

最高の瞬間を

 その台湾人グループとも別れ、僕と父親は劍潭山を下山した。今回は最高のお土産を持ち帰ってくることできたので、とても清々しい気分だった。

 

 山から下りた僕は、早速次の撮影地に向かった。次の撮影地は濱江果菜市場という市場である。ここは機体メインのオーソドックスな飛行機写真、いわゆる「スポッティングショット」が撮れる撮影地である。台北まで来てるならもっと台北らしい写真を撮れと思われるかもしれないが、ただのスポッティングショットでも空港によって背景や光線状態が変わってくるし、特徴的なものならその写真だけでどの空港で撮られたものか一発でわかる。まさに「オタクにしかわからない世界」かもしれないが、逆にオタクからすれば台北でのスポッティングショットも十分価値のあるものなのだ。実は濱江果菜市場は、昨日行った飛機巷からすぐの場所にある。つまり、濱江果菜市場へは飛機巷に行ったときと同じ要領で、MRTで中山國小駅か行天宮駅まで出て20分ほど歩けば行けるのだが、このときは狙いの遠東MDの便までそんなに時間がなかったので、仕方なくタクシーで直接市場まで行ってしまうことにした。やはりタクシーは非常に楽だった。

 

こちらが濱江果菜市場。(ストリートビューからの借り物)

 

 濱江果菜市場に着いた僕と父親は、早速中に入った。この場所は本当に「市場」という感じで、まず建物がバカでかい。どこから入ったらいいかもよくわからなかった。そして中もすごくごちゃごちゃしている。正直綺麗な場所ではない。物があちらこちらに散らかってるし、匂いがきついところもある。アジアだなあという感じだった。まあ、僕的にはこの雰囲気も嫌いじゃない。地元の人々の生活に触れることができた気がした。ただ正直ここの食べ物はあまり食べたくはない。お腹を壊しそうだと本能的に感じた。

 

 

市場の中はこんな感じだった。(これもストリートビューからの借り物)
 
 と、いろんなことを感じながら市場の中をうろついていたのだが、肝心の撮影地はこの市場の屋上である。とりあえずなんとかしてこの建物の屋上にたどり着かないといけない。上に続く階段がどこかにあるのではないかと思い中を歩き回っていたが、全然それらしきものが見つからない。中があまりにもごちゃごちゃしているのだ。でも屋上がある以上、そこに続く階段は絶対どこかにあるはずなので、根気強く探し続けた。そうしてなんとか階段を見つけることができた。
 
 階段を登って屋上に出た。最高の景色に最高の天気である。そして、屋上自体も凄く広々としている。これならのびのびと撮影できそうだ。劍潭山の展望台の時もそうだったが、最高の撮影地に最高の被写体、まさに最高の撮影である。本当に幸せだった。
 
屋上での僕。

 

 この撮影地は、離陸便のスポッティングショットも着陸便のスポッティングショットも綺麗に撮れる画期的な撮影地である。離陸便では離陸前のタキシング中の姿が、着陸便では着陸前の飛んでいる姿が撮れる。どちらの姿のMD-80も魅力的だ。ということで今回は、その両方を撮ってみようというわけである。立ち位置を決めた僕は早速カメラを取り出した。最初に狙う遠東MDは20分後にやってくる着陸便。ここでも、その「本命」の前に何便かご当地物がやってくるので、暇になることはない。早速、「ご当地物」の1つであるUni AirのATRがやってきた。

 

2018/10/28 B79106(MZG→TSA) ATR72(B-17008) at TSA/RCSS
 

 バババッとシャッターを切り、着陸を見届けたあと、カメラのモニターで撮れた写真を確認する。そして、改めてこの条件の良さを噛みしめるのである。スカッと抜けた青空、クリアに見える背景の山々、機体に当たる全開露出の日の光。この天気であれば、何が来ても絵になることは当然である。このATRだけでも満足感が高い。この条件でMD-80を撮れるなんて・・・。最高の1枚が撮れることが確定した瞬間である。そう、この条件で遠東MDを撮ったらどう頑張っても最高の写真にしかなりようがない。期待が高まらないわけがないのである。妄想が膨らみ、ものすごい幸福感に浸る。ああ、初めての台北で、こんないい思いをしていいのだろうか・・・。この先とんでもなく不幸なことが起こっても仕方ないだろう。それぐらい今の僕は幸せ者だ…。と、まだ撮ってもいないのにここまで幸せな気持ちになれるのも凄いことである。

 そしてそのときはやってきた。あの甲高い金属音が、あの唸るようなJT8Dの音が聞こえてきた。景色も凄く開けているから、その接近に気づかない方が難しい。彼の姿を目視で確認してから、カメラを構えてファインダーを覗く。こんなに条件のいいときに、変なミスで失敗するわけには行かない。そう思うと心臓がバクバクだ。甲高いエンジン音がその緊張を助長する。その音を聞いて、ああ相手はMD-80なんだと再確認させられるからだ。シャッターを押す手が震える。そんな僕を気にも留めず、彼は僕の目の前をすんなりと通り過ぎていった。僕は無我夢中でシャッターを切った。

 

2018/10/28 FE66(KNH→TSA) MD-82(B-28017) at TSA/RCSS
 

 最後はファインダーから目を離し、生でその着陸を見届ける。この場所からは、タッチダウンの様子までは見ることはできない。しかし、彼の逆噴射が無事にタッチダウンできたことを知らせてくれる。新潟で初めて遠東MDに会ったとき、その逆噴射の轟音に驚かされた。そしてここでもやはり、その轟音に驚かされる。「あいつは戦闘機みたいな音がする」という例え話が再び思い出される。MD-80の「古さ」を一番感じさせられるのがこの逆噴射かもしれない。とても今のこの時代に旅客機、しかもあんな小さな旅客機から出る音とは思えない。改めて、なんで遠東航空という会社は未だにこんな飛行機を飛ばしているのだろうか。「感謝」の気持ちも強いが、同じぐらい「疑問」の気持ちも強いことは事実だろう。

 と同時に、今度は離陸便の遠東MDがやってきた。まだタキシング中だというのに、彼は既に甲高いエンジン音を、空港に、いや台北の街に響かせている。ああ、MD-80の音だ。本当に何度聞いても、良い音である。この音を奏でるという点だけでも、MD-80を愛す理由としては十分すぎるだろう。僕はすぐにそちらにカメラを向ける。滑走路へ向けてタキシングしている「今」が、まさにシャッターチャンスである。ただしタキシング中は速度が遅いから、焦らず落ち着いて撮影できる。

 

2018/10/28 FE25(TSA→MZG) MD-82(B-28021) at TSA/RCSS
 

 撮れた写真を見て、MD-80の魅力がエンジン音だけでは無いことを再確認する。ちょっと間抜けな、しかし威厳も感じさせる顔。エンジンの無い、シュッとした主翼。少し奇妙で、しかし頼もしいリアエンジンとT字尾翼。なんて美しい飛行機なのだろうか。ああ、やっぱり僕はこの飛行機が大好きである。撮れば撮るほどその魅力に気づかされ、好きになる。こんな飛行機に出会えて、思う存分写真を撮れて、なんて幸せなんだろう。そう思いながら、彼の離陸を見送った。滑走路に入ってからの彼の姿は、木に隠れてほとんど見ることはできない。しかし彼は、僕の大好きな、昨日僕を虜にしたあの轟音を再び響かせて、凄い勢いで離陸していった。僕はただただその音を堪能した。

 

再訪を誓って

 これで、今回の台湾遠征での撮影は全て終えた。市場を後にした僕と父親は、今度はMRTの行天宮駅まで歩いた。行天宮駅からは中和新蘆線、板南線と乗り継ぎ、台北駅へ向かった。台北駅からは桃園捷運に乗り換えて桃園空港へ戻る。桃園捷運は、台北市内と台北桃園空港を結ぶアクセス鉄道のようなものである。ただし、空港へのアクセスのためだけに作られた路線ではないらしく、桃園空港より先へも路線は続いていた。それでも、桃園空港の利用客の多くが、この路線を使って台北市内を出入りしているということは事実である。ただし、僕の場合台北へ到着したときには時間が遅くて既に終電が終わっていたため、代わりにバスを使った。それももう2日前のことである。いや、たかだか2日しか経っていないが、この2日間があまりにも濃かったからか、遠い昔のことのように感じられる。

 

行天宮駅への道中で寄り道した行天宮。
 

 そんなわけで、このときが初めての桃園捷運の利用であった。台北の駅がとても大きくて綺麗だったことが印象的である。乗ったのは急行列車のような物だった。気持ちいいぐらいにどんどん途中の駅を飛ばしていく。その道中では山の中を通過していくようなシーンもあった。結局、急行に乗っても桃園空港までは40分ほどかかった。こうして見ると、やはり桃園空港の立地はお世辞にも良いとは言えないだろう。まあ、成田よりよっぽどマシであることは自明であるが。

 

桃園捷運の台北駅。やたら天井が高い。
 

 そうして、桃園空港には12時半頃に着いた。今日はただの日曜日、明日は普通に学校で授業がある。そう、僕は今日中に日本に到着しなければならない。帰りの便は、行きと同じチャイナエアラインで、CI108便である。この便は、台北桃園空港を14:40に出発し、成田空港に18:45に到着する。空港にはこのぐらいの時間に着くのが安パイだろう。ここで、台湾での最後の晩餐(昼ご飯)を食べる。最後に選んだのはマックであった。果たしてマックの味は国によって違うのか、確かめたかったらしい。まあ、ここは中学生のセンスといったところだろう。

 

桃園空港で食べたマック。
 

 マックを食べて、いよいよ父親ともお別れである。父親の台湾出張は、この先ももう少し続く。行きと同じように、帰りも僕は一人で国際線に乗り、日本へ帰らなければいけないのだった。しかし、良い意味でも悪い意味でも、もう行きほどのドキドキはない。行きに初めて一人で国際線に乗ってみて気づいたことは、「意外とたいしたことない」ということである。まあ、これは台湾線だったからというのもあるかもしれないが、特別英語力が必要というわけでもないし、難しい手続きが必要というわけでもない。ということで、このときの僕はもうなんのドキドキも感じること無く(いや、0ではなかったかもしれないが)チェックインカウンターへ向かったのであった。いかにも国際線に乗り慣れているかのように振る舞えるのは嬉しかった反面、行きに感じていたドキドキをもう感じることができないというのは少しさみしかった。

 

 その後僕はすんなりとチェックインを済ませ、手荷物検査も通過し、台湾を出国した。早速搭乗口に向かってみる。そこにいたのは、スカイチーム塗装のA330であった。いわゆる「特別塗装機」である。いやいや、どうせ機内は同じなんだから、乗るときにこんな運はいらないんだよ~とぼやきつつも、内心はちょっと嬉しかった。搭乗時刻までは結構時間が合ったが、特にやることも無かった僕はベンチでひたすら待っていた。行きとは違い、おそらく帰りは定時で出発したのではないかと記憶している。

 

搭乗機。スカイチーム塗装だった。
 

 座席は、進行方向右側の窓側の席だった。太陽を背にして飛ぶような感じで、とにかく夕焼けがきれいだった。機内食も普通に美味しかった。機内での思い出はそれぐらいで、あとはなにをやっていたのかあんまり覚えていない。行きと同じようにひたすらテトリスをやっていたのだろうか。ただ、初回の台湾遠征にしてとても良い成果を得ることができ、終始良い気分だったのはたしかだろう。

 

 
機内食。見た目も味も無難な感じで美味しかった。
 

 CI108便は、成田空港におおよそ定刻通りに到着した。行きと同様、降りるのを最後のほうまで待ち、キャビンショットを撮りつつ飛行機を後にした。その後の入国でも手こずるはずも無く、晴れて僕は日本に帰ってきた。大きな成果と最高の思い出と一緒に。にしても疲れ切っていた僕は、普段は高くて敬遠しがちな成田エクスプレスに仕方なく課金し、帰路に就いたのだった。

 

 
決して新しいとは言えないA330の機内。
 

 今回の旅は、総じて最高な旅だったと言えよう。あれだけたくさんの遠東MDを見れて、エンジン音を堪能することができた。MD-80の新たな魅力に気づくこともできた。そしてなにより、あれだけたくさんのMD-80が現役バリバリで活躍している地に、自分の身を置くことができた。これだけも最高の経験であった。



 さらに、今回の旅はそれだけではない。天気にも恵まれ、数々の傑作を持ち帰ることもできた。台北の街を背に台北松山空港を目指す遠東MD、最高の天気の中着陸していく遠東MD、その美しいスタイルが目立つタキシング中の遠東MD。もちろん、昨日撮った、青空の下真上を通過していく迫力満点の遠東MDや、T字尾翼のカッコよさが際立つ正面気味の遠東MDも、僕の中では傑作である。初回にしてこれだけ良い写真をたくさん持ち帰れたのは、想定外であった。



 では、台湾遠征はこれで満足なのか?これが最初で最後の台湾遠征となるのか?答えは当然「NO」である。僕は近い将来、再び台湾を訪れなければならない。なぜなら、今回は失敗だって何度もしたし、「より良い写真を撮るため」の学びも多くあったからだ。僕はまだまだ満足していない。昨日の撮影で失敗した、「ビル越しに見える遠東MD」や「夜の空港に佇む遠東MD」の写真はもう一度撮り直しに行かなければならないだろう。それに、台北松山空港にはほかにも撮影地がいっぱいある。例えば「台北101」と飛行機を絡めて撮れる所とか。全撮影地を制覇するぐらいの勢いで、色々な撮影地から遠東MDを撮ってみたい。台北松山空港になら、それを可能にするぐらい遠東MDの便もたくさんあるだろう。

 もっと言えば、次は別の空港を試してみるのも良いだろう。遠東MDは、台北松山空港以外にも、台北桃園空港や高雄空港などにも就航している。それぞれの空港では、それぞれの空港でしか撮れない写真が撮れる。きっと遠東MDも、台北松山空港では見せないような一面を見せてくれるのだろう。



 台湾は、MD-80好きの僕にとって、そして遠東MD好きの僕にとって、本当にたくさんの夢が詰まった場所である。僕にとって一番の希望は、遠東MDがあと4年飛んでくれるということである。4年も飛んでくれるのなら、チャンスは十分あると言っていいだろう。この4年の間に、できるだけ台湾に通おう。できるだけ多くの場所で遠東MDのいろいろな姿を見てみたい。もし撮影に失敗したら、リベンジしに再訪すればいいのである。成功するまで何度も訪れればいいのである。まだまだあと4年もある。これだけ時間があれば……。

 


 家に着き、パソコンを開いて、今回の遠征で撮った写真を取り込む。そしてざっと編集をしてから、僕が自分の手で写し止めた遠東MDの雄姿をしばらく眺めた後、僕は早速次の台湾遠征の計画を練り始めるのだった。