二人の少女は、それぞれが選んだ「最高学府」というブランドの陰で、誰にも言えない二重生活を完成させていた。
あゆみの大学での生活は、眩いばかりの光に満ちていた。
母親の監視から逃れ、社交的な「仮面」を使いこなす彼女の周りには、常に華やかな友人と金のかかる遊びが溢れている。
だが、金融業界で働く父と専業主婦の母という家庭は、決して無尽蔵の富があるわけではない。
「……お金が足りない」
あゆみは自身の市場価値を冷静に計算した。
最初は、割の良い「高級メンズエステ」の門を叩いた。
そこは表向き、セラピストが男性客に癒やしを提供する場所だった。
しかし、いざ研修が始わると、あゆみは猛烈な吐き気に襲われた。
「どうして私が、この冴えない男たちの欲求不満を解消するために、顔色を窺って『奉仕』しなきゃいけないの?」
指先で男の肌に触れ、彼らが望む「優しい女の子」を演じることへの、根源的な拒絶反応。
それは、かつて母親の顔色を窺って「良い子」を演じていた自分への嫌悪と直結していた。
あゆみにとって、男の劣等感や性欲を優しく包み込むような「奉仕者」になることは、精神的な死を意味した。
彼女はわずか数日でその店を辞め、自身の「本質」を金に換える場所へと舵を切った。
それが、SMや特殊な倒倒錯に特化した、M性感の「女王様」というポジションだった。
あゆみのプレイスタイルは、冷徹だった。
彼女はもはや、男を癒やしもしないし、奉仕もしない。
「私はあなたたちのための器じゃない」という怒りにも似た拒絶を、そのまま「支配」へと転換したのだ。
一方、医学部に進んだ直子は、深い静寂の中にいた。
国立大学の女子学生は、男子学生から性的対象として見られることが少ない。
多くの男子は、インカレサークルで「女」を消費する。
稀に直子に惹かれる男子が現れても、その誘いの裏に、射精のための身体提供を求める性欲の影を感じた瞬間、彼女は断固として距離を置いた。
(……あなたの射精のために、私の身体を貸すつもりはないの)
直子を突き動かしていたのは、今もなお、男性の肉体を快楽の渦に陥れ、その崩壊を観察したいという純粋な知的好奇心だった。
だが、佐藤という「検体」を失った今、大学という閉鎖的なコミュニティで新しい実験台を探すのはリスクが高すぎる。
「あゆみ、私をあなたの『仕事』に混ぜてくれない?」
直子の提案は合理的だった。
あゆみが「女王様」として男の精神を蹂躙し、支配する傍らで、直子が「専門職」として前立腺刺激を担う。
あゆみが経営する個人活動のパートナーとして、二人はアプリを通じて「潤沢な資金を持つ、ハイクラスなM属性の男性」を慎重に選別し始めた。
活動の場は、都内の高級ホテルのスイートルーム。
あゆみは冷徹な女王として君臨し、社会的地位のある男たちが全裸で跪く様を愉悦を持って眺める。
そして直子は、医学的な知識に裏打ちされた指先で、彼らの「急所」を執拗に攻め、崩壊へと導く。
「苦しいのね。……大丈夫、もっと深くへ行けるわ」
直子の声は慈愛に満ちているが、その瞳は絶頂の瞬間に男が浮かべる苦悶と知性の死を冷酷に観測していた。
一晩で支払われる対価は、一般的な初任給を遥かに凌駕する。
あゆみは、自身のステータスを誇示し、欲望を満たすための資金が手に入ること、そして何よりエリートたちの尊厳を解体することに深い満足を覚えた。
施術が終わった後、あゆみは「あなたの取り分よ」と、直子に多額の現金を渡そうとする。
しかし、金銭に不自由せず、物欲も希薄な直子は、それを一顧だにせず首を振る。
「いらないわ、あゆみ。私は、彼らの『中身』が壊れる瞬間を見られただけで、十分に報酬を受け取っているから」
あゆみはそんな直子の、真理への純粋すぎる狂気に改めて畏怖を感じる。
だが、その狂気こそが、あゆみの「支配」をより完璧なものにするための最高のパーツだった。
二人の少女は、東京という巨大な都市の密室で、同じ「男という装置」の深淵を見つめ続けていた。
一人は女王として彼らを蹂躙し、一人は聖母のような顔で彼らを解剖する。
その歪な共犯関係だけが、彼女たちが正気でいるための唯一の紐帯だった。
「……ねえ、直子。昨日の客、射精した後に泣き出したわよ」
「素敵ね、あゆみ。その涙、何色だった?」
喫茶店の隅で、二人の仮面の下から、冷たくも美しい微笑みが零れた。
──完──