スポーツとセクシャルハラスメントを考える
スポーツ界の常識は社会の非常識今回は、マッサージ行為とスポーツ界のセクシュアル・ハラスメント&アビュース(性的いやがらせと虐待)との関わりの問題について書いてみたい。 医療関係者が多い本誌の読者の方々にぜひ知っていただきたいと思う。 マッサージについては「医師以外の者で、あん摩、マッサージ若しくは指圧、はり又はきゆうを業としようとする者は、それぞれあん摩マッサージ指圧師免許、はり師免許又はきゆう師免許を受けなければならない」と法律で定められている。(あん摩マッサージ師、はり師、きゆう師等に関する法律/法律217) しかし、これは家庭内で例えば子どもが母親の肩をたたいたり、部活で選手同士がマッサージをし合うことを禁じたものではない。 「業としようとする者」ではないからである。 私が問題としているのは、「マッサージ」を口実にわいせつ行為に及ぶ指導者が決して少なくないことだ。 現実、マッサージ行為による強制わいせつ罪で起訴、逮捕される例が目立っている。 具体的な例を挙げると、 ◆事例1 この指導者は強制わいせつ罪で起訴、逮捕され、現在公判中だが、以下はその罪状のひとつであるマッサージ行為についての公判でのやり取りである。(公判で公開されているので、差し障りないと判断し掲載) ◇被告の証言「競技団体の講習会でトレーナーのような人からリンパマッサージ、低周波、キネシオテープの講習を1回受けて、それを部員に施した」(恥骨を触ったのでは、という検事の問いに)「恥骨か足の付け根かといわれれば付け根だと思う。リンパマッサージをしたまでで、わいせつ行為ではない」 ◇被害者側「低周波と称し、横にされ下着の中に手を入れられた。リンパマッサージと称し、恥骨や胸を摩られた」 ◆事例2 この件は逮捕、送検までいったが不起訴処分になっている。この指導者はある実業団チームの指導者からマッサージ講習を受け、その指導者はトレーニングの専門家から彼の理論に則ったマッサージを教わったとしている。それを女子選手に施療したとき、わいせつ行為が伴ったというもの。(マッサージにより)誤解を受けるような部分に触ったことはあったかもしれないが、練習の一環であった、とこの指導者は主張している。 ◇被害者側「部屋に呼び出され、スポーツマッサージと称して、下着をずらしたりはずしたりして胸に触ったり臀部を触ったりされた」 問題はとりあえず2つに分けられると思う。 1つは、マッサージという医療行為がマッサージの国家資格(免許)を有さない人によってスポーツ現場でなされてよいかどうか。 医療行為ではない、疲労回復の一助であり、ケガの防止だとか慰安的なものであると説明があっても、スポーツ現場で無資格者がテキストを見、あるいは人伝えに習っただけで、医療行為と取れることをやってもよいものかどうか。 少なくともアメリカのスポーツ現場では無資格の指導者が選手に、しかも異性にマッサージ行為をすることはあり得ない。 アスレチックトレーナー(AT)制度が確立されているという背景もある。 一方、日本ではまだスポーツ現場におけるマッサージやテーピングについて、どこまでが医療行為で、どこまでが無資格者でも許されるかは、知る限り厳密に規定されていないようである。 しかし、現にトレーナーとして職務につく人がいる限り、いつまでも曖昧にしておいてはいけないと思う。 もう1つ、これは大きな問題だが、指導者のモラルだ。 いいかえれば、マッサージ行為が、事例のようにセクシュアルハラスメントの「口実」に利用されるケースが非常に多いことだ。 無資格であるうえ、事例1のように明らかに資格が要求されるような特殊なマッサージに関しても安易に施す。 無資格者が密室に選手一人だけを呼び、下着だけにさせ身体接触を試みようとするのは、いくら「選手思い」の指導者であっても非常識としかいいようがない。 弁解する余地はない。 ところが、起訴、逮捕されたすべての指導者は「平然」とし、「スポーツマッサージの何がいけないんだ」とばかり開き直る。 モラルの欠如は著しい。 無資格の指導者のマッサージ行為に対して、それがわいせつ行為に及んだことを、その指導者が所属する競技団体に言及したところ、その回答は「指導者と選手の間に同意があれば問題ない」というものだった。 選手が指導者に一方的になされているという現実を知らなさすぎるのではないか。 指導者ができること、してよいこと、できないこと、してはいけないこと、そのガイドラインを明確にすること。 それはマッサージが典型ではあるが、他にもいろいろある。 マッサージという医療行為の資格を有する人のためにも、また指導者自身のためにも。 そして何よりも選手のために、明確な指針を早急に作るべきである。 ■セクシュアル・ハラスメント&アビュースに関するガイドライン試案 以下はそれぞれ、出典に基づいて作成したガイドライン試案である。 ヨーロッパおよびカナダ、アメリカ、オーストラリアなどでは、オリンピック委員会や各競技団体、行政が積極的にセクシュアルハラスメント&アビュースの問題と取り組み、調査始め啓蒙・防止活動に努めている。 その基本となるのがガイドラインである。 現状を見ると、日本の立ち遅れは否めない。 ガイドラインを1日でも早く作成し、現場に広く行き渡らせるべきだと思う。 (編集部注/9月3日財団法人日本陸上競技連盟が「倫理に関するガイドライン」を発表、その中でセクシャル・ハラスメントについて記している。この内容については、また別の機会に紹介したい) ◆セクシュアル・ハラスメントとは何か。 セクシュアル・ハラスメントとは「望まない、たび重なる執拗な性的な行為」のことであり、次のような事柄を含んでいる。 -記述や口頭による言葉での侮辱や脅迫 -性的な批評 -冗談、わいせつなうわさ話、性に関する中傷 -身体、衣服、結婚に関わること、性についての嘲笑 -はやしたて、いじめ -できばえや自尊心を嘲笑したり、傷つける -性あるいはホモセクシュアルに関する落書き -性に関する悪ふざけ -性的な注目や誘い、親密な関係を迫る -ミーティングやトレーニング時間、設備の支配・独占 -恩着せがましい態度や、えこひいき -身体への接触、愛撫、つねる、キス -性的な暴力行為 -いたずら電話や写真撮影 -性行為を無理強いする ◆性虐待とは何か 性虐待とは、虐待する者による性的行為が許容しやすく、拒否できないこと、そしてトレーニングや日常的な行動の一部であるとアスリートが信じるほど入念に仕込まれた場合に起こる。 それは次のような事柄である。 -報酬や特別扱いを受ける代替えとしての性的な要求 -身体に触ること -性器などの露出 -レイプ(rape) -アナル、バギナへのペニス、指、あるいは物体の挿入 -性的行為の強要 -性的暴力(sexual assult ) -身体的、性的な暴力(physical or sexual violence) -近親相姦(incest) 注:以上は、Women Sport International による「スポーツにおけるセクシュアルハラスメント・性的虐待」(Sexual Harrsment And And Abuse In Sport )に関する啓発リーフレットから抜粋。 翻訳は松岡智子氏。 ◆指導者のためのガイドライン ◇ハラスメントの影響 ハラスメントは、どのような競技レベルでも年齢でも、男性でも女性でも起こり得る。 ハラスメントの問題が正しく認識されていないと次のような影響がある。 1 健康への妨げや影響 2 生産性や効率の低下 3 仕事やスポーツ活動への参加が低下 4 自尊心を傷つける 5 仕事、学業そしてスポーツパフォーマンスの低下 6 家族や個人の問題を生み出す 7 スポーツや社会活動からのドロップアウト 8 好ましくない、不愉快な環境を作り出す 9 チームや組織内でのモラルの低下 10 チームや組織、スポーツの社会におけるイメージや評判をなくす ◇個人的な関係 すべての指導者とアスリートの親しい関係が、指導者の職権乱用(ハラスメントとみなされる)によるものではないが、そのような関係は危険である。 これは指導者とアスリートの間には、アスリートが合意関係を法的に認められた年齢に達していても、権威、成熟度、地位、そして依存度において、大きな違いがあるからである。 指導者と大人のアスリートの個人的な関係は、法律的に違反していなくても、関係しているアスリート個人、他のアスリートや指導者、そしてスポーツのイメージに悪影響を及ぼすことがある。 なぜなら、指導者の大きな権力が、そのような関係を助長する危険性があり、指導者は、年齢に関わらずアスリートと身体的な関係を持たないよう注意すべきである。 他分野の専門家、医師、カウンセラーなども患者や相談者の身体面や精神面において責任がある職は、似たような倫理規範を適用している。 指導者はアスリートとの個人的な関係を避けるだけでなく、アスリートからのいかなる身体関係へのアプローチも倫理的見地から説明し、思い止どまらせなければならない。 ◇倫理的行動のためのルール この行動規範は、スポーツにおける明るくて安全でハラスメントのない環境を実現するために役立つものである。 1 コーチの行動はいつも明瞭なプロフェッショナルなものであること、アスリートと共に行動をはっきりさせておくこと、アスリートの不安を和らげる大切さを理解すること、アスリートに触れる場合は、事前に指導者の意図を言葉で説明すること(インフォームドコンセント) 2 常に違った価値観を持つ二者がハラスメントに関係してくる。 ある行為に対して片方の認識は、もう一方の認識とは根本的に違うかもしれない。 認識は、過去の経験に影響されている。 指導者の独断的なやり方は、意図的ではないにしても、アスリートに不快感を与えたり、気を悪くさせたりしているかもしれない 3 指導者がアスリートに接触する時、指導者の意図とアスリートの解釈は、文化的な違い、宗教的な意味、年齢、性別、性嗜好、元気か病気か、障害があるかないかなど身体の状態などによって影響されることを理解する 4 接近の度合いに対して意識を持つこと、不必要な接触は、相手を不快にさせる可能性があることに気づくこと 5 身体のどこの部位に触れているか気をつけること、同じ行為でも親愛を込めたものにも性的な意味を持つものになる。 わき腹を支えるのと肋骨を触るのには違いがある。 性的な部分に近い部位に触れることは許されない 6 指導者の身体のどの部分がどのくらいアスリートに接触しているか注意すること。 他者から触れたり、その体温を感じたりすることは、相手に嫌な感じを引き起こすかもしれない 7 着る/脱ぐなどの表現は、アスリートに「触られる」という感覚をもたらすことを認識すること 8 接触は、その長さや度合いによって違った意味を伝えてしまう。 これらの意味は、指導者による意図的なものである(ない)かもしれない 9 施設を安全にするために必要な対策を取ること(例えば、照明の不備、落書き、ゴミや壊れた窓について報告する、害のある掲示物などを窓から取り除く) 10 どんな要素がセクシュアル・ハラスメントや性的暴力として報告できるか理解し、状況に対応できるように準備する 11 指導者は、相当な権力と権威をアスリートに持っていること、そしてそれを乱用してはならないことを理解し、遵守する 12 若いアスリートには、特に注意すること。彼らは指導者への愛着心から自分たちの行動の意味を理解していないかもしれない。 彼らは指導者との個人的な関係を望むかもしれない。 しかし指導者は、アスリートとどのような個人的な関係も持たないようにすることが必要である。 指導者は自分自身とアスリートの間に適切な境界線を持つ責任がある 13 他に誰もいない、または気づかれないような状況でアスリートと活動するのを避けること。 これには、アスリートと二人だけで部屋にいること、車にいることなども含まれる 14 チーム内、指導者やサポートスタッフの中にはレズビアン、ホモセクシュアル、両性愛者の人々がいると思っておくこと。 彼らがどんな人々であるかを確認されることなしに雇用されたとしても、指導者は決してゲイに対する偏見や性嗜好に対する差別を認めてはならない 15 アスリートの障害について、それが唯一の必要な調整方法でなければ、指導者は障害ばかりに目を向けてはならない 16 障害を持つアスリートに対しては特に年齢に達した行動や言葉使いをすること。 17 罰として運動させないようにすること、アスリートの年齢、性別、体力レベル、障害者かどうかに応じてトレーニング法として運動を実施すること 18 さらに注意すること ◎コメントは、人にするのではなく、パフォーマンスに対してすること ◎仲間の指導者やアスリートについて公の場で批判しない ◎相手を汚すようなこと、侮辱すること、困らせたり攻撃的な言葉を使ったりしてはならない ◎対戦相手や審判には勝っても負けても尊重心を持って接し、他のアスリートも同じように行動するよう奨励する ◎乱暴な行動に寛容であってはならない ◎不快感を起こすような不適切なマナーでアスリートの身体を見てはならない ◎他のアスリートの悪口や品格を落とすようなことを絶対言ってはならない ◎性差別や人種に対する冗談や性嗜好の違い、他のアスリートや指導者の障害に関する冗談を言ってはならない ◎他のアスリートについての性的なあてこすりを言ってはならない ◎他のアスリートの身体や体重を冗談にしたり、コメントしてはならない ◎他のアスリートの性的嗜好を外見から判断してはならない ◎あの人はゲイだからこうであろうなどと仮定してはならない ◎指導しているアスリートをデートに誘ってはいけない ◎セックスとの対価にアスリートを優遇してはならない ◎障害者であることを理由に指導からアスリートを除外してはならない ◎障害を持ったアスリートには、健常者と同じレベルで尊重し、個人の判断に任せること ◎ハラスメントとされるどんな行為にも関わってはならない 注:以上はNPO法人ジュース(JWS)が作成した「ハラスメント・フリー・スポーツ/コーチのためのガイドライン」を、ジュースの了解を取り、参考にした。 「コーチ」は「指導者」に変えた。また文中表現でやや変えた箇所がある。 2002年12月13日 山田ゆかり |
http://www.atacknet.co.jp/yamada/ より転載
名前を公表しなくても有りですね。
悲しいですが被害にあってからでは、自分の居場所がなくなってしまうのですね。
そうならないためには、警察機関への被害届けと起訴
そして、加害者本人による実名と事実の公表が絶対です。