10月の中旬に、ベルリンでトーマス・グッガイス指揮のワーグナー作曲のオペラ「ラインの黄金」、「ヴァルキューレ」、「ジークフリート」(所謂リング・サイクルから三つ)を見て来ました。このオペラは、ジークフリートと、ブリュンヒルデという主役の役柄が非常に難しく、世界で歌いこなせる人が二、三人しかいません。(いや、そんな事はないと突っ込みが入りそうですが、個人的には、歌えてていてもかなり無理して歌っている感の出ているケースが殆ど)

 

それでブリュンヒルデですが、この10年ほど安定の歌唱を誇っていたシュテンメとテオリンという歌手二人が年齢的な衰えで、歌えなくなって来たところに、既にベテランとなっているカンペという歌手が50代半ばにして初めて歌うという注目の舞台でした。

 

それとは別に、過去40年くらいクラシック音楽界の帝王的存在だったダニエル・バレンボイムが振るはずだった。彼は、パンデミックの最中に、このままリング・サイクルが振れなかったら生きている意味がないとまで言ったのですが、その彼が血管の炎症?(要するに脳梗塞ではないかと思います)で、降板し僅か29歳のトーマス・グッガイスが指揮をすると言うのも注目点でした。

 

レナード・バーンスタインが1943年に25歳でブルーノ・ワルターの代役でデビューした時や、エサ・ペッカ・サロネンが1983年にこれまた25歳でマイケル・ティルソン・トーマスの代役でデビューした時は、大変なニュースになりましたが、グッガイスが代役を務めてもあまりニュースになっていない。こうなるのは、彼が数年前から(つまり25歳の頃から)、あちこちでチョロチョロと重要な公演の指揮をしていて、既に玄人筋には良く知られた存在である事が関係あるのかと。

 

前置き長くなりましたが、感想はというと、一番印象に残ったのは、ジークフリートの第一幕でヴォータンという名の役が舞台を去り、ジークフリートが現れる間のオーケストラでした。弦の各パートが、ザワザワとせめぎ合う感じの官能感ていうんですかね、管楽器も絡んできて、音が画像的に聴こえて、まるでオリビエ・メシアンみたいだ、と思ったのですが、Yamazaki Taroさんの著書を帰りの飛行機の中で読んでいたらまさにその事が書いてあって、成る程、これは僕の幻聴ではなかったのかと、安心すると同時に、少しガッカリ🫤したのでした。

 

カンペのブリュンヒルデは予想通りの素晴らしい出来で、これだったらシュテンメの後継として十分(と言っても年齢的にあと数年だとは思いますが。しかし見た目は40代半ばだからもっといけるかも)。ジークフリートを歌ったシャーガーは、相変わらずの鉄板。ジークフリートは、彼とグールド以外では聴けないです。最近ジークフリート役を歌って注目されているクレイ・ヒリーを聴いた事がある人は、声のスケールがシャーガーやグールドと比べると一回り小さいと言っていました。なお、フィンケが居るだろうというコメントは受け付けていません。あと、ヴォータン役のフォレも素晴らしかった。コニチュニー、イアン・パターソンなどの歌手もヴォータン歌いますが、かなり差があると感じました。