3月29日に、日本でようやく封切られた映画「オッペンハイマー」を観た。この映画の原作は、2006年にピューリッツァー賞を受賞した、カイ・バード氏の「アメリカンペロメテウス、ロバート・オッペンハイマーの栄光と悲劇」である。日本での封切りまで、相当待たされた。1945年7月16日は人類初の原爆実験 (トリニティ実験) がアメリカで成功した記念日である。アメリカでの公開は、その記念日から5日後の2023年7月21日。その後、全世界で封切れた。隣の韓国では2023年8月15日の光復節(日本統治からの主権回復を祝う日、解放記念日)に封切られ、当日55万人の観客を動員した。被爆国の日本では8カ月遅れて、極めて慎重に封切られた。SNSでの反応が気にされていたからだろう。2024年3月12日には、クリストファー・ノーラン監督が出演するNHKのクローズアップ現代でも、映画が紹介された。


ピューリッツァ賞を受賞したカイ・バード氏の原作では、オッペンハイマーを追い込んでいく聴聞会がくどいように挿入されているが、映画の脚本も同様の構成であり、極めて退屈な映画となっている。これは、原作者が聴聞会の膨大な資料や、原爆製造に関わった人々へのインタビューを元にこの本を書いたためである。映画では、原爆実験の部分のみがリアルだが、他の部分は言葉のやり取りに終始し、退屈で、途中で退席してしまった。一つには、製作費を抑えたせいもあるのだろう。原作であれば聴聞会部分は読み飛ばせるので、面白く読めるが、筋立てのややこしさと、翻訳の不手際で、原作の読みづらさは残る。映画では、聴聞会を全面に押し出したため、極めて分かりづらい映画となった。


原作では、原爆を生み出したオッペンハイマーの苦悩と、その後の水爆開発反対への行動が印象深く描かれているが、映画ではその主題がほとんど伝わってこない。なぜ、アカデミー賞最多7冠になったのか、不思議に思った。



参考

①オッペンハイマー 、原爆の父とよばれた男の栄光と悲劇、カイ・バード&マーティン・J・シャーウィン、PHP研究所 上下、2007


 オッペンハイマー 異才、カイ・バード&マーティン・J・シャーウィン、ハヤカワ文庫NF 上中下、2024


 American Prometheus: The Triumph and Tragedy of J. Robert Oppenheimer、Kai Bird and Martin J. Sherwin、VINTAGE、2023