私たちは今、世界中の町のレストランや医療施設を、人工知能 (AI) と相談して決める時代に生きています。少し前はGoogleやGoogle mapでした。見知らぬ街で店を探すとき、あるいは自分の体を託すクリニックを選ぶとき、チャットGPTやGeminiなどの人工知能が教えた回答を全く真実であるかのように信じ込んでしまいがちです。しかし、そこには目に見えない罠が仕掛けられています。彼ら人工知能は、ネット上から情報を読み込むからです。先日、私が神戸三宮のイタリアンレストランで経験した出来事、そして命に直結する医療機関選びという二つの視点から、情報の信頼性について深く考えてみます。
徹底したデジタル対策が生む情報の歪み
先日、AIのGeminiで高い評価を得ていた、神戸三宮にある隠れ家的なイタリアンレストランを訪れました。7000円という決して安くないコースを予約し、期待に胸を膨らませて入店しました。しかし、そこで待っていたのは期待とは真逆の光景でした。店内は清掃が行き届かず、汚れが目立ち、調理場は物が散乱して目を覆いたくなるような状況でした。肝心の料理も価格に見合うどころか、一皿ごとに不満が募り、最後まで食べ進めるのが苦痛なほどでした。あまりの惨状に、途中で何度も退出しようと思いました。
驚いたのは、店主自らが毎日徹底したSEO対策を行っていると語ったことです。その瞬間、私は呆気に取られると同時に、目の前で起こっていることの正体を理解しました。
SEO対策とは、Google検索などで自らの情報が上位に表示されるよう調整する技術のことです。つまり、その店が高評価を得ていたのは、料理の質や誠実さの結果ではなく、ネット上の数字を操作する技術に長けていただけだったのです。口コミ追加も業者に頼めば、何とかなります。料理の味や店の清潔さよりも検索順位を優先する店。ネット上の高評価は、時として技術やお金で買える虚飾であることを痛感した瞬間でした。店主は、自社サイトのブログに、AIを使って生成した膨大な記事を毎日投稿し、検索上位に食い込むことだけに心血を注いでいたのです。
物理世界が発する嘘のつけないサイン
ネット上の文字情報は、いくらでも美しく飾り立てることができます。しかし、物理的な空間には隠しきれない真実が必ず現れます。テーブルのベタつき、床の隅に溜まった埃、スタッフの雑な所作。これらは、オーナーが画面の向こう側の数字を増やすことに腐心し、目の前の客や料理に対する敬意を失っている何よりの証拠です。
こうした物理的な違和感は、私たちの直感が瞬時に捉えます。デジタル上の美辞麗句に惑わされていると、この直感が鈍ってしまいます。どんなにネットで絶賛されていても、足を踏み入れた瞬間に感じる空気の淀みや不潔さは、その店の本質を雄弁に物語っています。デジタルの光に目が眩み、目の前にある物理的な綻びを見落としてしまうことこそ、現代の消費者が陥りやすい最大のミスと言えるでしょう。
命を預けるクリニック選びにおける情報の選別
レストランでの失敗は、最悪でも、お金と時間の損失で済みます。しかし、これが医療機関選び、つまり命に関わる選択であった場合、情報の見誤りは取り返しのつかない結果を招きます。昨今、美容外科や自由診療を掲げるクリニックの中には、飲食業界と同様に過剰なネット広告やSEO対策に注力しているところが少なくありません。
クリニック選びにおいて、ネット上の星の数ほどあてにならないものはありません。医療における本当の価値は、待ち時間の短さや受付嬢の愛想といった短期的な満足度ではなく、医師の医学的な知識や技術にあるからです。
命を預ける場を選ぶ際に本当に見るべきは、医学部卒業後の研修先病院、研修後の病院、論文数、専門医資格の有無、そして何より他の医師から信頼されているか(紹介状の連鎖)です。これらはSEOという小細工が通用しない、物理世界に根差した客観的な指標です。
信頼を取り戻すためのアナログ回帰と今後の展望
今後、生成AIの普及により、ネット上のレビューはさらに自動化・量産され、真偽の判別は一層困難になるでしょう。口コミもGoogle mapや食べログに、AIで自動的に書き込まれる可能性すらあります。情報の洪水に溺れないために必要なのは、ある種のアナログ回帰です。プロの編集者が責任を持って編纂したミシュランなどのガイドブックや専門誌など、発信者の顔と責任が見える媒体の価値が再評価される時代が到来しています。
情報を無料で手に入れようとすると、私たちは知らず知らずのうちに、操作されたデータの海へ放り出されます。信頼できる情報を得るためには、対価を支払って質の高い媒体を選ぶか、自ら足を運んで物理的な空間を探索する手間を惜しまないことが重要です。デジタル全盛の時代だからこそ、画面の中の数字や言葉よりも、物理世界で自らの五感が捉える違和感を信じること。それが、最良の選択肢を選び取り、自らの生活と命を守るための唯一の防衛策となるはずです。
