2022年 2月5日


「人間失格」を読み終えた。堕落した人間がヤクにはまり更に堕落しながら絶望し自殺未遂を繰り返す。確かにこれは失格だろうなと思った。まあまあ面白かった。デイビッド・クローネンバーグに映画化して欲しい。昔は違法薬物に関する認識が現在とは異なっていたので、簡単に缶コーヒーを買う感覚で薬局で覚醒剤を買えたり、フロイトが鬱病患者にコカインを処方していたりする逸話をよく読む。ギリシャ語では毒と薬はパルマコンという同じ言葉を使う。いかなる薬も薬である時点で本質的に毒でもある、のかもしれない、みたいなことを古代の人々でさえも直観し得たんだろうなと思う。毒をもって毒を制すとも言う。毒を制し得るのであればその毒は薬だ。最近、ネットフリックスで第二次世界大戦のドキュメンタリーを見ている。とても面白い。ヒトラーもヤク中だった。専属医師にヤク漬けにされていたらしい。側近らに総統失格と侮蔑され数十回に渡る暗殺計画が実行されたが確か自殺するまで死ななかったらしい。先に元凶の専属医師を暗殺しておけば、歴史もいくらか変わっていたかもしれない。アメリカはムッソリーニ率いるイタリアとの戦いに置いて、伝説的なマフィアのボス、ラッキー・ルチアーノに協力を要請したと言う。シチリア島に侵攻する際にイタリア系マフィアのコネが結構役に立ったみたいな話だ。毒をもって毒を制した話は東方戦線にも及ぶ。現在のロシア、当時のスターリン率いるソビエト連邦に大戦期のアメリカは大西洋経由で物資支援を行い、ソビエトの大幅な軍備増強を促進する。ナチスのタイガー戦車(主にⅠ型)は驚異的な戦闘力を誇る優秀な兵器だったが、ソビエトはアメリカの支援で無数の戦車を製造し、ナチスを数で圧倒し勝利する。その後ソ連はアメリカと核軍拡競争を繰り広げキューバ危機、ベトナム戦争を経て、現在のウクライナの緊張に至る。理論的には核兵器という猛毒を保有する国家同士はその毒が抑止力という薬効を引き起こし戦争しないはずだと思っていたが、どうやらその理論も疑わしくなってきた。


「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」をようやく読み終えた。前半は面白く無い。後半は面白いし、終局に進むにつれて面白さが増す。前半における明白な欠陥に思えたのはトーンだ。軽く、コミカルなトーンが一貫していたが逆に重くシリアスなトーンだった方が緊張感が増してより面白くなっただろうと思う。後半に明かされる謎の真相は素晴らしかった。よく分かんなかったが、よく出来ていたような気がした。時間の概念を考えさせられた。大衆文学は表面的な問題を解決し、純文学は根源的な問題を読者に考えさせる。時間の概念について考えた結果、解答は得られらなかった。ブラックホールの内部は重力が無限大であるが故に時間が無いという。時間が無い。普通であれば、その命題は忙しいときに用事を頼まれた場合、その用事を断る際に用いる一種のメタファーだ。ブラックホールの内部ではそれはメタファーではなく文字通りの事実である。文字通り重力が無限大で、文字通り時間が無い。過去も未来も現在も無い、ある種概念的環境といえるかもしれない。時間が経過するとき、我々はそれをどのように認識し得るのだろう。時計の針が回る。太陽の位置が変わる。氷が溶ける。ビールがぬるくなる。ステーキがレアからミディアムになる。クリスマスが来る。青春が過ぎ去る。時間はあらゆる変化によって語られる一種の物語だ。時間は変化の同義語であり、全く変化が無ければ時間も無い。いかなる変化も無ければ時間も消滅してしまう。そこにどのような存在や環境や意義や理想があっても何も変化しなければ時間は消滅する。時間は外的要因と関係なく絶対的に一直線に突進しているように感じるのは、我々が常に変化する環境に存在しているからに過ぎない。根源的な問題を考えるのはいつも楽しい。