和宮❤︎和子の御伽草子

浮き草暮らし　29

(櫻井)皆さん、こんにちは。櫻井と申します。ご報告があります。この度、僕は。医学部への内部推薦が決まりまして👏👏早々に受験を終わりました。㊗️❤️相葉「翔ちゃん、聞いて〜」櫻井「はい。なんでしょう？」相葉「なんと！内部推薦で俺！！生物資源学部への進学が決まったーーー」櫻井「それは、おめでとう。将来の夢はなんですか？」相葉「動物園の園長さんになるー！」櫻井「いいねぇ👍」おめでとう㊗️💚それから。たったの一枠、例のアメリカの姉妹校。学校推薦　生徒会長✨松本潤に決定🎊やっぱり！！櫻井「アメリカでやりたいことは？」松本「何にでもトライしてみたいよ。本場のミュージカルも観たい。大リーグも応援したい。多くの人達と日本のこと、世界のこといろんなこと語り合いたい。見てみたい景色、行ってみたいところやってみたい事、いっぱいあるよ」うんうん、そうだよね。アメリカもイギリスも似合う男だ。おめでとう㊗️💜それから。夏休み明けに読書感想文やら、絵画やら、作文やら。内閣府や文科省が集めているいろんなコンテストがあるんだけど。なんと！！！うちの高校から！！！文部科学大臣賞🏆受賞者が！！！！！自由絵画の部🥇『月下の人』大野智すごい！！！これは、マジですごい！！！㊗️💙おめでとう🎊で。この絵が。この絵を描いた人との中のモデルの人が。学校中に嵐🌀を巻き起こしていた。なんと言っても絵のモデルの人は俺と成績優秀者ワンツーを競い合った人でしかも生徒会長の潤とふたりしてアメリカ短期交換留学にも選ばれた評定平均推定限りなく5✨に近い二宮で指定校推薦は早慶上智本人さえ望めば、どこでも取れるのにここに来てまさかの一般受験。さては国公立狙いだな。しかもこの男。光源氏もビックリするほどの美しい人。それを天才的に月影に浮かび上がらせた智くんは数多の美術芸術大学への進学がもう約束されたようなもんだった。第三章『愛しき人よ』終わり。第四章『それでも愛しき人よ』に続きます。暫くintermissionを挟みます。義父の容態が急変しまして急遽帰ることになりました。夫と義母のサポートの為しばらくお休みさせてください。🙇‍♀️

浮き草暮らし　28

(智)冷たいシャワーから出ると和は黙ってもんじゃを焼いてくれた。ふたりとも首にタオルを巻いて首の周りの伸びたTシャツを着て緩い半パンツは色違いでクールダウンしたはずなのに軀はまだ燃えるように熱かった。だけどもんじゃの焼ける匂いが空腹を思い出させた。ちっさい頃から、ずっと。変わらない昼ご飯。ずっと、和のもんじゃを食ってきた。和「ほれ、できたよ」智「いただきます」🙏うんめ。けど、あっつ。和「今日のは上手く焼けた」智「いっつも美味いよ？」和「前にこのプレートでやった時パリパリになっちゃっただろ？今日のは、アツアツのトロトロ・・・」智「・・・・・」そう言ってる唇をじっと見つめるうちにちゅ・・・と重なった。アツアツのトロトロの・・・唇・・・和「・・・んっ・・・」背中をトントン叩くのはもうお終いって意味？和「こら・・・んっ・・・智」やだ。もうちょっとだけ・・・和「・・・もう・・・しょうがないな」舌を絡ませてもんじゃ味のキッス。堪能して・・・智「あのさ」訊きたいことがあった。嵐芸術大学の総合文化学科。指定校推薦、お前、辞退する・・・って智「お前。どこ行くつもり？」和「智の隣」智「いや、大学・・・てか、将来」和「だから。智の隣」俺の・・・隣・・・和「・・・だけど。智がちゃんと決まってから追いかける」追いかける？和「夏休み、バイトしちゃったからさ。もちろん今から勉強するけど・・・ずっと頑張っている人に比べたらちょっと勉強量足りないかも、だろ？」智「浪人を覚悟してる・・・ってこと？」和「うん。親はアメリカ行けって言ってるけど」アメリカ・・・和「俺の性に合わないからさ。なんでも高過ぎて・・・無理」智「いつか。一緒に行こう、アメリカ」和「うん。円が高くなったら、な」智「大学なんか何処でもいい。行っても、行かなくてもいい」和「うん」智「だけど・・・俺・・・お前のこと、一生、描き続けていたい」和「・・・一生・・・」智「うん。お前の・・・顔も、腕も、身体も・・・」和「・・・・・」智「ずっと・・・ずっと・・・」和「うん」クーラーの効いた昼下がり。俺ら重なりあったまま俺はその、先生に言われた宿題動機付けの言葉を考えて・・・和は・・・その横で共通テストの過去問をスラスラ解いた。生足がスベスベで俺の足で挟み込んでそのうちにぎゅっと抱き込んで俺・・・そんなことばかりしてるのに澄ました顔してスラスラ解いて・・・167／200(国語)83／100(数学1A)智「初見？」和「うん」智「すげー」軽く八割超えてるじゃん。浪人なんかしなくても何処でも行けんじゃね？

アメンバー限定記事浮き草暮らし　27

浮き草暮らし　26

(智)始業式の朝。うちの婆ちゃんと母ちゃんそれに和の母ちゃんが揃ってゾロゾロ俺らの後を付いてきた。智「参観日？」和「ううん。余った青春18切符で栃木の温泉まで遠足に行くんだって」智「へーーーー」翔くんや相葉ちゃん、それに潤が「おはようございます」と挨拶して物珍しそうに御一行を見送った。智「お前ん家の母ちゃん、休み？」和「うん。余ってる年休、消化だって」智「へーーーー」体育館にそのままゾロゾロ集まって校長先生の話、生徒会長・潤の挨拶。あっさり終わってで、教室に移動。夏休みの提出物を回収したり担任の先生の話があったり・・・あ。おばちゃん先生が廊下から教室のドアを細く開けて・・・俺らに手を振ってる。👋古典の先生「二宮くん。大野くん。後で進路指導室に寄って」和・智「はい」午前中で終わりなんだけど和が朝一番で提出した例のポートフォリオに古典の先生が芸術の先生と一緒になって遠慮なしにバシバシ赤を入れたのを返却してくれた。古典の先生「題名だけど」智「はい」古典の先生「『月下の』・・・ってことは」智「はい」古典の先生「写真も月明かりで撮った方が」和「あーーーー！」芸術の先生「言葉で表現されている部分がとてもロジカルでそれはそれで良いんだけど・・・もうちょっと、情熱的な部分というか・・・」古典の先生「動機付けのところね？この絵を描く、なんというか・・・」智「・・・欲・・・というか情動・・・的な？」芸術&古典の先生「そう！それ！！！」芸術の先生「難しい言葉を知ってたね。国語科教育の勝利ですね」古典の先生「いや。芸術科でしょう」和・智「・・・・・」情動・・・なんて言っちまった。俺らはじっと見つめ合った。古典の先生「月明かりで写真を撮るのと動機付けのところは大野くんの言葉で捻り出してもらって・・・それから、二宮くん」和「はい」古典の先生「あなた、推薦ではなく一般でいく、それでいいのね？推薦もより取りみどりだけど・・・」和「はい」古典の先生「第一志望は・・・」和「共通テストを受けてから決めます」古典の先生「了解です。国公立ね」初耳だった。帰ってよい、と言われて・・・日陰のない昼間。炎天下。汗をダラダラ流しながらマンションまで歩いた。和「もんじゃ・・・食ってく？」智「うん」コイツの家、久しぶり。ここんとこ、ずっと。和の母ちゃん居たから。クーラー、ピッと付けて・・・和「水、浴びる？」智「おう」ふたり、制服を脱いで・・・和が先に風呂場に入って・・・シャワーの音が聞こえてくる。俺・・・俺・・・ぴょんと勢いよく主張するソレを隠すことも出来ないまま・・・真っ白なシルエットが冷たい水を浴びているのをもう・・・たまらない気持ちで・・・・・・いや。交代でシャワー浴びよう、とパンツ履きかけた時ガラリと開いた浴室のドアの向こうから真っ白な手が伸びてきた。和「早く入れよ」なぁ・・・俺のこと・・・嫌いになんないで・・・和「・・・ぁ・・・」熱いカラダを押し付けて薄い唇を奪った。和「・・・んっ・・・」手首をぎゅっと冷たいタイルに押し付けて覆い被さるようにして冷たい水が背中に当たるのをそのままに和「・・・好き・・・」耳を・・・空耳・・・？もう一回、言って・・・智「好きだ」あ。俺が言っちまった。はぁはぁ、と息を継ぎながら透明の雫が和の白い肌を伝っていくのを綺麗だな・・・と・・・和「・・・んっ・・・」この綺麗な人を俺のものにしたくて・・・和「・・・ぁあ・・・」重なりあう裸体が勝手に揺らめく・・・ぎゅっと手首を握って握りしめて・・・抱擁もキスもやめられない・・・次、微ながらR18です。いつも読んでくださっている方アメンバー受け入れます。①アラシック成人女子②26話までのいいね必要。長くお付き合いできる方。③上記該当する旨メッセージを添えてアメンバー申請ボタンをポチと押してください。お仕事の為、承認は昼休み以降は夕方になります。

浮き草暮らし　25

(智)夏休みの終わりの日。やっぱり障子に描いた和を触ってた。　もう完成にしてもいいんだけど・・・いつまでも手放せずずっと・・・手を入れていたかった。智母「あら、和くん。いらっしゃい」和「お邪魔します」ドキンと胸が跳ねる。本人が来たよ・・・こっちに帰ってきてお互い怪我をしていたし和の母ちゃん在宅ワークでうちも婆ちゃん母ちゃんいるから・・・ふたりきりになれなくてんで・・・あれきり・・・行き来していなかった。五日ぶり・・・かな・・・和「よお」智「お、す」パシャパシャパシャ📷パシャパシャパシャ📸来るなり俺ごと例の作品をカメラに納めていく。和「題名は？」智「『愛しい人』」和「・・・・・」智「あ、いや、・・・え、と・・・『月下美人』・・・とか？『月下の人』・・・とか？」和「『月下の人』ね」もう包帯が取れたのか和の真っ白な足はハーフパンツからスラリと伸びて片足を庇う様子もなかった。和「怪我・・・だいぶ治ったね」智「うん」俺のこと・・・優しく撫でてくれる。婆ちゃんと母ちゃんが台所からこっちを見ているけれど和の手が触れたところ・・・熱く感じる・・・和「ポートフォリオ、作成するよ」智「ポートフォリオ・・・？」和「この作品を写真と言葉で紹介するの」智「いや・・・これは、出さない」和「他に何か描いたの？」智「・・・・・」和「これしか描いてないんでしょ？」智「・・・だけど・・・」和「これで、勝負しようよ」智「・・・・・」和「悩むな。考えるな」智「・・・・・」和「・・・大丈夫だから」智「・・・何が？」和「智は智のままで・・・そのままで大丈夫だから・・・」俺は俺のままで・・・和は自分家からノートパソコンやら何やら色々持ってきて三時間ほどカタカタやったと思ったら和「よし。コンビニ行こう」智「コンビニ？」和「うん。印刷予約したから」智「印刷予約？」8月下旬。まだまだ残暑厳しい炎天下。俺と和はマンションから一番近いコンビニに出掛けた。和「あ、コピーですか？お先にどうぞ。めちゃいっぱいあるんで」何人か先にやってもらってやっと順番待ちがなくなったら和は印刷機に100円玉を何枚も入れた。で。智「何枚出てくるの？」和「うーん・・・50枚くらいかな」50枚！智「しかも、これ、カラーじゃん」和「・・・写真は。一応カラーにした。だけど・・・やっぱり写真だけは写真屋で印刷してもらう方が、いいかな」智「・・・へ・・・？」和「とりあえず、これでやってみよう」智「うん」なんかよくわかんないけれどひとつ分かっている確かなことは和は、すげえってこと。和「表紙、どうするんだっけ・・・あれだ。あの、募集要項。募集要項にフォーマットあっただろ？」智「あ、これ？」和「うんうん」バーコードを読み取って・・・打ち込んでいくのは俺の名前・・・　それも、プリンターから出てきた。和「・・・まあ。これはまだ、叩き台だから」智「叩き台？」和「先生からダメ出しもらってもっと良くしていくから」へーーー。やっぱ。お前。最強だな。

浮き草暮らし　24

(和)ロクに眠れもしないのに昼頃になるまで無駄にゴロゴロしていた。時計の針が12時を回って流石に腹も減ってきて起きることにした。和「あれ？・・・居たんだ」ダイニングテーブルの上には会社の端末とノートパソコン携帯電話にコーヒー。和母「しばらく在宅勤務にするわ」へぇ・・・めずらし。和母「池田の病院。さっき問い合わせをして振込もネットで完了したから」和「ありがと」和母「もんじゃのタネ、あるわよ」和「さんきゅ」いつもなら。迷わず智を迎えに行くんだけど。母さんが在宅で仕事をしているし。まだゆっくり休んでいるかも・・・俺より酷い怪我をしてたし・・・なんて思う間に母さんがホットプレートを出してきてもんじゃを焼いてくれた。和母「あのさ」和「・・・ん？なに？」和母「アメリカ留学のことだけど」和「・・・・・」唐突に、アメリカ。和母「折角チャンスがあるのならやってみたらどうかしら？」スっと出されたのは、TOEFLの案内。短期の交換留学の時も母さんに勧められたことを思い出した。和母「費用のことなら心配しないで。父さんも会社から借りられるらしいし母さんも頑張るからさ」和「・・・・・」和母「智くん」和「・・・智が、何？」和母「ふたり相手にあんな怪我・・・」和「母さん、なんで知ってるの？」和母「大野さんから聞いたから」和「・・・ふうん・・・」和母「あの・・・障子の絵。すごいわね。惹き込まれる。すごい才能だと思う」和「うん」和母「だけど智くん。あれを出すつもりないらしくて・・・」あ。そう、それ。そう言ってたな・・・和母「聡い子よね。あれを出したら、世間様から大切な人を守れないから・・・」和「大切な人・・・って？」智の・・・大切な人って・・・和母「鏡、見ておいで」和「・・・・・」和母「あんたがさ。腹をくくってアメリカ留学でもなんでもさ。別にアメリカでなくてもいいけどさ。あの絵で・・・勝負させてやれる・・・で、あんたはあんたの道を切り拓く。それくらいの強さ、あるでしょう？」和「・・・・・」和母「ふたりがどこまで進んでいるかは母さん知らないけど・・・」まだ何も・・・進んでないよ？和母「だけど。圧倒的真実として。智くんも、和を好きなんでしょう？」和「・・・・・も？」和母「で、あんたも・・・小さな頃からずっと・・・智くんを好きだったでしょ・・・」なんで知ってるの？って、顔に、出た///和母「あんたの親を18年やってたらわかります」和「そりゃ・・・どうも」和母「先のこと、よく考えて・・・決めるのは、和自身だし。アメリカでなくてもいいけれど。自分の足で歩いて行くんだから。親は先に死ぬんだから・・・ね？」和「・・・・・」智・・・あの絵・・・出さないのかな・・・他に何も。描けていないのは、知っていた。で。あの絵が・・・和母「素人目にもあの絵は・・・本当に、素晴らしいから・・・」って、ことも・・・俺もよく分かっていた。

浮き草暮らし　23

(智)久しぶりの自分家のベッド。なんで・・・眠れないんだ？俺。どこででも眠れるのが自慢だったのに。智母「智。ちょっと、傷見せなさい」智「どこも折れていないしこんなの擦り傷だ！」そう言って母ちゃんにも傷を触らせなかったけれど和「痛かったね」優しく・・・触れて欲しい。あの指であの唇で俺にそっとそっと・・・ここひと月。当たり前に隣にいたから。今、壁一枚隔てているのがどうにも落ち着かない。違和感しかない。こんな壁。なくなっちまえばいいのに。そう思ってデコピンするみたいに指で弾いた。和「いってー」　アイツの声で脳内再生される。きっと、そう言う。痛くなくても。俺のこと、見上げながら・・・きっと、そう言う。自分の部屋に例の障子を入れたかったけれど扉のすぐ横に勉強机やら本棚やらで、すぐにベッドだから何かに当たって紙が破れちまうのも嫌だから・・・リビングに立て掛けたまま・・・それも、どうにも落ち着かない。結局。眠れないままに。あの絵を触りたくなって朝日の差し込むリビングに行った。え？目を擦ってよく見る。えええ？智「・・・婆ちゃん。何してんの？」婆ちゃんが障子にスリスリしていた。鼻を押し付けるようにして・・・智婆「大阪の家の匂いがするねん」婆ちゃん家の古い障子だかんな。昭和の匂いというか・・・日にも焼けているし何処となく埃っぽい昔の匂いもする。婆ちゃんは障子を愛おしそうに目を細めてじっと見ては障子の枠を何度も何度も撫でていた。智婆「和くん・・・綺麗やね・・・」智「うん」もうちょっと手を入れたい。軟らかい鉛筆の先を丸くして影を入れたい。智「ちょっと・・・いい？」髪はちょっと後れ毛があってここはサラサラでこっちはうねりがある。首筋は・・・細くて口元が・・・ちょっと緩んでいて・・・智母「あら。起きてきちゃったの？あの、四六時中眠ってた智が。どうしちゃったのよ？」智婆「今日は歌のお稽古、やめときます」智母「はぁ・・・お義母さんまでどないしはったん？」智婆「里心ですわ・・・」智母「里心・・・」智婆「恋しいんですわ・・・」智母「お義母さん。泣かんでも・・・」推薦をもらうためには何か作品を仕上げないといけない。んで。この絵は・・・あまりにも俺の和への恋心が溢れてしまっているから・・・表には、出せない。だけど。この絵を触りたくて仕方がなかった。他の絵なんか描けなかった。とにかく今は。この絵を触っていたかったんだ。壁一枚さえも・・・邪魔に感じて・・・どうしようもなく・・・ただアイツに触れたくて・・・

浮き草暮らし　22

(和)智のおじさんの運転で未明に東京に着いた俺たちを両家の大人達は待ち構えてた。包帯を巻かれた息子達を見てしばらく黙っていた大人達もふたりが歩いてマンションに入ると「それくらいで済んでよかった」と、口々に安堵の声を上げた。次々と質問が来るのを収支報告の紙と残高を差し出すことで黙らせた。預かったお金　¥100,000-​青春18切符　¥12,050- (2／5使用)粗大ゴミシール¥10,700-ゴミ袋、紐　¥1,530-残高　¥75,720-明け方の5時にシーンと静まりかえる。大人五人が頭を寄せてじっと見ていたけれど・・・智母「和くん。天才なの？7万5千円も残すなんて。食費は？ご飯はどうしてたの？」和「最初の日はお弁当食べて・・・それからしばらくはカップ麺とか・・・PASMOにもお金、入ってたし・・・そのうちにコンビニバイトを始めたらパンやお弁当をもらえるようになって・・・」智「あ！和の病院代、まだ払ってない！」和「あ！しまった！」和母「それはうちでこっちから振り込みます」智婆「それにしてもこんなに残してくるなんて。そろそろ仕送りしてやらんと、と思うとったのに」和「ガス、電気、水道、WiFiふんだんに使わせてもらいました」智父「大したもんやわ。もうほとんど片付いとったよ」収支や片付けの報告をするうちに徐々にいつものリビングの空気が流れ始めた。だけど・・・運び込まれた智の絵を見て・・・再び静寂というか空気が固まっていくのを感じた。父さんも母さんも息を飲んで、じっとその絵を見ていた。智ん家の大人たちもただただじっと・・・見つめてた。和父「時間が時間だし、ご迷惑だ。おいとましよう」空気を破ったのは父さんだった。母さんも「そうね」と、立ち上がった。和「お邪魔しました」智婆「ありがとうね。お礼、させてちょうだいね」お礼なんて・・・こちらこそ長い間ありがとう気を遣わないで余った青春18切符をどうします？なんて、大人の挨拶が聞こえる中俺と智は・・・智「・・・・・」和「・・・・・」ひと月以上もひとつ屋根の下暮らしたから自分の家に帰るのがなんだか間違いのように錯覚した。和「・・・おやすみ」智「・・・おやすみ」ふらふらと立ち上がりコツンと肩を当ててお別れ。隣の家に帰るだけなのに隣が寂しくてスースーする。母さんがお風呂の準備をしてくれたから湯船にゆっくり浸かった。和母「この怪我・・・どうしたの？」包帯は流石にもう取り替えないと。血は止まっているけれど足の裏の傷が珍しいのか母さんは足首を掴んで確認してた。和父「それくらいの怪我、すぐに治るだろ」和母「何か鋭いもの、裸足で踏んだの？」和「・・・うん。そうなのかな・・・」和母「どこで？どうして？」和「え、と・・・」どこだっけ・・・母親の詰問に、ちょっと狼狽えた。即答できないでいると父さんが助け舟を出してくれた。和父「和は疲れているだろう。休ませてやれ」和母「・・・そうね・・・」綺麗に洗った傷口に大きな絆創膏を貼ってくれて保護する為にまっさらの靴下を履かされた。父さんはもうスーツに着替えて出勤の準備をしている。母さんも・・・きっとこれから化粧する。ケンケンして自分の部屋に入った。真っ白な靴下を汚したくなかったから。そのままベッドに横になって・・・この・・・壁。この壁の向こう。・・・智の部屋。壁なんかなくなっちまえばいいのに・・・デコピンするみたいに指で弾こうとして・・・コツン壁の向こうから同じように考えたのか智のデコピンに・・・和「・・・いって・・・」壁の代わりに応えてやった。

浮き草暮らし　21

(和)東京の智ん家では警察から連絡があったものだからおばさんもお婆ちゃんも心配してパニックになっているという。うちの親まで一緒になって大騒ぎして「子ども達を一度連れて帰る」と、なったらしい。レンタカーに荷物を積んで戸締りをしていると昨夜のおばさんが出てきてくれた。智「あ、父ちゃん。この人」智父「え！史ちゃんか」史ちゃん「あらー。大野くん。すっかり良いお父さんになったとね？」片付けはもう少しあるけれど夏休みも残り少ないから東京へ一度連れて帰る、とおじさんが説明すると史ちゃん「これ、車の中で食べて」一度、家の中に入ったおばさんが袋菓子とケーキを持ってきてくれた。智・和「ありがとうございます」史ちゃん「今日ね。うちの息子①のお誕生日なのよ」智父「それは、おめでとう」🥳史ちゃん「チョコケーキよ。お裾分けできて嬉しいわ。きっとまた、おいで」智とふたり頭を下げた。コンビニにもご挨拶に寄ってくれた。ふたりの包帯を見た店長は慌ててた。店長「和くんだけでなしに智くんまでかいな・・・」智「すみません」和「お世話になりました」店長「バイト代の振り込みは7月分が8月25日、8月分が9月25日や。店の周り、塩撒いてお祓いしとくからきっとまた元気な顔見せてや」智とふたりぺこぺこと頭を下げて店長とバイトの人達に挨拶をした。＊ララァさんのお写真です＊車は大きな幹線道路を進みさらに名神高速道路に入った。智のおじさんは仕事終わりなのに・・・和「あの・・・運転、すみません」智父「いや。あまりにビッグニュースで驚いてアドレナリン出まくってるから大丈夫や」和「ビッグニュース・・・」智父「喧嘩にはいつも負けてた智が名誉の負傷やで？嬉しいやんか。大人の階段昇ってるんや」和「・・・あ・・・はい」智父「明日、休みもらえたし。おじさんのことは気にせんとそっちでしゅんとしてる子、頼むわ」障子を間に入れているから助手席側の智はいつもより遠かった。手を伸ばして・・・　　こっそりドキドキしながら・・・ふわふわの智の髪を・・・撫でる・・・和「・・・痛む・・・？」智「別に。これくらい・・・」和「その傷・・・さ・・・？あの・・・どうして・・・？」智「コンビニの駐車場に怪しい二人組がいてお前のこと、待ってたから・・・だから、案内すると言って案内させた。婆ちゃん家のすぐ手前まで行ったから俺、まじで焦った」和「・・・ごめん。そこで車に乗せられたから・・・」智「リュック、落ちてたとこな・・・」危なかったんだ。コンビニとお婆ちゃん家を押さえられて待ち伏せでもされたら・・・智「あの車、長いこと停まってて」いや。実際、待ち伏せしてたってこと・・・智「怪しいなぁと思ってた。俺。頑張った！」智父「ようやった。偉いぞ、智」自分の所為で智が傷付いたと思うと簡単に「ありがとう」とは言えずにいた。智「その・・・絵・・・さ」和「・・・うん・・・」智「・・・俺。それしか描けなくて・・・」満月を過ぎたお月さまの光が絵を浮き上がらせていた。高速道路を進む後ろの車のライトが時々強烈な光を放って絵の中の俺を照らす。おじさんはカーオーディオを大音量にしてこっちの会話には全然入って来なかった。智父「前に乗った人。婆ちゃんみたいな人なんかなー。さっきからド演歌ばっかり流れてくるわ。リセットされてないんやなー」♬恋をしたのも泣いたのも智「・・・俺・・・」♬そうね、あなたとこの私〜和「・・・うん・・・？」♬好きで智「他の絵を描く努力するから・・・」♬好きで和「・・・え？どうして？」・・・これじゃ、ダメなん？♬好きでいるのよ智「それは・・・あの・・・あまりにも・・・赤裸々というか・・・」赤裸々に・・・なに・・・？智「あ、いや・・・その・・・」♬あーいしているーわーモゴモゴとしどろもどろに何か呟いたけれどカーオーディオから流れる音楽があまりにも大音響で肝心の智の声は、聞こえなかった・・・皆さまの大好きな人(💙史ちゃん)がお母さんになった日です。おめでとう〜🎈

浮き草暮らし　20

(智)コンビニバイト初日の終わり。夕方から一気に大学生のバイトが入って17時で上がらせてもらえた。店長「いやー。助かったわ。これ、持って帰って。和くんに、よろしうに」袋の中にはオムライスも唐揚げ弁当もツナのおにぎりもヨーグルトも野菜ジュースまで入っていた。店長「早目に食べてね」智「ありがとうございます」帰ろうとして丸山「二宮くんのお婆ちゃん家知ってる？お見舞いに寄りたいんやけど」智「アイツの婆ちゃん家なら真っ直ぐ東の方向・・・かな・・・」和の婆ちゃん家は東京だかんな。嘘は言ってない。丸山「あ、そうなん？東いうたら、石橋の方か・・・」その、ずっとずっと東、な。智「おつかれっしたー」ひとりでコンビニの裏手から出て行くと駐車場の日影になっているところでタバコを吸っていた男らに呼び止められた。「今日、あの子来てないの？」智「・・・・・」「昨日の続き、したいんやけど」下品に嗤うふたり組・・・昨日の続き・・・って・・・！！！コイツら、か。智「・・・案内しましょか？」その車に、ひとり乗り込んだ。＊ララァさんのお写真です＊(和)その夜遅く。ガチャリと鍵が開いたから智だと思って玄関までヒョコヒョコ行くと智のおじさんだった。智父「こんばんはー」和「あ、智のおじさん」智父「えらい綺麗に片付いたなぁ。さすが和くんやわ」和「・・・いえ。智とふたりで・・・智、遅いな・・・」智父「会社帰りに新幹線乗ってきたんよ。駅前のレンタカーにも寄って車借りてきた」レンタカー？智父「どこもかしこも、ピカピカやわ」ひと通り家の中を確認した智のおじさんが和室にあった智の作品を見つけた。智父「・・・これか。・・・なるほど、な・・・・・・そうか・・・車に積むの、手伝ってくれる？」和「あ、はいっ」智父「あ、いや。足、痛いか？」和「大丈夫です」おじさんが借りてきたという割と大きめの車のシートを倒して智の作品を大切に運びこんだ。智父「ビックリせんとってや」和「・・・？？？はい・・・・・・え？・・・えええ？？？」智「・・・よっ・・・」和「よっ・・・じゃ、ないでしょ・・・」なんで・・・どうして・・・その・・・姿・・・涙がポロポロ溢れてくる。智「ごめん。ちょっとやんちゃして・・・警察沙汰になって・・・親・・・呼び出されて・・・」和「警察？」智「だけど、俺、なんも悪くないから！」智父「せや。智は悪くない。名誉の負傷やわ」車には全身、傷だらけの・・・いや、手当してもらっているけれど・・・あっちもこっちも包帯巻いた智が大事そうにコンビニの袋を持って・・・ちんまりと、座ってた・・・

浮き草暮らし　19

(智)丸山「あれ？また新人ちゃん？」智「いらっしゃいませ」丸山「ちゃうちゃう。客とちゃうねん。俺、先輩、な。丸山いいます。あれ？そこ、二宮くんのシフトやん。店長！新人くんの配置、間違えてますぅ」・・・なんだ？コイツ💢店長「いやいや、合うてるんよ。和くん、ちょっと具合悪うてな。困ってたら、ピンチヒッターでこのお人が入ってくれたんや」丸山「え！二宮くん、具合悪いん？昨日一緒に帰った時は元気やったのに。うわっ。いきなり何するん？」智「お前か？」💢丸山「へ？何のこと」店長「こらこら。大野くん。堪えてくれんか？丸山くんはやかましいけれど悪い子やない」丸山「せやで。11月26日生まれに悪い子はおらん」・・・11月26日？丸山「あ、俺の誕生日ね。覚えておいて。テストに出すよ？」智「・・・・・」丸山「なんや、生意気な新人やなぁ。睨まんでもええやんか。言われたこと、覚える気ないんちゃう？」智「・・・・・」商品の入れ替えを黙々とやる。店長「大野くんは手ぇ動いてるよ。和くんの代わりに入ってくれたんや。ええ子やわ。仲良うして。丸山くん、レジ頼むわ」丸山「はーい。あ、一応、テストね。俺の誕生日は、いつやったでしょう？」智「11月26日」丸山「うわっ。一発合格💮💯ほんまは、ええやつ？」智「・・・・・」丸山「なんや。記憶能力高い子ぉやんか。店長、ええ子が入りましたな」店長「これ。お喋りばっかりしてんとさっさとレジに入って」丸山「はーい」能力なんか、高くない。コンビニの店員になら簡単になれると思っていた。そして仕事も。余裕で熟(こな)せると豪語していた。だけど・・・きっつい。中腰で奥の商品を取り出すのも。確認して値引きシール貼るのも。いろんな商品を覚えるのも。店長「まだまだ覚えることあるよ」・・・まじか・・・・・・和。・・・頑張ってたんだな・・・＊ララァさんのお写真です＊(和)お家から一歩も出ちゃダメと言われてインターフォンも電源を外されてひとり・・・エアコンの効いた部屋で待つ。お布団の上でゴロンゴロンしながら・・・コンビニのバイトも行っちゃダメだと言われて・・・事情を説明しに行ったまま帰って来ない智をじっと待っていたけれど・・・さすがにお腹も空いてきたしトイレも行きたくなったし和「よいしょ」起きた。ケンケンして移動。白く美しい包帯を汚したくないから。用をたして顔を洗って洗濯くらいは、出来るよ。あ、そうだ。ご飯・・・何か作れないかな？ゴソゴソしているうちに太陽は高いところまで昇ってった。智。なんか、あった？携帯電話はおとなしいまま・・・ラインも既読がつかないまま・・・ピコン💡あ。一件来た。智✉️「人が足りないらしくてコンビニバイト、ピンチヒッターなう」それは・・・申し訳ない。ごめん。いや、ありがとう。洗濯物を取り込んで手拭いを作業場の和室に届けようとして・・・え・・・？・・・やだ・・・嘘でしょ・・・西陽が差し込むその部屋の真ん中にある・・・一枚の障子。そこに描かれているものを見てしまった・・・へなへなと力が抜けて太陽が沈んでしまってもしばらくそこを動けないでいた。だって・・・描かれたのがあまりに綺麗で綺麗過ぎて・・・ショックで説明できないくらいになんか・・・こう・・・ズシン、ときて・・・そのまま時間が・・・止まってしまった・・・

浮き草暮らし　18

(和)一度嫌な態度をとってしまうと素直への帰り道が分からなくなった。昨日までなんで平気だったんだろう。今・・・俺の目の前にしゃがみこむこの人のふわふわの髪が・・・俺の太ももに当たるだけで・・・触れたくてたまらない・・・・・・のに。簡単には、触れられそうに、ない。無駄にドキドキして・・・互いに裸で滑らかな肌も汗の匂いもこの人の・・・長くて美しい指も・・・何もかもがもう・・・たまらなくて・・・それが俺の足に触れると・・・それだけで和「・・・ぁ・・・」勝手に吐息が洩れた・・・智「病院に行かないと。健康保険証、持ってきてる？」和「うん。だけど・・・いいよ」智「ダメだ」和「金・・・かかるからさ・・・」智「ダメだ。手遅れになると、もっと金がかかる」和「・・・・・」手遅れって、なんだよ。いつもみたいに言いくるめようとして智「鋭いものが血管にでも入っていたら危ないだろう？」和「なんでよ？」智「お前の身体を傷付けるだろ？血管の中なんか・・・そしたら、お前・・・とにかく病院だ」逆に諭されてしまった。この時の智はいつものふにゃんとした智ではなくていつもなら俺の言う通りになるのに頑として譲らずシャワーを強制的に終了させられた俺はヒョイと抱っこされて近くの夜間救急病院に連れて行かれた。ぐーキュルキュルキュル・・・和「ラ王、食ってくりゃよかったな」ふたりしてぐーぐー腹が鳴る。智「帰ったら、速攻で食おうな」念の為、レントゲン撮ってもらって発熱していないか脈がおかしくないか診察してもらって消毒してもらって足にぐるぐる包帯巻いてもらってそれから痛み止めの薬を処方された。会計は閉まっているから窓口が開いたら払いにいく、となってそしてしばらく安静にしなさい、と。こんな夜中に高校生ふたりで来たからお医者さん、看護師さんら大人が何やらヒソヒソと話している。家に・・・連絡される・・・？智とのふたり暮らしを続けたくて何より未来への切符を手に入れたくてその為には作品が必要だから・・・とちょっとハラハラしていた。もしも親に連絡されたら「大丈夫」って、はっきり言おう。だけど、どうやら。それは、取り越し苦労だったみたい。「大野さんのお孫さん。　乗って行きなさい」今から帰るというおばさんが声を掛けてくれた。それは申し訳ないから、とふたりで遠慮していたら「怪しいもんでは、なかと。大野さん家の斜向かいに住んでると。ほら。いそぎんしゃい」関西弁とは微妙に違う・・・だけど可愛い言葉でまくし立てられた。お言葉に甘えて後部座席ふたりぎゅっとくっついて乗せてもらった。「お婆ちゃん、お元気にしてる？」智「はい」不安だから智にくっついたまま会話に入らずにいたけれどそのご近所のおばさんは夏休みが始まって俺たちが片付けをするのを毎日毎日見守ってくれていたらしい。「だいぶんと片付いたでしょう？」智「はい」青い車が夜の国道171号線を走る。闇を照らす車の白いライトが真っ直ぐに進む。「困ったことがあったらなんでも言いなさいね」智「はい。ありがとうございました」本当にご近所さんなんだ・・・その車がガレージに入っていくのを智のお婆ちゃん家の門からふたりして見守った。No.310号の青い車🚙・・・俺たちの、どうやら味方の、車・・・俺もぺこりと頭を下げた。智の隣で・・・もう空が白みはじめていた。

浮き草暮らし　17

(和)　折角もらったシュークリームはこの暑さでドロドロになっていた。弁当も・・・危ないから・・・と諦めた。智「カップ麺、ラ王でいい？」和「・・・ん・・・」キッチンで智の背中から降りると智「・・・・・」和「・・・なに？」智がじーっと見つめるから着衣の乱れがないか、確認した。動物みたいな勘が効くんだ。仲良しの相葉くんに負けないくらい智も・・・智「・・・ここ、どうした？」・・・あ。・・・腕。掴まれたところが赤黒くなっている。和「ひぇっ」足を掴まれて智の黒い目に怒りが宿った。切れたところ・・・血がベッタリと着いている。智「・・・おい・・・」和「・・・風呂、行ってくる」智「手当て、しないと」和「洗ってからで、いいよ」ひょこひょこと風呂に向かうと智も付いてきた。鏡に・・・ものすごく心配そうな智が映る。和「平気だから」智「俺が平気じゃ、ない」それでも、何故か。ひとりでシャワーを浴びたかった。なんでかな・・・和「ひとりで洗えるから！」昨日までふたりでシャワー浴びてたのに。智の前で服を脱ぐのが・・・何故か躊躇われて・・・和「嗚呼、もうっ。智はカップ麺用意すんだろ？俺はひとりで平気だから！放っておいて！！！」服を着たまま風呂場の中へと入ってピシャリとドアを閉めた。智「・・・和・・・」和「シャワー浴びるから。入ってくんなよ！」智「・・・・・」なんでこんな・・・嫌な態度、とってるんだろ・・・智は何も悪くないのに・・・心配してくれているのに・・・おんぶしてここまで連れて帰ってきてくれたのに・・・＊ララァさんのお写真です＊(智)入ってくんな、と言われたけれどその場を離れられずにいた。風呂の湯を張る音がやんでしばらくして中から白い手が伸びてポイっと服をかごに入れようとしたからその手を掴んで俺も風呂場へと入った。和「・・・・・」風呂なんて小さな頃から何度も一緒に入ってきた。裸なんてずっと・・・ずっと・・・見てきた。なのに・・・和「・・・っ・・・」俺も服を脱いでふたりシャワーを浴びると和の・・・足元に鮮血が垂れた。智「何があった？」何をされたんだ？和「なんでもない」智「なんでもなくないだろ！」この気持ちはなんだ？どうしようもなくイライラして腹の中から沸々と怒りがわいてくる。和「・・・ぁ・・・」足の傷の他に・・・手首のあざそれから・・・智「ここ。なんで・・・」胸もとに・・・引っ掻き傷がある。しかも乳首が・・・俺も故意には触れたことのない乳首が腫れているじゃないか・・・和「無事だったから」智「無事じゃ、ねーだろ」和「やられてないから！やられる前に、逃げ出したから！」やられるって・・・お前・・・逃げ出したって・・・おい・・・

浮き草暮らし　16

(和)「君、大丈夫？」小さな駅だったけれど駅員さんが気付いてくれた。さっきの車が爆音で走り去る。No.・・・確認できなかった。「お家の人に連絡するよ」和「待ってください」そんなことをされたら家に連れ戻されてしまう。智のサポートができなくなる。「いや、警察に・・・」大事(おおごと)になったら確実に智を傷付ける。和「大丈夫です。親、心配するんで。ほんと、無事だったんで・・・やめてください。ありがとうございました」背を向けてトボトボと明るい道を進む。「あ、待って。待って。よかったらコレ、履いていきなさい」それは古いビーサンだった。駅員さんの私物なのかな？「保管期限の過ぎた処分対象のものだから気にしなくていいよ」優しさが・・・滲み込む・・・和「ありがとうございます。あの・・・池田はどっちですか？」＊ララァさんのお写真です＊トボトボと、大通りを歩く。足・・・痛いけど。廻り道になるけれど、安全な道を行く。きっと・・・助かったんだ。でっかいお月さまを見ながら一歩一歩・・・進む。ねぇ・・・智・・・お家に帰ったら抱っこして欲しい。お前・・・頑張ったな・・・っていい子いい子して欲しい。エアコンの効いた部屋で一緒に・・・平和に・・・安全に・・・寝転がってさ・・・あのお婆ちゃんの歌の世界みたいにそばにあなたがいればいいいーれば、いーいきっと。大好きな人なんだろうな。だから・・・明日の苦労が見えたってついーて、いーく・・・んだよな・・・一歩。もう一歩。確実に智に近くなる。そう自分を励ましながらなんとか池田の駅前まで帰ってきた。お月さま・・・🌕高いところまで昇っちゃって・・・バイト先のコンビニ・・・あ・・・嗚呼・・・智「心配した」和「・・・ごめん・・・」智「これ・・・道に落ちてて・・・」・・・あ。俺の・・・リュック・・・智「携帯も財布もこん中で・・・俺、マジ焦って・・・今から警察、行こうとしてた」和「大丈夫だから・・・帰ろう」智「足・・・どうしたの？」和「大丈夫だから」智「・・・・・」智が背中を向けた。怒っているのかな・・・心配かけたから。連絡もしないで・・・こんな遅くなっちゃって・・・智「ほら。さっさと乗れって」あ、そういうこと？しゃがんでくれた智の背中にぎゅっと掴まって乗り上げると和「あなた、すごい汗・・・」智「ここまで走ってきたから」和「・・・ん・・・」智「コンビニの人に訊こうとして」和「・・・ん・・・」智「ここまで走って来たところでお前を見つけた」和「・・・・・」智「無事で・・・よかった・・・」和「・・・・・」智「お前さ。母ちゃんが腹痛めて産んでくれて大事に育ててくれたこと、分かってる？」和「・・・ん・・・」・・・ぐすっ嫌だ。涙・・・出てきた。智「もっと大事にしろ、・・・な？」和「・・・んっ・・・」智「俺にとっても・・・大事なんだから・・・な・・・」和「・・・ん・・・」安心したからかな・・・頬を伝う熱いものが智の背中をさらに濡らした・・・(第二章・産みの苦しみ終)こちらの再開は来週末を予定しております🙇‍♀️(第三章・『愛しき人よ』へ続く)いつもありがとうございます♡

浮き草暮らし　15

(和)国道176号・171号線の標識を何度も見た。こっちの土地勘ないけれど猪名川の横にはどうやらJRが走っていて同じところを何度もグルグルしている。どうやら人気(ひとけ)のないところを探して探して国道171号線と176号線の間でこの車は右左折を繰り返していた。そのうちに小さい子用のプールを備えたテニスコートかな・・・その大きな公園の駐車場へと車は進んだ。がらんとした駐車場。飛行機が轟音を立てて伊丹空港へ帰る。夜になったといえどもまだ暑くて車外へ出ることを男らは躊躇っていた。「綺麗だな」ひぇっ。気持ち悪い。後部座席で俺の腕を掴んでいた男に頬をべろんと舐められた。「乳首当てっこゲームしようぜ」なんだよ、それ。悪趣味だな。と、思う間にシャツの上から乳首をぎゅっと捏ねられた。和「・・・っ・・・」「お？ドンピシャ？もっと喘いでよ」誰が・・・お前なんかに・・・っ反応するかっ・・・和「・・・っ・・・」完全に俺の身体の上に乗り掛かってあちこち弄ってくる。唇目掛けて汚い口がきたから思い切り横を向いたら耳の中に舌を入れられた。おぞまし過ぎる。「おい。ひとりで愉しむなよ」運転席の男もエンジンをかけたまま座席を倒して手を伸ばしてきた。汚い手で触んなよ。どこもかしこも智専用なんだよ。足が自由だったから思いっきりその顔面を蹴ってやった。「何すんだよ！」💢それは、こっちのセリフだっての。「押さえ込んで、口に入れようぜ」男らがお粗末なものを出してくる。くっさ。で。ちっさ。俺の半分サイズ？お子ちゃまかよ。智のは、もっとデカいぜ。お前らなんかよりずっとずっと品格もなにもかもずっと上の男だ。毎晩そいつと寝てんだよ。極上の唇毎晩こっそりいただいてるんだよ。お前らなんかにやられてたまるか。上に乗り掛かっていた男が俺の乳首に直接指を入れてきたその隙に自由になった手を思い切り後部ドアの開閉ボタンへと伸ばした。むっとした熱風が強く吹き込む。飛行機の轟音で地面までもが揺れている。男「おい。逃がすな」男「逃げんな、こら」逃げるでしょ。逃げる一択。片足を引っ張られて靴が脱げてしまったけれどそんなことどうだっていい。JRの駅が見えていたからそっちに向かって必死で走った。足の裏が焼けるように熱い。何かを踏んづけた。　足の裏、切れたかも。だけど逃げた。構わず走った。走って走って、走り逃げた。

浮き草暮らし　14

(和)バイト先のコンビニは夕方から大学生らもシフトに入る。店長「お。和くん。慣れてきたねぇ」和「はいっ」店長がガサゴソと賞味期限が切れるパンやらお弁当を自分家に持って帰る分と僕らバイトに配ってくれる分をバックヤードに下げてそこにおやつも入れてくれた。シュークリーム。智が好きなやつ。和「いつもすみません」店長「いや。助かっているんよ。高校生の時給、少なくてごめんやで。同じ仕事してるのに、悪いなぁ」和「十分いただいているので大丈夫です。おにぎり一個で頑張れます」店長「和くんはマインドも最高やなぁ」丸山「か、和くん？」和「はい？」この人は、丸山くん。この近くの大学に通っていて夕方から3時間ほどだけ一緒に働く。こっちは連日8時間強入ってるから「これ、教えて？」なんて訊かれる。将来は教師になる為の教育学部の一年生ならしくてあまり年の差も感じない。丸山「よかったら、帰り。その・・・飛行機、見に行かへん？」和「飛行機なら・・・真上に」今も轟音を響かせて頭上を飛んでいるしわざわざ見に行かなくて、大丈夫。丸山「猪名川の河川敷から・・・」和「真っ直ぐ帰ります」いただいたお弁当とおやつをリュックに大切に入れて背負う。智の胃袋を満たすための今日イチのミッション。丸山「あ、ほんなら。送って行くわ」和「・・・・・」終わりの時間。一緒なんだよね・・・むげに断る理由も思い付かなくて丸山くんと阪急池田駅近くから智のお婆ちゃん家の方向へ進んだ。丸山「こっち。高級住宅街やけど実家なん？」えー・・・答える必要、ある？和「・・・実家の、実家？お婆ちゃん家」あれ？二宮家ではないもんな・・・なんて言えばいいのかな？・・・友達ん家？友達・・・いや。義実家の、実家・・・のがしっくりくる。要するに智のお婆ちゃん家だ。和「お婆ちゃん家」丸山「もしかして、下宿探してる？」和「・・・え？」どうしてそうなる？和「探してませんよ」丸山「もし。よかったら。ぼ、僕のアパート、この近くで・・・」和「お腹を空かせた子がひとりでお留守番しているんです」ぺこり、と頭を下げてご挨拶。智のお婆ちゃん家はもう少し先だけどこの辺りにお住まいならここらで失礼するのがいいよね。丸山「え？ひとりでお留守番て、犬？それとも、弟さん？」犬、ではありません。智です。弟でもありません。心の・・・恋人です♡和「おつかれさまでした。ここで失礼します」そう一気に言って頭を下げるとそのまま走り去った。「ちょっと、ちょっと」え？まだ何か用事？そう思って振り返るとそれは丸山くんじゃなくて・・・「無視したらあかんわ」車に乗った人らが声を掛けてきた。和「・・・・・」知らない人の車に乗ってはいけません。徐行して幅寄せしてくる車から一目散に逃げようとした。あと少し。あと少しで、智のお婆ちゃん家。キキキキキー！「ちょっと乗っていき」危ない。轢かれそうになった。乱暴に横付けしてきた車の後部扉がスーッと開いたと思ったら中から手が伸びてきてあ、リュックが・・・智のお弁当が・・・和「離してください」「コンビニからずっと見てたんよ。可愛いなぁ、と思って。逃げられへんよ」・・・気付かなかった。気持ち悪・・・「あの兄ちゃん、振ったんかいな」「エリートっぽいのにもったいないなぁ」下品そうに嗤う男らは車のドアを閉めてしまった。「空港近くのホテルにしよか」「防犯カメラに写るぞ。複数で入ったら目立つし」「じゃあ河川敷で」なんの相談？まさか女子に間違えられた？一か八かで言ってみる。和「僕、男ですけど」「そんなん、どっちでもええねん」・・・え？どうしよう・・・和くん、ピンチ。どうやって逃げようか・・・

浮き草暮らし　13

(和)だんだん目の前が片付いてきてそうすると智の手が止まっていることに目が行くようになった。智のことは。なんでも分かるつもりでいた。「ほら、手ぇ動かして」あなた。なんでも上手に作れるんだから。どんな素敵なものが生まれてくるのかな。智の隣でワクワクして見守ってた。だけど。・・・智が。息苦しさ？みたいなのを感じてるって・・・だからこの炎天下散歩に行ってはなかなか帰って来なくて・・・そうさせているのはこっちにこの俺に起因しているんだって・・・それも、気付いた。だからなるたけ。ため息なんかつかないようにした。いつでも。気持ちよくいてもらいたくて出来るだけ笑顔で・・・智「ちょっと散歩、行ってくる」それでも智は。熱い日差しの中をふらふらと猪名川の土手や五月山の麓にまで居場所を探して歩いた・・・智のことは手に取るように分かるんだ。服に付いた葉っぱや泥を見れば何処でどう過ごしていたかなんて察するにあまりあった。悲しいかな・・・まさかの自分が一番智の邪魔をしてるってことに気付いてしまったんだ・・・＊ララァさんのお写真です＊だけど離れられない。智から目を離して生きていくなんて俺にはできない。だってずっと。物心付いた時からずっと。そうして生きてきた。　アメリカへの研修旅行に選ばれて潤とふたりで行ってきたけれど成田を出国した瞬間からもう帰りたくてたまらなかった。智の隣に・・・「和くん。お仕事覚えるの、早いね」「ありがとうございます」コンビニのバイトはすぐに決まった。レジは一発で覚えた。切手のことやゴミシールのことさらには印刷機の紙の補充に詰まった紙の除去作業ATMに何かあった時の連絡先商品の補充古いものを前に出して賞味期限に近いものに値引シールを貼る。「あ、レジ、お願い」「はいっ」ピッと通してほとんど自動でやってくれるレジ登録。だけどサポートが必要な人もいる。「おおきに。すんまへんなぁ」「いえ。ありがとうございました」よく出るパフェやソフトクリーム。コーヒーマシーンのお手入れもバッチリ覚えた。何かすることがあるのは、救いだった。ため息を吐かなくてすむし弁当をもらって帰れば智「お！お好み焼きか。昨日のオムライスも美味かった！」腹を空かせた智が目をキラキラさせて待っててくれたし『コンビニバイトから見えてきた地域社会に貢献する小売業』なんて。レポートの題材まで拾えたから。それをスマホで打って古典の先生にメールで送ればバッチリ添削してくれる。それを直して、送信、っと。それを繰り返すこと10回ほど。9月の新学期には。推薦の為の書類がもう揃っている。エントリーシートも小論文も自分のことは、自分でなんとかできる。智のことも・・・なんとかなんないかな・・・隣でスヤスヤ眠る智のすーっと通った鼻筋にこっそり・・・ちゅ・・・っとしてなんとか。なんとか、智が。うまいこと何かカタチにしてくれたら。そうしたらちょっと先の未来の自分が喜ぶって知っていた。智とふたり喜びあえるって知っていた。そのために俺に出来る一番のサポートは悲しいかな・・・智をひとりにすること智の時間と空間の邪魔をしないことだったんだ・・・和くんsideが続きます。

浮き草暮らし　12

なかなかカタチにできないまま和也をがっかりさせるのが嫌でぶらぶらと外を歩き回るようになってしばらく経ったある日のこと。和「バイト見つけてきた」智「バイト・・・？」和「もう。ほとんど片付けもゴミ出しも終わったし。家、あけるからさ・・・」智「・・・・・？」へ？・・・どういうこと？和「だから・・・智はここで。落ち着いて、その・・・自由に、その・・・作品を・・・」あ。そういうこと？和「ここに来た日の夜に飛行機、見せてくれたでしょ。智の中にあるキラキラ・・・思い出してよ・・・ね？」俺の中にある、キラキラ・・・智「バイトって、どこで？」和「駅前の、コンビニ」智「・・・そっか・・・」コンビニで、バイト、な。・・・そっか。その日から。和は終日バイトに行くようになった。俺はひとりがらんと片付いた家の畳もあげちまった和室を作業場にしてなんとかキラキラをカタチにしようとした。だけど。飛行機は、ぼやけたまま。キラキラは、滲んだまま。何を表現したいのか自分でイマイチわかんねーまま・・・やっぱり何日も過ぎた。和「ほい。土産」智「お？お好み焼き？」コンビニの残った弁当をもらってきては俺にもそれを分けてくれてオムライスもおにぎりものり弁当もサンドイッチもコンビニ飯は、ひと通り食った。たまに。早く上がれた時はもんじゃを作ってくれて智「んめ」和「ふふふ」当たり前に一緒に風呂に入って当たり前にいっつもくっついて夜にはふたり身を寄せて眠った。♬幸せに、あーあーなれなくたってそっと咲きます、ねぇ、あーなーたあなたの為に生きたいのいーきーてゆーく・・・はははっ。婆ちゃんの好きな歌ここでも聞こえてくる。和が・・・歌うから・・・＊ララァさんのお写真です＊その日も和はバイトに行ってた。気が付けばポタポタと垂れてくる汗を指でなぞりコンビニにいっちまった和の横顔を床に描いたりして・・・相葉「またニノちゃん描いたの？」うん。そうなの。脳内再生される相葉ちゃんの声に応える。・・・俺。気が付いたらいつでも。アイツの顔ばっかり描いてるんだ・・・じゃあ、さ。それなら、さ。いっそのこと。アイツを描いちまうか。白い障子を裏返しにしてアイツの輪郭を軟らかい鉛筆で描いてみた。色を入れるより黒の濃淡で表すのがなんか、こう、しっくりいく気がしてその日俺はお月さまが高いとこに昇るまで夢中になってアイツを描いていた。薄い唇の下に黒子を入れて・・・喉仏は・・・え、と・・・帰ってきたら、確認だな。なんて。時計を見て・・・・・・あれ？遅いな・・・

浮き草暮らし　11

あっつい。　　ジメジメとした・・・湿った空気がまとわりつく。ポタポタと汗が滴るのを和「ほら。目に入っちゃうから」智「・・・わりぃ」コイツが拭ってくれるままに・・・蝉の大合唱を聴きながら・・・作業する。おかげさまで片付けはどんどん進んでった。和室の畳とか障子とか襖とか紙や木で出来ているものはそれ自体何か表現するのに使えそうだったし庭の木を伐採しては枝を落として大きな幹と睨めっこして・・・智「・・・はぁ・・・」なんか・・・こう・・・表現したいものが朧げに浮かんでは・・・智「いや・・・違うんだよな・・・」形にできないでいた。和「智。麦茶、冷えてるよ」智「ん」首からかけた手拭いで汗を拭きつつ冷えた麦茶を飲んで手が止まったそれを見てた。ガラクタ・・・にしか見えねぇな・・・和「・・・燃えるゴミに出せるものはガレージに寄せといてね」智「・・・ん・・・」頭に手拭いを巻いてテキパキと働く和は片付けも掃除もゴミ出しも完璧だった。料理も洗い物も進んでなんでもやってくれた。なんでも出来る和と・・・なんも・・・できない俺・・・和「ほら。智は手を動かして」智「・・・ん・・・」伐採した木の枝を落とすとかそういう作業のあるうちは、まだよかった。そこから何かを産み出そうとして・・・和「・・・♡・・・」キラキラの目を向けられても・・・なんも・・・なんも・・・期待に応えられねえまま・・・智「・・・ごめん・・・ちょっと、散歩してくる」何も生み出せないでいるのが苦しくて・・・悔しくて・・・それらしいものを作ってもなんか、こう・・・違くて・・・さっき、いじったものをガレージに出す。和「いってらっしゃい」智「・・・・・」廃材さえ手に入れたらカタチにできると思っていた。甘かった・・・婆ちゃん家はどんどん片付いていくのに俺は・・・全然ダメで・・・全然・・・まだ何も・・・生み出せないでいた・・・

浮き草暮らし　10

和「うわぁ。ここ、空港が見える」婆ちゃん家のベランダからは伊丹空港が一望できた。夕方に近付く高い空には半分のお月さまがまだ白いままポツンと浮かんでた。智「夜になったらさ」和「うん」智「ジェットポイントまで行こうぜ」和「ジェットポイント？」智「うん。お前に、見てもらいたい景色がある」和「へえ・・・楽しみ♬」まだ日があったから家中の雨戸を開けて風を通すと庭の草花から夏の匂いがした。家はある程度片付いていて綺麗だった。玄関傍の納戸には収集を待つ不燃ゴミが纏められていた。父ちゃんが。ある程度、頑張ったのがよく分かった。自治体のパンフレットでゴミの出し方ルールを確認。ふたりして何度も読み合わせをする。資源回収に出せるもの、曜日。粗大ゴミの連絡先、値段など。和「これ、連絡するね」智「あ、うん」親父。途中までやったはいいけれどきっと仕事の都合で東京に帰らないといけなくなってそのままにしないといけなくて・・・やっぱり和がいてくれて、よかった。俺らが滞在中にまだお世話になる家電とリユースできそうなもの以外の大きなものに和がテキパキと付箋を貼っていく。そこには回収日と時間が書き込まれて買い足す粗大ゴミシールの値段を携帯電話のメモに打ち込んでた。な。すげーだろ。誰にも貸してやれねーけど。すごいんだよ。うちの和。んふふふふ。こんなの業者呼んで30万なんて馬鹿げてるよ。もちろん俺も。ちゃんと手を動かしたよ。和「・・・智。これ・・・」智「うわー。懐かしい」納戸の奥から出てきたそれは。家族のアルバムだった。父ちゃん母ちゃんの結婚式・・・俺の赤ちゃんの時の・・・あ、亡くなった爺ちゃんを囲んで・・・婆ちゃん、若い頃綺麗だな・・・和「これ。東京に送る？」智「うーん・・・ちょっと考えてから」感傷的になっていたら片付けなんて進まない、けれど・・・これは、ちょっと保留。親が持たせてくれたおにぎりの残りをふたりでつまんで冷蔵庫にあった新しいお茶2ℓをふたりでガブ飲みして智「和。ちょっと散歩に行かね？」和「うん！」片付けの途中で埃っぽくてしかも思い出のフォトアルバムでちょっとセンチメンタルになってたから外の空気も吸いたくなっていた。戸締りをして財布と鍵だけをポケットに入れてふたりで向かった先は・・・和「飛行機、近っ」そう。約束の、ジェットポイント。もう天国へ逝ってしまった爺ちゃんがよく連れて来てくれた散歩コース。智「羽田の離着陸もワクワクするけど」和「こんなに近くまでは無理だよね。舞浜の方から見る時は対岸だし」帰ってくる飛行機飛び立っていく飛行機その先に待っている人は誰ですか・・・なんて・・・ふたりで何機も何機も見守って・・・智「ずっと・・・」和「・・・ん？・・・」智「和に見せたかった」和「・・・・・」智「小さい頃からずっと。婆ちゃん家に来るたびに、ずっと。いや、それ以外でも。綺麗なもの見たら、いつでも。お前に・・・見せたかった」和「・・・ん・・・」ぎゅっとくっついてその夜親から離れたことを良いことに最終便が終わってもずっと・・・キラキラ光る滑走路をふたりして見てた・・・起承転結の起終わりです。『浮き草暮らし』起・・・「婆ちゃんがやってきた」承・・・「産みの苦しみ」転・・・「愛しい人」結・・・「それでも愛しい人よ」intermissionを挟みます。お話の再開は7月を予定しております。いつも有難うございます♡