4月28日地元紙の一面から
『皇位継承「危機感」72%』 女性天皇90%が容認 全国世論調査
共同通信社が27日に行った全国世論調査の結果を報じています。
表題の結果に続いて「女系天皇」は「賛成」「どちらかといえば賛成」が計84%。
旧宮家の男性子孫を皇族にし「男系・男子」の天皇を維持する考えには計74%が「反対」「どちらかといえば反対」。
「女性宮家」の創設は賛意が計77%を示した。
とあります。
合わせて4面の調査結果にある旧宮家の皇族復帰に反対する理由として、「旧宮家が皇室を離れ70年以上経過し、その子孫が皇室に入るのは違和感があるから」(31%)「女性皇族が天皇に即位できるようにすればよいから」(60%)も注目したいところです。
恐らくこれは前日26日に朝日新聞デジタルが報じた
皇族確保策は「妥当」、自民が衆参議長に伝達 連休明けに各党協議へ:朝日新聞デジタル (asahi.com)
を意識したものではないかと思います。
即ち、『自民は19日、政府の有識者会議が示した、①女性皇族が結婚後も皇族の身分を保持する、②旧宮家の男系男子が養子として皇族復帰する、の2案を「妥当」とする方針をまとめた。』(女性宮家の創設や女性天皇については消極的だった)
というものに対し、『国民はこれとは逆の考えを持っている』と反論しているのです。
同時に知っておきたい事として、政治家の考えとしては国民民主党代表 玉木雄一郎 衆議院議員が下記動画の中で『党内にも一般の方の中にも、「非常に優秀でお人柄にも優れている愛子内親王殿下を天皇陛下に」という声があることは承知している』(7:13ぐらいから。 因みに玉木 衆議院議員はこれに慎重な立場)と発言し
一般の人の他、国会議員の中にも愛子内親王への皇位継承を推す声がある事を伝えています。
これらを踏まえこの記事を読めば、その本旨は『愛子内親王を次の天皇として認めるべきであるし、安定した皇位継承のためには女系継承も、女性宮家も認めるべきである』なのであろうと推察できます。
確かに平成の天皇陛下つまり上皇陛下や今上陛下が、『現代におけるあるべき皇室の姿』として広く国民に触れ合い、国民はそのお姿をこそ尊敬している事を鑑みれば、70年以上前に皇族を離れかつ共通の先祖は室町時代の伏見宮貞成(さだふさ)親王(後崇光院:後花園天皇の父)まで遡らなくてはならない旧宮家を皇族に復帰しても国民はそれを受け入れられず、それよりも今の女性皇族とその子孫にこそ天皇とする道を開くべき、と多くの人が考えるのは分からなくはありません。
因みに自民党の河野太郎 衆議院議員もその考えのようです。
それに対するこのブログの結論を最初に書いておきますと、
『皇位継承に関する問題は歴史の先例に従うものであって、現代の国民感覚で語っていいことではない。マスコミは下らないことに精を出すのではなく、その先例がどういうものであったのかを国民に伝えるのが仕事である。』
となります。
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皇位継承ないし皇統、つまり『万世一系』についての考え方や先例については後に譲るとして、個人的にはこうした議論をメディアが軽々に扱うのは非常に危険な事だと考えています。
なぜならそれは深刻な『国内の分断』を招くことになるからです。
古今東西、世界の歴史を見ても、現行の継承順位に基づき皇位ないし王位継承者が既に存在しているにも関わらず「いや、こちらの方が継承者として相応しい」と言い出しルールの変更を画策しようとする者が現れて碌なことなどありません。
碌なことがないどころか『内乱』の原因となります。
皇室典範の規定に従えば、今上陛下の次の皇位は後嗣たる秋篠宮殿下。その次の皇位は悠仁親王殿下となります。既に現行のルールにおいて、次に皇位を継ぐべき人物が既に存在しているのです。
ですから冒頭で引用しました玉木衆議院議員の発言にある「愛子内親王を天皇陛下に推す」声とは、純粋に皇室に弓引く行為に他なりません。
そして先程も書きました通り、世界の歴史を見ても、こうした煽動は『乱』の原因となります。
『こちらのお方の方が人物的に天皇に相応しいから』は理由になりません。制度というものは特定の人物を念頭において決めるものではないのです。そういうのは「依怙贔屓」というのです。
そもそも日本の天皇という存在は『個人崇拝』の対象として存在するものではありません。
『神武天皇以来の男系子孫』という、遡れば建国の神話に繋がるという所に皇位は由来しているのです。
日本人にとって極めて幸福なことに、私達の知る歴代の天皇陛下は国民に寄り添い国民のために祈る名君であられますが、それは歴代の陛下がそのようにお努めになられたことであって、実のところは『人格者であること』が天皇の条件ではないのです。
仮に世論が(今上陛下の御子であることについてはともかく)人格者であることを理由に『愛子天皇』を望んでいたとしても、歴史的に積み上げられてきた皇統の前では関係ありません。
そもそも世論などその時の国民の気紛れに過ぎず、歴史の積み重ねに比べれば全くあてになるものではありません。
皆さんは覚えていますでしょうか?
今からほんの10年前、世論は現在の皇后陛下である当時の雅子妃殿下の適応障害を責め、当時皇太子であった今上陛下に対し離婚や皇太子退位まで求める声があったのです。
(「皇太子殿下、ご退位なさいませ」2013年『新潮45』3月号、など)
今やそのような声は皆無です。
そして当時は待望論があった秋篠宮殿下の皇位継承は、今やバッシングの対象にまでなっています。
これが世論です。
如何にあてにならないもので、そんなものに従って皇室を語ることがいかに下らないことかを国民全体が知るべきです。
それをメディアが煽動し、あたかもアンケートの結果がよければ皇位までも介入できるのだと言わんばかりのこの手の記事は、まさに『平地に波瀾を起こす』類のものであり、国家にとって危険なものと私は考えます。
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とはいえ、現在の皇室において今上陛下よりも若い世代の皇位継承資格者が悠仁親王のみということが「皇位継承の安定性の危機」であることは否定しようのない事実です。
また現行の制度では女性皇族は結婚によって皇族を離れることになるため、悠仁親王が即位する時代には「天皇陛下以外に皇族が一人もおられない」ことになりかねません。
そのため、冒頭の朝日デジタルの記事にも登場した『皇位継承有識者会議報告書』では①女性皇族が結婚後も皇族の身分を保持する、②旧宮家の男系男子が養子として皇族復帰する、という案が出ており4月26日自民党はこれを『妥当』とする考えを衆参議長に伝えたのでした。
日本維新の会もこれを『特に高く評価する』とする意見書を作成しています。
(独自)維新の皇位継承意見案判明 皇籍復帰を「特に高く評価」 - 産経ニュース (sankei.com)
さてこの話題を考えるためには「女性皇族」と「女性宮家」、「女性天皇」と「女系天皇」の違いを理解しなければなりません。
まず「女性皇族」とは何か?
これは文字通り「女性の皇族」となります。
名前の列挙はしませんが現在12方の女性皇族がおられます。
これに対し「女性宮家」とは何か?
女性皇族が結婚後も皇室に残り(ここまでは『皇位継承有識者会議報告書』にも案が出ました。)、かつその女性皇族が『祖』となって『宮家』を創設することを指します。
『宮家』とは、皇位継承者に与えられる「宮号」が世襲されることによって生じる家名であり、その宮号の継承者(宮家の当主)は皇位継承権を有します。
日本の歴史においては過去1度だけ、仁孝天皇の第三皇女、淑子(すみこ)内親王が桂宮を継承したことがありましたが、淑子内親王は終生独身を通しその薨去とともに桂宮は断絶しました。女性皇族が『祖』となって宮家を創設した例はありません。
女性皇族を『祖』として宮家を創設するということは、将来女性皇族が一般男性と結婚し子供が出来た場合、その子供が宮家を継承していくことになります。そして宮家は存在目的がそうであるように天皇に後嗣がいない場合に皇位を継承する立場にあります。つまり皇統に属しない一般男性の子孫が皇位継承者となる可能性が生じます。
だからこそ過去存在しませんでしたし、『皇位継承有識者会議報告書』においても支持されていません。
続いて、「女性天皇」と「女系天皇」の違いです。
「女性天皇」は文字通り女性の天皇です。
日本の歴史において8人10代存在しました。(2人が重祚、つまり2回皇位についています)
皇位は現代においてまで神武天皇の男系子孫によって継承されてきており、この女性天皇においても例外はありません。
因みに男系子孫とは「父親を遡っていくことによって神武天皇に辿り着く血統」の事を言います。
※過去私は男系の説明について「父親を辿ると天皇に辿り着く」と書いたことがありましたが、後述する理由によって今は上記のように考えを改めました。
女性天皇のうち6人7代は父親が天皇です。
35代皇極・37代斉明天皇(同一人物)の父親 茅渟王は30代敏達天皇の男系の孫。
44代元正天皇の父親は天武天皇の息子 草壁皇子です。
但し元正天皇は母親が43代元明天皇であり、史上唯一母から娘への皇位継承例となっています。
人によってはこれを「女系継承」と言いますが、前述の通り元正天皇も男系子孫であり皇統の歴史に反するものではありません。
また元正天皇は甥(元明天皇の孫)の聖武天皇が長じるまでの「中継ぎ」的な役割で践祚した天皇でもありました。
これに対し「女系天皇」とは何か?
男系とは逆に「母親を遡っていくことによって神武天皇に辿り着く天皇」ということになりますが、本題においては「母親は皇統に属するが父親は皇統に属さない」天皇のことをいいます。
これは日本史上一人も存在しません。
それは日本の歴史、「日本人の総意」がいつの時代においても「皇統に属さない男性(特に権力者)が皇位を簒奪する」可能性を排除してきたからなのです。
さて今回共同通信の世論調査に、この日本史上一人も存在しない「女系天皇」の是非について質問があるのはどうしてでしょう?
それはそれが「愛子天皇」の誕生とセットになっているからです。
ここまで見た通り、過去において「女性天皇」は存在しました。
愛子内親王は今上陛下の御子ですので、神武天皇の男系子孫(父親を遡ると神武天皇に辿りつく)となります。
従って皇室典範の改正によっては皇位継承権者となることも考えられます。
(但し後嗣が既にいる中で、それを廃しての女性天皇の践祚は例がない)
仮に世論の後押しによって愛子内親王に天皇となる途が開けたとして、
愛子内親王が皇統に属さない一般の男性と結婚し子供を出生した場合にはその子供を次の天皇に推す声が上がる事は明白です。
世の中の多くの人は「女性天皇」と「女系天皇」の違いも、なぜ「女系天皇」が歴史上排除されてきたかの理由も知りません。
知らない事をいいことに、『世論』と名付けたその時々のいい加減な空気をよって、日本の皇室と伝統を破壊しようというのが共同通信の目的。そう邪推せずにはいられません。
では仮に万万が一、『愛子天皇』と皇統に属さない一般男性との間の子が皇位を継承した場合、それは何を意味するのでしょう?
それは『皇統断絶』を意味します。
度々書いています通り、『皇統』とは『父親を遡り続けると神武天皇に辿り着く』という『建国の神話』に由来するものです。
その由来から外れた天皇の誕生は日本が建国以来、公称で2684年、科学的に実在が確認できる天皇から数えても1500年以上、他国に例を見ない程の悠久の歴史を紡ぎ、国民がずっと護り続けてきた歴史と伝統が終わってしまうことを意味するのです。
因みによく皇室典範が皇位継承者を「男系男子」と限定していることに対し、「女性差別」「明治以降の権威主義によるもの」「男尊女卑」という批判があります。
しかしそれはミスリードというものです。
本当に男尊女卑であるならば、女性は結婚によって皇室に入る事が可能であるのに対し、男性にその可能性がない説明が出来ません。
全ては日本の歴史伝統を守るために培われた先人の知恵によるものなのです。現代の価値観で語るのは浅薄というものです。
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ここまで皇族の数が減少していく中『安定的な皇位継承』に危機感は感じつつも、『女性宮家創設』『女系天皇』については否定的に語ってきました。
次は『旧宮家の皇籍復帰』がどうなのかを考えてみたいと思います。
歴史上皇族にあったものが臣籍に降下し、再び復帰した例は複数あります。
臣籍降下 - Wikipedia
臣籍にあった期間の長さで言えば60代醍醐天皇の第11皇子 兼明親王は延喜20年920年に臣籍降下し源朝臣兼明となるも、50年後の貞元2年(977年)に復帰しています。
その父親である醍醐天皇は父59代宇多天皇が臣籍降下していた頃に産まれたので、『臣籍として産まれた者が後に皇族となり天皇になった』例です。(59代宇多天皇は一度臣籍に降下した後、皇族復帰して践祚した例)
また旧宮家は現在の皇室とも下図のように近親関係にあり、宮中祭祀や宮中行事に各家の当主が出席するなど天皇や皇族と同席する機会が多く
現皇族・旧皇族をメンバーとして結成された親睦団体の『菊栄親睦会』を介して、皇室の慶事などで交流する機会をもっています。
現天皇家との共通の先祖が600年前の貞成親王まで遡ることを懸念する声もありますが、『男系で遡ると神武天皇まで辿り着く』という系譜はれっきとした事実であり、その事実こそが最重要です。
これについては『万世一系』について考える必要があります。
最近見たYoutubeの話で恐縮なのですが、私はこちらの論者の主張に深い感銘を受けました。
この主張は皇統、ないし外国の王朝における「皇(王)位継承」には、「男系ないし女系によって統一された『一系による継承』」、そして純粋に親から子へと引き継がれていく「直系継承」の二つがある。という所から始まります。
日本はいうまでもなく『男系による一系継承』です。この『日本の皇統は「直系継承」ではない』という部分が最も重要となります。
直系継承は『先代の王から王位を継承』しますので、その権威の由来は『先代の王』ということになります。
また具体的な名前を出してしまい畏れ多いのですが、現在愛子内親王の皇位継承を支持する声の論拠、そして女系天皇論者の論拠がまさにこれになります。
これに対し日本の『一系継承』は権威の由来が神武天皇という『建国の神話』にあります。
これが決定的に違うのです。
直系継承の場合、権威が今の王家にあり、それが『権威の私物化』を招きかねません。
『一系継承』の場合その権威はあくまで『歴史』にあり、現天皇家でさえその権威を借りているに過ぎないのです。だから私は冒頭においても『天皇は個人崇拝の対象ではない』と書いたのです。
そして現在の天皇家に一系継承にかなう後嗣がいなければ、その条件を備えるところまで系譜を遡り、新たな系譜を紡ぐことが『皇統』なのです。だからこそここが崩されてはならず、崩れた時こそが『皇統断絶』となるのです。
口にすることさえ憚られることですが、愛子内親王が天皇に即位できず今上天皇の系譜が絶える事や、
悠仁親王に男御子が誕生しなかった時に、『皇統』が断絶するのではないのです。
『神武天皇を始祖とする一系継承』が守られなかった時に、日本の歴史そのものである『皇統』が断絶するのです。
因みに現在続いている皇統を『正統(しょうとう)』と呼ぶのですが、これについて河内祥輔『中世の天皇観』(山川出版社)では以下のように言及しています。
曰く、『全ての天皇が一筋に繋がっているのではなく、幹と枝葉に分かれ、枝葉の天皇の系統は断ち切れており、幹は「一系」として続いていく。
幹は血統であり皇位ではない。
「正統(しょうとう)」は男系である。女性天皇は全て枝葉である。』
つまり、『神武天皇以来の男系の血筋』という太い幹があり、そこから枝葉が伸びていくように歴代の天皇達の系譜があるのです。
※『神皇正統記』の「正統」理念による天皇系図(『中世の天皇観』p32.33より)
天皇系図をみると、決して一本では繋がっていないことが分かります。むしろ順番で追うのが難しいくらい枝分かれしています。しかし枝分かれしその先が断ち切れていても、そこいた天皇の継承順位の事実や功績は決して否定されてはいません。
そのようにして紡いでいくのが、まさに日本の『万世一系』なのです。
よく『万世一系は虚構。天皇の系譜は切れ切れ』という論者がいますが
それは『万世一系』と『直系相続』の違いや、『万世一系』の理念を理解していないだけなのです。
戦後の日本に産まれ、昭和天皇、平成の上皇陛下、今上陛下を見てきた私達からすれば、その系譜が絶えることは考え難く許容しがたく、別の系譜から産まれた天皇を素直に尊敬することは難しいのかもしれません。
だからといって、現代人の感覚で日本の歴史そのものである『皇統』に手を加え否定することなど、絶対にあってはなりません。
それを踏まえた上で『皇位継承有識者会議報告書』の内容はあるのです。
ですから結論を最初に書きました通り、マスコミは下らないアンケートなど取るのではなく、歴史的事実を伝え皇統についての理解を国民に深めてもらうための仕事をこそしなければならないのです。