おじさんと酔っ払ってスナックになんか行くと松山千春は「男はいつも待たせるだけで女はいつも待ちくたびれて」と開き直るし、小林明子は迷子のように立ちすくむわたしをすぐに届けたくて震えるし、その横で吉幾三は追いかけて追いかけて追いかけて雪國とまた震えている。ええ、もちろんキャバのアフターの話です。ちなみに私の十八番は石川さゆりの天城越えと、松田聖子の逢いたくて。いずれも女たちはイイ男に虐げられ、涙を流している。


女はいつも待ちくたびれていて、それでも恋は恋で、土曜日の夜と日曜日のあなたがいつも欲しくて、誰かに盗られるくらいならあなたを殺していいですか、とオレに迫る。そんなわけないのに。昭和の夜を彩った大衆歌謡はおじさんたちの自己陶酔型ロマンチックと謎のポジティブに溢れている。薄毛と高血圧と放つ異臭は棚に上げて。


キャバの客なんてだいたいが痛い。バレンタインの同伴に遅刻したからと30歳も年下の女の子にガチギレして帰るとか、「今日は◯◯さんのお誕生日をお祝いさせてください♡」なんて言われて嬉しくて来店したら8万円のネクタイはもらったけど飲み代に25万円も使わされるとか、女の子に有馬温泉旅行を断られた腹いせに次の週の同伴をキャンセルして嫌われるとか。そしてだいたいどの店にもいるのが、女の子の気を引きたくて指名嬢をコロコロと替えるおじさん。


指名嬢をコロコロと替えるおじさんのエピソードは鈴木涼美大先生の著書にも登場する。歌舞伎町にもこの手のおじさんはいるのですね。



1ヶ月か2ヶ月で指名嬢を変え、新しい女の子と同伴出勤をするときなどは「ごめんごめん、そんな顔するなって〜」「今後の◯◯ちゃんの頑張り次第でまた指名するから」とふんぞり返る。こちらも仕事なので、も〜!おじさんったら本当に浮気性!お隣いいですか?って上目遣いをするくらいのことはするけども、100%脈ナシだし、ウザすぎ死ねよとしか。こうしておじさんは女の子にひっぱりだこなオレって罪なヤツだなって機嫌良く酔うし、夜は更けて明ける。


でも今となっては、北新地で繰り広げられたこうしたアホらしいゴタゴタの全てが愛おしい。騙して騙されて、パパはお金を払い、ママはお金を稼ぐ。猥雑な街の猥雑さをまたいつか愛したいし、「デュエットしようやあ〜」って松山千春ファンに言われたい。



ー終わり