日本の水道「寿命切れラッシュ」目前!過疎地はタンク車給水に?水道危険度の真実

2023.10.13
写真はイメージです Photo:PIXTA

写真はイメージです Photo:PIXTA© ダイヤモンド・オンライン

厚生労働省は将来、過疎地への配水をタンク車で行う可能性を示唆した。飲める安全な水が水道をひねればいくらでも出てくる。そんな日本の当たり前が崩壊しようとしている。なぜこのような事態になってしまったのか。日本の水道の現状と打開策を探る。(ライター・編集者 井澤 梓)

厚労省が将来の選択肢として

過疎地の「タンク車給水」を提示

 水道から水が出なくなる――。

 7月に厚生労働省は、過疎地の水道を維持せず、将来的にタンク車による給水とする選択肢を示唆した。

 理由は水道の維持費用だ。人口減少が止まらない小規模な集落では、税収の減少を免れない。加えて水の需要も減少すると予測される。水道設備を維持するよりは、タンク車による給水の方が効率的だという考えだ。

 タンクからの給水。災害時などの非常事態か、発展途上国のイメージが強い給水手段だが、近い将来、日本の過疎地においては当たり前の光景になってしまうのかもしれない。

 水道をひねれば、飲めるほど安全な水がいつでも出てくる。豊かな水は日本の誇りだった。その安心安全な水道の維持が今、脅かされている。

 なぜこのような事態になってしまったのか。水インフラの持続と官民連携などについて取材・情報発信を続ける一般社団法人Water-nの代表理事を務める奥田早希子氏に、水道の現状と未来について聞いた。

 奥田氏は「そもそも日本の水は安売りされすぎている」と指摘する。

 一般に水道管と呼ばれる鋳鉄管やダクタイル鋳鉄管の法定耐用年数は40年。実際の使用年数に基づく更新基準も、長いもので80年と設定されている。そして、関西水道事業研究会における調査事例(2002年)によると、その平均使用年数は59.3年だ。

 一方で、日本の水道が整い始めたのは、1957年の水道法制定以降である。戦後の高度経済成長とともに、都市部の暮らしは発展した。64年の東京オリンピックの頃に、国を挙げてインフラが整備され、日本の水道網も現在のように整っていったのだ。

 そして2023年――。最初の東京オリンピックの59年後となる今、設置された水道が、一気に更新時期を迎えつつあるということになる。本来は、新たな水道管への更新作業が必要だが、追いついていないのが現状だという。

「法定耐用年数を超えても更新されていない水道管は、全体の2割以上。現在の更新ペースだと、今後も寿命切れの水道管は増加するでしょう。水道管更新への投資が必要となりますが、その主体となる自治体は、今でさえ小規模なところは経営状態が赤字傾向にあります。総務省の水道事業経営指標の料金回収率を見ても、小規模な自治体ほどコストを水道料金で回収できていないことが分かります」(奥田氏)

水道料金の値上げは

今後も増える

 このような危機的状況を背景として、実際に水道料金の値上げを実施する自治体が出てきた。

 静岡市では、20年10月から水道料金を平均14.8%値上げした。横浜市も、21年7月に約12%の値上げを実施している。水道料金は自治体で料金を個別に設定できるため、今後も追随する自治体が増えると予想されている。

「値上げといっても、実際には適正価格に戻ったのだと考えています。値上げする自治体は悪だとか、水道料金が安い自治体に住みたいと感じる人もいるでしょう。ですが、水道料金を値上げして財源をきちんと確保している自治体は、水道管を計画的に更新するなど水道サービスの維持に努めているとも言えるんです」(奥田氏)

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 そもそも日本の水道料金(東京:200立方メートル当たり436.10ドル)は米国(ニューヨーク:同788.02ドル)や英国(ロンドン:同796.77ドル)と比較して約半額。そもそもの設定が随分と安いともいえる(出所:International Water Association「International Statistics for Water Services 2014」)。

 とはいえ、ロシア・ウクライナ戦争による燃料価格の高騰で、一気に上がった電気料金の次は水道料金となると、生活の負担は増える一方だ。水道料金の値上げを少しでも食い止める方法はないのだろうか。

 そこで水道管インフラの維持の現状を見てみると、あまりにも非効率な現状が明らかになった。どうすればその状況を打破し、日本の豊かな水を守ることができるのか。そのヒントを考えていきたい。

 後編記事『水道管の交換が間に合わない!日本の水道危機を救う方法はあるのか?』に続く。