医療保険「今のままでは持たない」 高齢者医療への拠出金重く 健保連・佐野副会長らに聞く(上)2023.7.6
健康保険組合連合会の(左から)松本真人理事、佐野雅宏副会長、河本滋史専務理事=東京都港区で© 東京新聞 提供
少子化対策の新たな財源確保のため、政府は医療保険料の引き上げを検討しているが、現役世代の保険料は医療費の増大で、年々膨らむ一方だ。財政危機に直面する日本の医療保険制度。今の仕組みのままで、超高齢化社会と人口減少時代に持続可能なのか。大企業などの健保組合が加盟する健康保険組合連合会(健保連)の佐野雅宏副会長らに聞いた。 (杉谷剛)
-医療保険料は年々増えますが、以前と比べ、どれくらい上がっていますか。
佐野副会長 健保連の二〇二三年度予算で、加入者一人当たりの保険料は約五十万九千七百円。前年度から一万一千百円もアップした。〇九年度は約三十七万六千五百円で、十四年間で十三万三千二百円、35%も増えた。労使が折半する保険料は毎年平均で約九千五百円ずつ上がっていることになる=グラフ(1)参照。
(1)© 東京新聞 提供
-大幅アップの原因は何でしょうか。
高齢者医療制度への拠出金が大きく増えてきたことだ。医療費は毎年2~3%増えているが、拠出金の負担が増えているから、医療費を上回るペースで保険料が上がっている=グラフ(2)参照。
(2)© 東京新聞 提供
【健保組合や市町村の国民健康保険など、すべての人が公的な医療保険に加入する日本の皆保険制度では、現役世代が高齢者医療費のかなりの部分を負担している=グラフ(3)参照。
(3)© 東京新聞 提供
大手企業などの健保組合は全国に千三百八十あり、従業員と家族ら約二千八百万人が加入。全組合を合算した二三年度予算の保険料などの収入は計約八兆六千二百億円でこのうち高齢者医療への拠出金(支援金)が43%を占める。医療費や拠出金などの支出は約九兆一千八百億円で、経常収支は過去最大となる五千六百二十三億円の赤字となり赤字組合は全体の八割近くに達する見込みだ】
-医療費の増大は今後も見込まれますが、健保組合の財政はどうなりますか。
今の仕組みのままでは、拠出金はどんどん増える。それを賄うには、拠出金の増加に見合う保険料の引き上げしかなく、現役世代の負担はさらに重くなる。赤字に耐えられなくなった健保組合が解散すると、加入者は中小企業の従業員が加入する協会けんぽ(全国健康保険協会)に移る。
協会けんぽには国費が一兆円以上入っており、加入者が増えれば国庫負担も増加し、国の借金が増え、将来世代にさらにつけが回る。こういう仕組みが持続可能かどうか。医療費が増え、支える側の現役世代は減るのだから、国民皆保険制度は維持できなくなる恐れがある。
-制度を持続可能にするためには、どのような対策が必要ですか。
以前から高齢者医療費の負担構造の見直しを主張してきた。今のままでは持たないので、世代間のバランスを見直す必要がある。特に負担能力のある高齢者の保険料や窓口負担の見直しなどの改革が必要だ。
-なかなか健保連の主張は実現しません。
高齢者医療の財源は三つで、公費(税金)か保険料か病院での窓口負担。公費の財源となる消費税率の引き上げ議論はなかなか進まない。窓口負担は一部の方が二割となったが、実現には多くの労力を要した。公費も窓口負担もなかなか上げられず、保険料にしわ寄せがきている。
-なぜ保険料は引き上げやすいのですか。
目立たず、負担を感じにくいからではないか。給与明細の社会保険料の欄を関心を持って見る人は少ないが、天引きされている額は、税金よりも大きい。消費税も窓口負担も支払うたびに目に見えて分かるが、保険料は負担感が薄い。
-医療費を節約するために、健保連はいろいろな提案をしています。
松本真人理事 健康寿命の延伸が重要なので、保険者と事業主が連携して健康づくりを実行するコラボヘルスの取り組みを広める。薬の関係では、花粉症など市販の薬で代替が可能なものは、医療保険の給付範囲から除外するか、窓口で多めに負担してもらう。
また、同じ病気でも医師の薬の選び方により、医療費が高くなったり低くなったりするので、安全性や有効性に明らかな差がない場合、価格の低い薬を選択する取り組みである「フォーミュラリー」を普及させるよう求めている。
<後期高齢者医療制度> 75歳以上の高齢者を対象に2008年から始まった。患者の窓口負担を除く給付費の5割近くを税金で、4割近くを現役世代からの支援金で賄う。22年度の支援金は予算ベースで、健保組合・共済が計3・1兆円、協会けんぽが2・5兆円、国民健康保険が1・3兆円を拠出している。
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