食事の作法 -礼を正す- そのⅢ



玄関で後向きに靴を脱ぎながら上がらない。

向き直ってからひざまずき、靴の向きを直すのが正しい。


 横向きに脱いでから、のち屈んで、靴を正しく直すのが正しく

直すのが正しく美しいようです。



座布団を踏むことは厳禁。座布団の上に立つこともよくない。
踏んでいけないもの三つ。座布団、敷居、畳のへり。

 踏んではいけないものの第一としてまず座布団。

 あとの二つは、「敷居」と「畳のへり」です。

 このごろ家も洋式になったので、和室でのマナーが教えられ

てないようです。

 ついうっかりして畳のへりに座ることも禁じられています。





作法すなわち礼法。礼とは「畏敬心」の表現

 すべての対物や対人には、それを取り扱う手法や態度が

あるものです。

 これを一括して、「作法」と申しております。

 そしてその作法の根本は「礼」の一語につきます。

 しからば「礼」とは何かと言えば、「敬う心」です。

 すなわち愛敬・畏敬・恭敬と言われてきたものです。

 この敬の心を起こすのは容易なことでなく、

形の上から愛敬の地ならしをする必要があります。

 それが「礼」というものです。





「克己復礼(こっきふくれい)」とは論語のことば。

礼を正すことは心を正すことに通じる。


 私欲をおさえて、礼儀作法を身につけことであり、

礼儀作法を身につけることは、私利我欲に克つ道でもあるのです。





稽古とは一よりはじめ十を知り 十よりかえるもとのその一利休


 利休は茶道を極めた達人ですが、茶道における礼儀作法を究められ、

最もその基本原則を説きつくされたお方です。





「食育」の基本

 食べものは「いのち」そのものです。

 この大切な「いのち」を私たちは天からいただいて、

生かされているのだということを、はっきり自覚しなければ

ならないのです。

 このことが、「食育」でのもっとも大切な基本と

ならねばなりません。

 その大切な「いのち」を「いただきます」という

感謝のお祈りをしてから、箸を取っていただく。

 これが正しい食事作法というものです。

甲田光雄著『健康養生法』より




 甲田光雄先生は、わたくしにとって恩人のお一人であります。

 わたくしの食生活についてその三大原則を伝授してくださった

恩師であります。


 その第一は、


①朝食を摂らないこと


②一日の摂取カロリーは1,200KC以下にすること


③月に二回一日断食


 を教えてくださったのです。


 それだけでなく、わたくしに人生の大目標を授けて

くださったのです。


 その一つは、今こそ、森信三先生の教えはわが国の教育再生

とって不可欠のお教えですが、その伝導者として布教者として

あなたの使命の自覚が何より肝要と励まして頂きました。


 その二として、九十歳になったらあなたと二人で富士登拝を

果たそうと仰言って頂きました。

 

言わばわたくしに大目標を明示くださったお方なのです。






「礼」というもの

 コップを伏せたままですと、いくら上から水を注いでも、

少しも内に溜まらないのです。

 ところがいったんコップが仰向きにされると、注いだだけの水は、

一滴もあまさず全部そこに溜まるのです。

 これはまさに天地の差と言うべきでしょう。

 伏せたコップを、仰向けに直すーこれが広い意味での「礼」

というものです。

 形の上から敬う心の起きる受け入れ姿勢をする必要があるのです。

森信三著『魂の言葉』より




「しつけの三ヶ条」として


①あいさつ人より先に


②ハイの返事を明るく元気よく


③はきものを揃える、立ったら椅子を机の下に入れる



「職場の再建」の三大原則として


①時を守り


②場を清め


③礼を正す


 森信三先生ほど「礼を正す」ことを重んじられた方を知りません。

 そしてこの礼の根本は、身心相即の理から申して、

「立腰」にあることを、終始一貫してお教えくださった恩徳は

はかり知れないものがあります。

 食事の作法の根本も「立腰」にありと言えます。







たねまき文庫二十七集「食事の作法」寺田一清編
発行 (株)登龍館 http://www.toryukan.co.jp/