ベトナム本の紹介、89回目。
『動きだした時計』
ベトナム残留日本兵とその家族
小松みゆき
(株)めこん 2020年5月 初版発行
B6サイズで厚さ約25mm、
小さめの文字で317ページ。
ベトナム・ハノイで日本語教師をしている著者があるきっかけからベトナムの残留日本人やその家族との交流の記録。
著者小松みゆきさんは1992年に日本語教師としてハノイに赴任、そこの生徒に、私の父親は日本人です。というカタコトの日本語を話すおじさんがいたことをきっかけに、ベトナムに残留日本兵がいたこと、彼らの多くはベトナムで家庭を持つも、その家族を残して日本に帰国してしまっていること、残された家族はベトナム国内で差別的な扱いをされて生活していることなどを知る。
それから、小松みゆきさんの行動開始。ベトナム人の日本人以上に家族思いな文化から「父親に会いたい」といった残留家族たちの思いを叶えるべく、日本とベトナムの橋渡しとなり、活動の場を広げていく。
という現在進行形の記録です。
そもそも、残留日本兵とは、太平洋戦争時、当時フランス領だったベトナムに進駐し、敗戦の際に何らかの理由によりベトナムに残ることにした(なった)人たちのことで、民間人も含めて600人以上が残留したとのこと。
そこから残留日本人たちは現地で家庭を築いていく。
一方、ベトナムはフランスとの戦争にも勝利し独立宣言したがアメリカなど大国の都合もあり、南北に分断。中国への関係が強くなったベトナムに日本兵が残っていることは好ましくないとの判断から、促されて多くの日本人は帰国。その際、家族帯同が許されず、家族の分断が起きてしまった、という歴史である。
さて、小松みゆきさんは、というと新潟の貧しい家庭に生まれるも、その生い立ちに負けず、紆余曲折を経て出版業界や法律事務所に職を得る。その後ある偶然から海外での日本語教師というものに興味を持ち、資格を取得。これまたたまたまベトナムに赴任した、という経歴。その出版業界や法律事務所での経験やバイタリティにより、ベトナム残留日本人家族との交流を深め、日本とベトナムの交流の中心人物となっていく。
戦争終結後、ベトナムに残り、ベトミンに協力した日本人がいたことはこれまで読んだ本でも触れられており、全く知らなかったことではないとはいえ、現在に至ってもここまでの交流が続けられていたことや残された家族が差別的な扱いを受けていたことは知りませんでした。
特に天皇皇后両陛下の訪越時に残留日本兵家族との面会があったことなどこの本で初めて知り、作者の功績も単なるモノ好きのお節介、というレベル感では到底ない、ということが分かりました。
ベトナム独立に至る歴史の復習も兼ね、今のベトナムの側面や日本との関わりを知るために、読んで欲しい一冊ですね。おすすめです。