2025.1013

秋の気配が色濃く漂いはじめた木曽路。

バイクのエンジンを温め、私は木曽義仲と巴御前の足跡をたどる旅へ出た。

権兵衛トンネルを抜け、国道19号を南下する。トンネルの出口で一気に広がる秋の空気。

ヘルメット越しに冷たい風が頬を打ち、ススキの香りがふわりと漂う。

その先に、伝説の地「巴淵(ともえぶち)」が静かに待っていた。



巴淵──女武者の名を冠した清流

JR中央西線の下に静かに佇む巴淵。


八百年の時を経ても、その水は驚くほど澄み、深い翠色を湛えている。

木々に囲まれた静寂の中に、一基の石碑が立つ。刻まれた名は「巴御前」。



木曽義仲に仕えた女武者、巴御前。

『平家物語』には「強弓精兵、一人当千の兵」と記され、

その勇ましさと忠義は今も語り継がれている。

義仲が討たれたとき、最後まで彼に付き従ったと伝えられる巴。

その面影を偲ぶように、淵は今日も静かに流れ続けている。


案内板には、義仲と巴の物語が静かに記されていた。

この地は、単なる景勝地ではなく、

戦乱の記憶と人の想いが溶け合う、**“歴史の聖地”**なのだ。




バイクを降りてしばし水面を見つめる。

木立を揺らす風が、はるか昔の戦の声を運んでくるようだった。



義仲館──英雄の生涯を辿る

▲義仲と巴御前の像が並ぶ義仲館入口。


巴淵からわずか数分、道沿いに「義仲館」の看板が現れる。

木造の門をくぐると、義仲と巴御前の像が凛々しく迎えてくれた。


館内では、木曽義仲の生涯が簡潔に展示されている。

源氏の血を引きながら木曽の山中で育ち、

やがて平家打倒の兵を挙げ、倶利伽羅峠での大勝利によって京を制した義仲。

しかし、源頼朝との対立により、粟津の戦いで非業の最期を遂げる――。


展示を見終えたとき、ふと感じたのは「義仲は木曽の人々に今も生きている」ということだった。

英雄というより、郷土の息子として深く愛されているのだ。



木曽路に息づく伝説

▲色づき始めた木曽の山並みと、せせらぎの音。


再びエンジンをかける。木曽川のせせらぎ、色づき始めた山々、

そして秋風の中を抜けていくバイクの鼓動。

走るほどに、義仲と巴の物語がこの土地の風に溶け込んでいることを感じる。




木曽路は、ただ美しいだけの道ではない。

歴史の記憶と人々の誇りが幾重にも重なった、魂の宿る道だ。


アクセス情報・旅メモ

- 巴淵:長野県木曽郡木曽町、国道19号線沿い

- 義仲館:木曽町日義地区、無料駐車場あり
- おすすめ時期:紅葉の始まる9月下旬〜11月中旬

義仲と巴が生きた木曽路は、

今も静かに、しかし確かに彼らの息遣いを伝えている。

紅葉の季節、バイクで走る木曽路は格別だ。


あなたなら、この静かな淵を前にして何を思うだろうか。

歴史に想いを馳せながら走る秋の木曽路。

きっと、忘れられない一日になるはずだ。