秋の気配が色濃く漂いはじめた木曽路。
バイクのエンジンを温め、私は木曽義仲と巴御前の足跡をたどる旅へ出た。
権兵衛トンネルを抜け、国道19号を南下する。トンネルの出口で一気に広がる秋の空気。
ヘルメット越しに冷たい風が頬を打ち、ススキの香りがふわりと漂う。
その先に、伝説の地「巴淵(ともえぶち)」が静かに待っていた。
巴淵──女武者の名を冠した清流
八百年の時を経ても、その水は驚くほど澄み、深い翠色を湛えている。
木々に囲まれた静寂の中に、一基の石碑が立つ。刻まれた名は「巴御前」。
木曽義仲に仕えた女武者、巴御前。
『平家物語』には「強弓精兵、一人当千の兵」と記され、
その勇ましさと忠義は今も語り継がれている。
義仲が討たれたとき、最後まで彼に付き従ったと伝えられる巴。
その面影を偲ぶように、淵は今日も静かに流れ続けている。
案内板には、義仲と巴の物語が静かに記されていた。
この地は、単なる景勝地ではなく、
戦乱の記憶と人の想いが溶け合う、**“歴史の聖地”**なのだ。
バイクを降りてしばし水面を見つめる。
木立を揺らす風が、はるか昔の戦の声を運んでくるようだった。
義仲館──英雄の生涯を辿る
館内では、木曽義仲の生涯が簡潔に展示されている。
源氏の血を引きながら木曽の山中で育ち、
やがて平家打倒の兵を挙げ、倶利伽羅峠での大勝利によって京を制した義仲。
しかし、源頼朝との対立により、粟津の戦いで非業の最期を遂げる――。
展示を見終えたとき、ふと感じたのは「義仲は木曽の人々に今も生きている」ということだった。
英雄というより、郷土の息子として深く愛されているのだ。
木曽路に息づく伝説
木曽路は、ただ美しいだけの道ではない。
歴史の記憶と人々の誇りが幾重にも重なった、魂の宿る道だ。
アクセス情報・旅メモ
- 巴淵:長野県木曽郡木曽町、国道19号線沿い
義仲と巴が生きた木曽路は、
今も静かに、しかし確かに彼らの息遣いを伝えている。
紅葉の季節、バイクで走る木曽路は格別だ。
あなたなら、この静かな淵を前にして何を思うだろうか。
歴史に想いを馳せながら走る秋の木曽路。
きっと、忘れられない一日になるはずだ。






