父は、不器用な人だった。
 

無責任で、
どこか子どもみたいで。

 

いつも少し威張っていた。

 

自分を大きく見せるのが好きだったけれど、
本当は小心者だったのだと思う。

 

だからだろうか。

 

家の中では、
女子どもを支配することで
均衡を保っていた。

 

兄は、父の期待を背負わされた。

 

従うこと。
強くあること。
弱さを見せないこと。

 

兄はいまも、
あの家の続きを生きているように見える。

 

私は末っ子だった。

 

父の直接の支配を
強く受けたわけではない。

 

でも、

父はきっと戸惑っていた。

 

大人になった私が、
従順ではなかったから。

 

意見を言う私を、
どこか面白くなさそうに見ていた。

 

私たちのあいだには、
静かな溝ができた。

 

埋めようとは、
もう思っていない。

 

父を憎んでもいない。

 

ただ、

哀れだと思う。

 

あんなふうにしか
大きくなれなかった人。

 

あんなふうにしか
守れなかった人。

 

そして同時に、

そんなふうに
冷めた目で見ている自分も

少し哀れだと思う。

 

父が死ぬまで、
私はきっとこの距離のままだろう。

 

近づきすぎず、
断ち切りもせず。

 

沈黙は、
今も続いている。