公演も終わり、落ち着きを取り戻した出演者やスタッフさん。ピリピリとしたムードが一転、みんなの顔にも笑顔が戻る。


私は控室の前に長く伸びる通路の先にある椅子に腰かけた。


今日はごめんなさいって謝らなきゃいけないけど、ちゃんと言えるだろうか。顔を見るといつも言葉に詰まる。


「はぁ~。」


「どうしの?ため息なんかついて。はい。」


両手に白い紙コップ。右手に持つお茶の入った紙コップを差し出してくれたのはソンミンさんだった。


「ありがとうございます。」


隣に座るソンミンさんはコップに入ったお茶を美味しそうに飲んだ。私も合わせるようにそれを口にする。


「喧嘩でもした?」


「はい?」


「ヨンセンさんと。」



喧嘩というか・・・。

話しちゃったら楽になるのかもしれないけど、私たちの事ばれちゃいけない。話したい気持ちをぐっと抑える。


「まぁ、喧嘩するほど仲が良いっていうから、心配いらないね。」


微笑みながらお茶を飲む彼のその横顔をじっと見た。


「僕の顔に何かついてる?」


「いえ・・・別に。」


「付き合ってるんでしょ?」


コップを口にしてこもった声で彼はそう言ってこちらを向いた。何で?どうして知ってるの?


驚いた私とは対照的に豪快に笑う。


「どうして知ってるの?そんな顔だね。ははは・・・ばれてないって思ってるの当の本人たちだけだよ。みーんな分かってるよ。」


「うそ?」


「ほんと!」


やっぱ私達って単純っていうか、嘘がつけないっていうか、必死で隠してたつもりなのに全然ばれてた。


「ヨンセンさんの事、相当好きなんだね。」


直球の言葉に、思わず顔が火照り恥ずかしくなって下を向く私。


「他の人なんて全く見えてないって感じだもん。」


「だけど・・・伝わってないって言うか、好き過ぎて遠慮しちゃうっていうか、ヨンセンさんの前の私って本当の自分じゃない気がするんです。」


どうして彼に本音を話してるのか自分でも不思議だったけど、彼の持つ包容力みたいなものがそうさせたのかもしれない。


「お互い好きなんだから、あまり気を遣わなくていいと思うけど。ヨンセンさんだって相当あなたの事好きだと思うよ。」


「そうかな?」


「うん。」


「だけど、ヨンセンさんてマイペースだし、めちゃくちゃやきもち妬きだし、時々すっごい意地悪になるし、何考えてるか分からない時がいっぱいあるし・・・。」


なんか、悪口ばかり言ってるみたいで今の私は嫌な女。


「だけど、そんなところが好きなんでしょ?」


不思議だけど、悪口だと思ってた言葉がソンミンさんの言葉で一瞬に変わる。


「ははは・・・やっぱり分かりやすい人だね。まあ、仲良くしてよ。」


そう言って紙コップを加えたまま立ちあがり、長い通路を進んでいく後ろ姿を見送るその時。


「いつもほんと仲良さそうだね。帰るよ!」


ぶっきらぼうにそれだけ言うと歩き出すヨンセンさん。立ち上がり前を歩くヨンセンさんの3歩後ろをついて進む。



いつも突然現れるからびっくりする。


「あの・・・」


顔を見たら言えないから、このまま朝の事謝っちゃおう、そう思って重い口を開きかけた時だった。


「怪我、大丈夫?」


「あ、うん。大丈夫。ごめんなさい。」


「別に、謝ることじゃないでしょ。それともやっぱあいつとなんかあるの?」


「ない・・・。」


「じゃあ別にいいじゃん。」


やっぱり、ヨンセンさんは素敵過ぎる。私にはもったいない位・・・。一緒にいると幸せだけど、どんどん好きになって欲張りになってそして苦しくて・・・そんな想いが幸せを超えちゃってどうしようもなく辛い。



やっぱり私には彼のすぐ側にいるよりも、ステージと客席みたいに距離が必要だって思った。


ちゃんと伝えよう。




さよならを・・・。




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さよなら言えるのかしら・・・。・゚゚・(≧д≦)・゚゚・。


片思いが幸せだったりすることもあるものね。