どんなに忙しくても、どんなに辛くても、どんなに平凡でも、どんな毎日だって朝になると太陽はのぼり夜になればその輝きが嘘のように空からは消え、そして暗い空には綺麗な星が輝く。
毎日当たり前の繰り返し。それでもそんな空の下に生きる僕たちの毎日には色んな世界がある。
そんな僕の世界。
「おっはよ~。」
さわやかな朝にとても似合うハイテンションな声で僕をいつも起こす彼女はそう、僕の世界に僕と一緒に住んでいる人。
初めて会った時には僕との空気感の余りの違いからこんな風に一緒に暮らすなんて全く想像もしていなかった。
ただ初めて会ったときから僕は彼女を見る時はいつも笑っていた。
よく言えば何事にも動じない強さを持っていて、悪く言えば周りの空気が読めないマイペース・・・なんだか自分の事を話してるみたいだけど、とにかく彼女の口から後ろ向きな言葉は1度も聞いた事がなかった。
僕がまださほど有名じゃない時も、忙しい日々送るようになった今でも彼女は全く変わらない。そんなところが僕にとってとても居心地が良くてこんな事言うと彼女は怒るかもしれないけれど僕にとって母親に似たそんな存在のよう。
「ヒョンジュン。おはよう。今日もいい天気だよ」
そう言ってベッドに眠る僕を起こす。起きなきゃいけないって分かってるけどなかなかすぐに起きられない僕は布団にくるくると巻きつき彼女の声を阻止する。
「あっヒョンジュン、白いカラスが飛んでる!」
くるくると巻き付いていた布団を体からはがし僕は窓の外を見る。
「あっ見間違いだ。」
そう言って僕を見る事なくスキップなんかしながらハイカウンターにあるコーヒーをまるでCMの様なわざとらしいしぐさで飲む。一口飲んでから僕の方を見る。
「白いカラスなんていたら見てみたいね、ヒョンジュン。」
そしてまたコーヒーを口に運ぶ。
「あー、毎日毎日色々と思いつくね。毎日毎日それに騙される俺もどうかと思うけど。」
彼女がいつも僕を起こすために色々と考える嘘・・・本当は嘘なんだって心のどこかでは分かってる。だけれど、いつもまっすぐに前を見て生きる彼女を見ていると、本当に白いカラスも飛んでたりするんじゃないかって気にさせる。
そうだな・・・怪我をした子供が痛いの痛いの飛んでけーってすると本当は痛いのに泣きやむ、それに少し似ているかもしれない。
彼女が言うと本当に見えてくる。それとも、彼女が黒いカラスを白って言ったら僕には白に見えてしまうのかもしれない。
そのくらい僕が彼女に心全て奪われてるって事なんだろう。
彼女の言葉にはとても凄い力がある。
そう、あの時
ある意味僕の人生においてとても大切な選択をしなくちゃいけない時があった。右に行くべきか左に行くべきか。僕は人生一発逆転って思ってるから右に進む人生と左に進む人生とではこれからの先大きく変わってしまうって僕はそう考えてなかなか答えを出せずにいた。
そんな僕の話を聞きながらうなづく。そして時々彼女は笑顔でこれだけ言う。
「大変そうね。」
答えを出さなきゃいけない時がどんどん迫ってくる。焦る僕はいつしか彼女の前でため息ばかりついていた。
そんな僕に彼女は
「なんだか最近私、愛が欠乏気味。あなたは私の星なのに。」
そう言って僕の前に立ち目を閉じる。そんな彼女の頬にキスをすると大きな目を見開き不満そうに僕を見つめる。
「なに?」
「なに?じゃないでしょ。そこじゃない。」
そんな事わかってる。僕が彼女の口から聞きたい言葉があるからね。そしてひとさし指を自分の唇にトントンとあてる彼女。そしてまた目を閉じる。
「ここ、ここにキスして。」
その言葉を聞いて僕は彼女にキスの雨をふらす。彼女が苦しいって僕の胸を両手で押しやるまで僕のキスの雨は降り続く。
「ヒョンジュン、私が死んじゃうでしょ。」
「こうして欲しかったんでしょ?」
「いやな人ね。でも元気になったわ。」
そしてスキップをしながらハイカウンターまで行きコーヒーを飲む。いつもはそう。だけど今日の彼女は椅子に座り僕に背中を向けたまま独り言のように喋りだす。
「右に進んでも、左に進んでも、きっとあなたにとってはどちらも困難が待ってると思う。
どちらかが幸せで、どちらかが不幸だと思うから選べない。困難の先にはどちらを選んでも輝く未来がある・・・そう思ったら答えは簡単じゃない?なんて。さっ今日も1日頑張ろう。」
すぐに彼女の言葉の意味を理解した。目の前にある霧がぱっと開けたような気持ちになる。
彼女は僕達の関係にいつも不安を持っていたのは知っていた。それに僕がいつも答えていた事と同じだった。
「ねえヒョンジュン。私たちっていつか別れるときがくるのかな。このままずっと一緒にいられるなんて思えないし。」
「先の未来なんて誰も分からないよ。だけどどんな未来があるのか分からないなら今こうして2人でいる世界を信じようよ。辛いことがあったってずっと辛いわけじゃない。いつも君が言ってるでしょ。僕が君の星。だったら僕が暗い夜空でも君を照らしてあげるから。」
「そうね。黒いカラスだって信じていれば白になっちゃうかも。」
ケラケラと笑う彼女を思い出す。
「ちょっと違う気がするけど、君は元気が一番似合うよ。」
それから僕は悩み続けた選択に答えを出した。そして今こうしてまた歌を歌っている。
そう、僕が彼女に言った、彼女が僕に伝えた言葉。
そして今でも僕の住む世界には彼女がいる。
いつもと変わらない毎日の中君が僕を照らしている。
「ヒョンジュン、おはよ今日もいい天気だよ。」
くるくると布団にくるまり彼女の声を阻止する。いつもの様に。
「あっ」
ん?今日はなに?
しましまのきりんでもいたか?それとも雨が下から上に降ってるのか?
「虹だ。きれい。」
眠い目をこすりながら僕は窓の外に目をやる。
「ほんとだ。」
僕は空にかかる虹をみつめる。これからどんな困難が待っているかもわからない。それでも今を信じて胸を張って前に進んでいこう。いつも僕の隣で微笑む、僕が愛してやまない彼女と共に。
どんなに忙しくても、どんなに辛くても、どんなに平凡でも、どんな毎日だって朝になると太陽はのぼり夜になればその輝きが嘘のように空からは消え、そして暗い空には綺麗な星が輝く。
毎日当たり前の繰り返し。それでもそんな空の下に生きる僕たちのそんな世界を。
~おわり~