「じゃあ」
「元気でね」
「君も。」
空港で僕を見送る彼女。彼女といってもとても大切な友達。
僕は彼女の前に小指を出した。
「そうだ、本当は僕ね、指きりって嫌いなんだ。」
「えっ、急にどうしたんですか?」
「約束を守るために指切りして、守ることが出来なかった時は針を飲まされたり、地獄に落ちたりするんでしょ?だから子供のときから指きりだけは絶対しなかったんだ。だけど、前に話した夢絶対にかなえる。僕は約束するよ。」
戸惑っていた彼女も小指を出しお互いを見つめながら指きりをした。
「また次会えるときにはきっと夢を叶えてマンネさんのステージ見に行きます。頑張ります。マンネさんも頑張ってください。」
そして絡めた指を離し固い握手をする。
この時の指きりと固い握手・・・きっと恋人同士が重ねるキスよりも何倍も何十倍も深くて強い約束だった。
そして僕達は別れた。
住みなれた場所に戻り忙しい日々を送る今、ふと時間が出来ると遠い空を見つめ彼女のことを思い出す。
大きな信号で君が転び差し出した僕の手。だけどきっとそれは彼女じゃなく僕のために差し出された手だったのかもしれない。
そしてその手のぬくもりを思い出し、「ガンバレ」って応援されてるような気持ちになる。
君の笑顔と、あの小さな花屋さんで頑張っていた姿が時に迷った僕の心に勇気を与えた。
そんなふうに僕は、僕達は今日まで頑張ってきたんだ。
そしてあれから2年が経った今日。僕の夢は現実へと変わる。
「間もなく時間です。お願いします。」
僕達のステージが始まる。そうずっと願っていたあの場所で。
僕はちゃんと約束守ったよ。君もここにいてくれてるよね?
沢山の人でこの中から君を見つけるなんて不可能に近い、この場所に君がいて夢をかなえた僕の姿を見てくれていると信じて、そしてあの時君にもらった沢山の勇気ほどあの時僕は君に何もあげられなった。
だから、今日僕は君への思いを歌うよ。
ステージを終えた僕達は本当に感動していた。
出待ちをしているファンの中車に乗り込む僕達。いるはずもない君を探しくるりと見渡すそんな自分。
押し寄せるファンに押されるようにぶつかり転ぶ一人の女性。まさかとは思いながら僕はその女性を見る。
「うそっ。」
それは紛れもなく彼女だった。僕がこうして夢をかなえ少し大人になったように、彼女も以前より大人になっていた。ううん、綺麗になっていた。
声を掛けることは出来なかったけれど、こうして僕の姿を見てもらえたのを知ることが出来、元気そうな彼女の姿を見ることが出来た。。
良かった。ちゃんと来てくれたんだ。
僕の夢が叶った今、僕に未来はあるのだろうか・・・。
空港に向かう前に出来た少しの時間。
僕はある場所に向かう。あの小さな小さな花屋さん。いるはずがないって分かっていたけれどあの時の懐かしさからそこに足が向かっていた。
あの頃と風景は少し変わっていたけれど懐かしさは今も変わらない。
あった。
お店の前に立つ僕。
「いらっしゃいませ。」
中から出てきたのはやはり彼女ではなかった。
当たり前だよな。あれから2年だもん。
僕はあの頃を思い出しそしてその店を後にしようとお店に背を向ける。
「あっ、ちょっと待ってください。」
声を掛けてきたのは小太りなオーナーらしい男性。
「もしかしてマンネさん?」
僕の名前がその男性の口から出たのに驚きながらも返事をした。
「これをあの子から頼まれてたんだ。もしも自分を訪ねてくる男性がいたら渡して欲しいって。ちゃんと渡しましたから。」
渡された小さな紙切れ。そこには住所が書かれていた。そこに向かい僕は進んで行く。そこに行けば彼女に会える嬉しさを隠し切れない自分。その場所にたどりついた僕はゆっくりとドアを開ける。
「はい。」
そう言った彼女は初めてあの花屋に行ったときと同じように口をパクパクさせていた。そんな顔が面白くておなかを抱え笑い転げる僕に彼女は言った。
「夢?お化け?それとも・・・」
「全部違いますね。」
「でも夢・・・みたいです。」
「昨日は来てくれてありがとう。君も夢かなえたんだね。」
「はい。頑張りました。あの時の約束が私の支えでした。」
彼女はフラワーコーディネーターとして活躍していた。
「お互い夢かなえたね。」
僕は彼女の前に手を差し出した。彼女もまたそれに合わせるように手を出す。
僕を支え勇気をくれたものが今もここにあった。そして夢をかなえた今僕はこの思いを全て彼女に告げる。
握手をした手をそのまま自分に引き寄せ僕は彼女を抱きしめる。
「離れている間ずっと君の事を思っていました。次の夢をかなえる時は僕の心のもっと近くにいてください。」
そして僕は恋人同士の約束をする。
指きりでも、
握手でもない・・・
深い深いキスを約束のしるしとして君に。
おわり