安倍元首相銃殺、恐れていたことが起きた

戦前の連続テロがもたらした治安維持体制強化、「言論の自由」抑圧

戦後史のタブー 自民党と統一教会の関係

メデイアも真相究明を、僕たちも委縮することなく行動を

 

#ゴールデンラジオ

大竹まことゴールデンラジオ(文化放送)

「大竹紳士交遊録」2022/7/12放送

放送アーカイブ:Podcast QR配信→

https://podcastqr.joqr.co.jp/programs/golden_shinshi/episodes/96c239b3-4323-427c-ad18-156d624b5cc6

YouTube配信→https://www.youtube.com/watch?v=QZs2enXCOWE

 

ゲスト:中島岳志(政治学者、東京工業大学 リベラルアーツ研究教育院/環境社会理工学院・社会人間科学コース教授。現代日本政治や日本思想史、インド政治などを研究)、

主な著書(『超国家主義-煩悶する青年とナショナリズム』(筑摩書房、2018年)

https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480843166/

『朝日平吾の鬱屈』(筑摩書房)、『血盟団事件』(文春文庫)

コメンテーター:武田砂鉄(フリーライター)

アナウンサー:砂山圭大郎

 

大竹:安倍元総理の殺害事件をいろんな角度からお話しいただける。

 

恐れていたことが起きた 

戦前の日本、テロやクーデターの頻発でどう変化した

 

中島:まず、私自身は、戦前の「超国家主義」と言われる、一連の5.15事件、2.26事件が有名だと思いますが、その前、大正の終わりぐらいから、要人の暗殺テロ、あるいはクーデター未遂というのが続いてきた。そのことについて研究をしてきた。

 なぜ、僕がこの研究を戦後15年程やってきたのかというと、同じような事が起き兼ねない、と思ったからなんです。そして同じような事が起きて、その後、大正の末から昭和の初期にかけて、日本がテロやクーデターの頻発を受けて、どう変化したのか、という事をしっかりと見ておかなければいけない、と思って研究をしてきた。もっともこの僕が15年間恐れてきた事が起きた、ということだったんです。

大竹:ということは、安倍さんじゃないかもしれないけども、こういう事が起きるのではないか、というふうに、中島さんは思っていらした。

 

戦前期と現在が似てきている日本

生きづらさ、鬱屈をためる若者たちの増加

 

中島:そうなんですよね。どういうことかと言うと、戦前期と現在が似てきているな、とこの15年程、思ってきていた。

 どういうことかと言うと、戦前には、ちょうど、「大正デモクラシー」が大正の半ば、1919年あたりに起きる。その政治運動と言うのは、ちょうど不況を背景にしておきるんですね。労働運動が非常に大きくなり、「労働者の権利を」、と。「資本家ばっかりが儲けてるんじゃないよ」、という下からの運動というのがあった。それを背景に第一次世界大戦が終わって、日本に不況がやってきた。ここから日本は長い不況の暗いトンネルの中をずっと走ることになる。金融恐慌や世界大恐慌と私たちも習ったが、そういう時代が1920年代に続く。

 そんな中で、いろんな生きづらさや、鬱屈を溜めた若者が増えてくる。そんな中で1921年9月に朝日平吾という無名の男性が、31歳だったんですけれども、起こした安田善次郎という人の暗殺事件というのがありました。安田善次郎というのは、安田財閥のトップの人で、東大の安田講堂というのが有名で、あれは、安田さんが寄付をしたから安田講堂なんですけど、それぐらいの大きな資産家だった。それを無名の一労働運動の男性が殺した。

 僕は、朝日平吾という人は、いったい何故そういう凶行に及んだのか、という事をかなり詳しく調べて、本を書いたことがある。そうすると、やっぱり幼少期の家庭不和があり、そしてなかなか何をやっても上手くいかない。そんな中、自分の実存の、何か手ごたえを求めて、彼は、軍隊に入るんです。帝国陸軍に入る。その後、除隊をした後、大陸にロマンを求めて、「何か夢を求めたい、認めてもらいたい」、と大陸に行くんだけど、上手くいかない。「何をやっても上手くいかない、上手くいかない」。で、日本に帰ってきて、それで政治運動に関わるけど、それも上手くいかない。「なんで、こんなに自分は上手くいかないんだ」と。

 当時日本は国体論というのがあって、「一君万民」「天皇の下で、すべての万民は平等である」というのが、日本の在り方である、というふうに言われた。なのに「自分はこんなに万民の平等というものから疎外されてしまっているのか」、「なんでこんなに不幸なのか」と言った時に、彼は天皇と国民の間に入って、邪魔をしている奴達がいる、と。当時の言葉で言うと「君側の奸」。それをやっつけなければいけない、というので、財閥のトップをテロで殺すということになった。

 これが、連鎖してしまった。この事件に影響を受けた、中岡艮一が21歳だったと思うが、青年が約1か月後に、時の首相、原敬を東京駅で暗殺する、と。こんな連続テロが起きた。

 

連続テロで強化された治安維持権力、治安維持法成立、「言論の自由」の遮断

 

 で、結果どうなっていったかと言うと、ここから時間をかけて、どんどん治安維持権力というのが強まって行く。つまり国家の側は、こういう事が起きてはいけないと、取り締まりをいろいろ強化する。思想的に極端な考え方を持っている奴は、事前にチェックをし、取り締まろう、という事になり、「治安維持法」、が1925年に制定され、これの元、共産党の検挙というのが有名ですが、それ以外でも右派の思想家などもどんどん検挙されていく。そんな中、1930年に、浜口雄幸という首相が狙撃をされ、そして3月事件、10月事件というクーデター未遂事件が起こり、1932年に、「血盟団事件」と「5.15事件」が起きて、これによって、政党政治が終わる。

 こんな事になって行き、「言論の自由」が、本当に遮断されてしまって、抑圧されてしまう。

このプロセスというのが、僕は、「日本にもう一回来てはならない」と思ってきた。なのでこのプロセスをしっかり見ておこうと思ってたんですが、まあ、非常によく似た、同じでは無いが、社会背景や、あるいは、おそらく今回の容疑者も、相当「生きづらさ」や、いろんなものを抱えていた、というのは、報道の中で明らかになってきている。

「う~ん、恐れてきた事が、起こったな」と率直なところでした。

大竹:この朝日平吾という人は、一度軍隊に入っていて、辞めている。この間の山上容疑者も、一度、自衛隊に入るが辞めたりして、この辺は似てる感じがしてると、感じる。

中島:その後、職を転々としていき、「何故、自分はこんなに他の人と違って、疎外され、恵まれていないのか」と言った時に、見えてきた敵が、朝日平吾にとっては資産家であり、今回の山上容疑者にとっては、宗教団体の問題があって、そこと非常に深い関係のある安倍元首相というところに、ターゲットが向いていった。そういう事なんだろうと思います。

 

世論が「取り締まって欲しい」、治安維持権力を待望する危険

 

武田:テレビや新聞なんかでは、「当日の警備体制はどうだったんだ」という議論がありますが、もちろん、それは見直す、調査をして、どうするべきか、という事は、議論しなければいけないが、それと、この社会の監視体制とか、まさに「この治安で大丈夫なのか」、というこの議論をやっぱり、一緒にしてはいけない、という議論がありますよね。

中島:おっしゃる通りなんですね。つまり、テロが頻発すると何が起きるかというと、国民の側が「取り締まって欲しい」というような感覚を強めていくわけです。「こんなの自分の日常に起きるのは、堪らない」と思うわけですから、そうすると、治安維持権力というものを、待望してしまうような世論というのが起きてしまう。

 

安倍政権が成立させた治安立法、「特定秘密保護法」「共謀罪」

マイナンバー、デジタル庁

スマホデータもSNSの書き込みもチェックされ当局に把握される

 

 今、この10年で、いろんな法律が通ったが、いわゆる秘密保護法の問題、テロ特措法と呼ばれる共謀罪、の問題、さらに僕はマイナンバーやデジタル庁というのも、こうした法律と関わっていると思いますが、いろんな形でスマホのデータ、SNSの書き込み、というのが、ある程度簡単に、チェックをし、管理当局、治安当局が把握できるような状況が生まれている。

 

準備は整っている

テロが世の中に恐怖心を与え

政権批判は「ヤメておこう」と世の中全体が委縮する

 

 準備は整っている。ここで何か、ある発言をした人が、例えば、逮捕されたと、というような事件が起きたら、僕たちどうなりますか? という事です。

 SNSで政権を批判的な事書いて、ヤバいことになったら嫌だから、「ヤメておこう」という事になったら、その「ヤメておこう」というブレーキが、これは最大の権力の作用なんです。

大竹:という事は、なんか、今回の事でも、警備の問題が問われている、という事は、もっと完璧に厳しく、責任の追及もあるだろうし、これはもうちょっと厳しくなっていくだろう、とは想像に難しくない。

中島:そうですね。それと同時にテロの鉄則だが、テロという言葉が、英語のテラーという言葉と連動しているように、「恐怖」という概念が非常に重要なんです。「世の中に恐怖心を与える」と。そうすると世の中全体が委縮する。委縮したことによって、何らかの政治的な変化が生じる。

 

テロによって私たちが変えられないことが重要

 

 この変化に乗じて、自分の思い通りにある方向に、導いていこうとするのが、いわゆる「テロリストたち」。特に集団化したテロリストたちの問題だと思うが、この「テロ」というものの影響力が「テロリストたちを生み出さない社会にする」ためには、「テロによって私たちが変えられないことが重要」なんです。「テロによって何かが動いた」という事になると、それ自体が「テロリストを生み出してしまう」根拠になっていく。だから、私は、金曜日にこの事件が起きた後に、一瞬、選挙運動が止まったんです。自民党や野党の立憲民主党も一時、街宣を見合わせるという事になった。

大竹:演説を止めよう、というような動きですね。

中島:そのニュースが飛び込んできて、「これはダメだ」と思って、いろんなメデイアに出たんです。「止めてはダメです」と。昨日と同じ今日が起こり、今日と同じ明日が起こる、というのが、テロリストに対して「私たちは変えられない」というメッセージになる。これが私は重要だと思いました。

大竹:今、テロ、というふうにおっしゃってるんだけど、テロの概念というのが、少し曖昧じゃないですか。中島さんのご意見では、今回もやっぱり、テロ、という枠の中に、この事件はある、とお考えになっているんですか?

中島:ちゃんと「テロ」と捉え、そして「テロ」に対する対策として、僕たちが行動する、というのが、すごく重要なことになると思う。

 

戦後史のタブー 自民党と統一教会の関係

 どういう事かと言うと、今回の場合、特定の政治家が、そのご自身の政治活動の一環ですよね。統一教会(旧)との関係というのは、まさに、選挙など、いろんなところに関わってくる政治活動に一環として行った行為。その行為に不満を持った人が、今回の事件を起こしたとするならば、これは間違いなく政治テロですね。そう捉えないと、僕たちは何かを見誤る、と思います。

大竹:その統一教会の問題というのは、どういう風に、捉えていらっしゃるか?

中島:政治学者とか、あるいは現代政治に関心を持って見てきた人間にとっては、常識に類するような所があって、つまり旧統一教会と自民党の関係、というのは、概ね永田町の界隈で、いろいろ見てきた人間は、みんな知っていたこと、なんです。しかも、特定の自民党の候補者というのは、旧統一教会から支援を受けて、大きな票を貰って、当選している、という事実もあります。ですから、そのあたり、統一教会だけではなく、いろんな宗教団体と自民党はくっ付いているんですが、その中で、統一教会については、私の若い時、高校生ぐらいの時、非常に、大きな芸能人の方々が、ここに入って、問題が報道でも、ワイドショーを賑わした時期があった。

大竹:桜田淳子さん、とか…

中島:はい、脱会プロセス、脱会のプロセスの問題というのも難しい。大きな社会問題になった。その後ぐらいから、何か表面で語られなくなって行ったんだと思います。統一教会の問題というのは。

大竹:それは、何故語られなくなったんですか? 何かプロセスがあるんですか?

中島:いろんな理由があると思います。例えば、私の知っている学者の方でも、この統一教会の問題について、いろいろ論じると、いろいろ大変な事がある。私もある学会の現場で見たことがあるが、統一教会からの脱会についての研究を発表した人に対して、統一教会のある有力な方が、現場に来て、糾弾をし始める、という事があったり、あるいは、いろんな形で抗議が来たり、大変な事がいろいろあるな。つまり、そこに手を付けると、「いろいろ厄介だぞ」、という感覚は、現代政治と宗教の問題について研究をする人たちの間で、肌感覚としてあったと思います。なので、ちょっとずつ遠ざかって行った、というのがあったかもしれない、みんな。

大竹:ちょっと、ここヤヤコシイノデ、あんまり口を大きく出さない方が良いのではないか、という“空気”ですか?

中島:そうですね。あったと思いますし、それはメディアも同様だったのではないか、と思います。

 

メディアも臆することなく、真相究明することが時代の務め

 

大竹:メディアもこの事に関しては、同様だった。

武田:昨日テレビで少なくとも、ああいう会見があって、それに対して、説明が不十分なところはあると思うので、それはメディア側が心がけなければいけないのは、昨日の会見をそのまま受け止めるというのではなくて、それに対して、ここは足りて無いでしょ、とか、ここはどうなっているんですか? という事を再度言っていく、という事が無いと、また同じようなサイクルに入ってしまいますよね。

中島:そうなんですよね。ですから、真相の究明というのは、やはりメデイアの方たちも臆することなく、しっかりとやっていく、というのが時代の務めだと思います。

 

【編集注】参照した方が良い動画・文献

・「安倍晋三議員宛公開抗議文」2021/9/17、全国霊感商法対策弁護士連絡会→

https://www.stopreikan.com/kogi_moshiire/shiryo_20210917.htm

・#戦後史のタブー自民党と統一教会「世耕元経産大臣の青山学院大中野昌宏教授に対する名誉毀損訴訟提起が言論抑圧のスラップ訴訟である」2020/9/24,反訴状、反訴原告:中野昌宏(青山学院大学 総合文化政策学部)

https://socioanalysis.net/slapp/wp-content/uploads/2020/09/nakano_slapp_20200925_counterclaim.pdf

・日本国憲法第二十条

「信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。 いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。

 何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。

  国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。」

・ETV特集「自由はこうして奪われた 10万人の記録」2018/01/18→

https://www.dailymotion.com/video/x6s975j

・『証言治安維持法―「検挙者10万人の記録」が明かす真実』2019/11、荻野 富士夫 監修、NHK出版新書→

https://www.nhk-book.co.jp/detail/000000886072019.html

・『刑法と戦争―戦時治安法制の作り方』2015/12/10、内田博文:著、みすず書房→

https://www.msz.co.jp/book/detail/07957/

・『治安維持法の教訓―権利運動の制限と憲法改正』2016/9/23、内田博文:著、みすず書房→

https://www.msz.co.jp/book/detail/08531/

・「原敬、浜口雄幸、犬養毅…一世紀前の暗殺連鎖の時代と現代の不気味な共通点」2022/7/10、朝比奈一郎:著、JBpress→https://news.yahoo.co.jp/articles/c067a2cc71d2cc4d8e2277ee43aa629bb7f3e9f6