日本語学校でバイトをして語学学校に通い、思い描いていたまんま、私は順風満帆な香港生活を送っていた。
何を見ても新鮮で、何を食べても五感を刺激し、何が起こっても平気だった。
きっと香港人夫がいつも傍にいて、問題があれば私が困る前にスッと手を差し伸べて助けてくれていたからだと思う。
半年が蒸し暑い夏の香港。当然(なのか?)ゴキブリが汚い街を徘徊している。
日本の実家では、シロアリ駆除とかしていたからめったにお目にかからない対象だったけど、香港では普通にごろごろいる。それも、日本の倍以上のボディーと飛行力を持つ。日本のそれみたいに、すばしっこく走るイメージはない。悠々と歩いているのが常。
そのゴキちゃん、ある夏の深夜、我が家をご訪問。
明かりを求めて(?)お風呂とトイレの窓から飛んで入ってきた。うち、25階だよ?どーなってんだ。
そして、着地点は私の手の甲。
何か大きな黒い飛行物体が手の甲に着地するまで全てがスローモーション。
ぶったまげた。
香港人夫も近くにいたので、「ギャー」と叫んで手を一振りしたら、ゴキちゃんは再び飛行した。
次の着地は、洗い立てのタオル。
((香港ではベランダがない家が普通で、部屋干しが一般的。
洗濯大好き、太陽で完全に乾いたふわふわタオルが大好きな私が、香港で不満でならなかったものの一つが部屋干し。夏は湿度が高く、完全に乾かないから、いつも臭いし、時には壁までカビが生えてくる。私は黒の革製ブーツを青カビで真っ青にした。))
タオルに着地したのを見届けて、香港人夫がオロオロしている間に、私はすばしっこく別室に逃げた。
香港人夫も後を追いかけてきたけど、私は鍵を掛けていたから入れなかった。笑
「ほうきを探して」「タオルからヤツを落として」「殺ってしまえ」・・・部屋の中から的確に指示を出す私。
言われたとおり、オロオロしながら半泣きで戦う香港人夫。
数回バシバシという音が聞こえて、どうやらほうきの下に敵をしとめたと分かった時点で部屋を出た。
最終の処理が出来ない香港人夫からほうきを取り上げ、「おりゃー」
最終の最終の処理は香港人夫の仕事。
深夜12時の訪問からなんと、3時間経っていた。
手の甲に刻まれた、ヤツの感触は忘れられない。