移植についても触れておきます。

オーストラリアはけっして移植先進国ではありませんが、移植施設を限定しているので、それなりの症例数があります。当院はNSW唯一の心肺移植施設で、年間心移植25例肺移植45例ほど。さらに臓器採りにも行きますし、VADも全例移植施設で埋め込みます。

心臓移植の経験を積みたい(が、IELTSがPassできない)心臓外科医にとっては悪くないと思います。

また、ときどき胸部外科医が肺移植の勉強のためにフェローとしてやってくることがあります。肺移植のボリュームはかなり多いほうだと思いますし、肺移植内科のボスがご高名な方のようで、肺移植に興味がある方も勉強になるのではないかと思います。

ただし、普段は8-9割心臓手術の助手ですし、バイパスの静脈採取もしなければいけないので、なかなかつらいかもしれません。なにより通常の肺手術に関しては学ぶものがないと、以前うちにいた胸部外科医の先生はおっしゃってましたので、あまりお勧めはできません。

今日はうちの病院での臨床留学のメリットについて書きます。

一番は当然IELTSにおけるボーナスです。
「留学したい!でもIELTS7.0は厳しい!」、という方には朗報ですね。

心臓外科施設としてのレベルは?というと、まず一般的にオーストラリアは比較的保守的な手術をしている施設が多いと思われますので、最先端の心臓外科医療を見たいという方はそもそもオーストラリアには向いてないと思われます。
その中でも当院では比較的新しい、もしくは日本では勉強できなかった手術も行っているんじゃないかと思います。
A弁のSutureless Valve、Mitral Clip、TAVI、(新しいわけではありませんが)MICS(M弁-Mini-thoracotomy、A弁-Hemi-sternotomy)、Heartwareを用いたLVAD, BiVADなどです。

術者の技術としては、全てではありませんが、非常に高いと思います。昔の記事にもありますが、オーストラリアNo.1といわれたDr.F(残念ながらそろそろリタイアですが)、個人的には現AUS No.1ではないかと思っているDr.Jと、新旧AUS No.1がいます。
(他の術者の事はまったく知りませんが、Dr.J以上の術者がいるとは到底信じられないほど上手な術者です)
他の術者も素晴らしいのだと思いますが、この二人の前では霞んでしまうので・・・

自分で執刀できなくても、彼らの手術を毎日手伝っていると、いい手術のイメージとリズムが身につき、いざ自分で執刀するときに非常に役に立ちます。

「人手が足りないから英語できなくても来てくれ!」、なんて状況で行ったら、単なる労働力としてこき使われるだけやん、と思われるかもしれません。

その通りです(笑)
でも、私は日本の病院のこき使い方よりよっぽどましでしたし(プライベートの時間はこちらが圧倒的に多いです)、そうやってただただこき使われようとも黙々と働いたからこそ、今の自分があると思っています。
昨日の記事で、IELTSクリアできそうな方にはお勧めしませんと書いた理由が気になる方もいらっしゃると思います。Sydneyにきてからこんなはずじゃなかった・・・と後悔されるのは嫌なので、はっきりと書いておきます。

うちの病院では執刀は数えるほどしか出来ません。というのはフェローの数に対してフェローに回ってくる手術数が少なすぎるからです。
その理由としては、

・うちのコンサルタント(上級医)がかなりの慎重派で、フェローに回ってくる手術はRiskのないCABGかAVRのみ
・Fellowshipに参加してる、LocalのTraineeが必ずいる
(当たり前ですが、Trainee Registrarは優先的に手術できる)
・心臓施設として有名なため複雑な手術が多い
・単弁はMICSをやっている(今のところMICSはフェローには回ってこない)
・移植のため定期手術のキャンセルが多く、単純なOPは他の施設に回る

などなどです。
実際一年働いて、最後に1-2例だけやって国に帰っていったフェローもいっぱいいます。
出来てもせいぜい10例・・・・・・も無理でしょうね。

もちろん他の病院でもたまたまTraineeがいたり、長年そこで働いているフェローがいたりすると、同じことですが、おそらく少しはましでしょう。

なので、オーストラリア留学に求めるものが次のような方は向いていません
・ とにかく執刀したい
・ 病棟管理、オンコールも含め、ローカルと同じように働きたい

これだけかくと誰も来てくれなさそうなので、次回は良いところも書いてみます。