棒男と優女の夫婦交換日記 -2ページ目

棒男と優女の夫婦交換日記

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物心をついた頃から鼻炎だった。

左右どちらかの鼻が慢性的に詰まっていて、呼吸は鼻口両刀使い。自分の中では一番大きな疾病である。30歳を過ぎた頃、ナザールという点鼻薬に出逢った。ナザールは慢性的な鼻詰まりを劇的に緩和し、両鼻呼吸という極楽浄土へと導いてくれる。これを知った直後には、嬉しさと感動のあまり、周りに自慢しまくった。そして、この出逢いが僕の人生を大きく変えた。

ナザールには依存性がある。

「ナザールジャンキー」、これが無いと日常生活を普通に送れないという程。自分の生活導線や身の回りには常にナザールがあり、視野にあのエメラルドグリーンの色彩がないと不安で仕方ない。「ポケットの中」「会社のデスク」「枕もと」「居室」「鞄の中」と最低でも5つ常備。効果は2~3時間程度なので、目覚めに「シュッ!」、会社に着いて「シュッ!」、打合せ中に離席しトイレで「シュッ!」、飲み会中にもトイレで「シュッ!」。「シュッ!シュッ!」。

こんな生活が、およそ6年続いた。

ナザールの依存は鼻を破壊する。

僕がナザールと縁を切るきっかけになったのは「睡眠障害」。副作用は酷く、効果が切れると両鼻が97%程塞がる。さすがに苦しくて深夜に1、2度目が覚めてしまう。目覚めると肺が疲れているのが分かるくらい重症で、疲れをとる睡眠とは程遠く、熟睡ができない日々が続いた。

約30年ぶりに耳鼻科へ。初診の第一声で、「ナザールは今後使わないように」とのこと。この瞬間から、あの日の禁煙と同じように永遠の別れを誓った。

診断の結果は「アレルギー性鼻炎」に加え、ナザールの使い過ぎで「肥厚性鼻炎」、さらにCTにより「鼻中隔湾曲症」と判明。この診断結果に「手術しますか?」と医師。喰い気味に「ハイ!」と僕。鼻炎を治したい思いとは裏腹に、入院してゆっくり休みたい気持ちもあった。何せ、社会人になってから人一倍ハードな環境で働いてきた僕にとっては、入院生活は憧れであり、休息できる唯一の手段なのである。手術は「鼻中隔矯正術」及び、「粘膜下下甲介骨切除術」というもの。
この日から入院日をまるで遠足にいく小学生のような気分で指折り数えた。
2ヶ月後の手術に向け、依存性のない点鼻薬と飲み薬を処方された。ナザールの無い生活は始めは辛かったものの、三日目を過ぎる頃には必要性を感じなくなっていた。もっと早く辞めておくべきだったと大きく後悔。且つ、処方された薬が以外と効果を発揮し、もしかして手術しなくてもイイんじゃないの?と思うほど。

やってきました、入院当日。ギリギリまで仕事をし、14時に滑り込むように病院へ。早速入院の手続きを終え病室へ。一息つくと、仕事終わりのビールがどうしても飲みたくなった。看護師さんへ「アルコール飲んでいいっすか?」と聞くと、「あんたバカですか?!」とでも言いたげな顔でやんわり指導を受けた。場違いな事を言ってしまったと反省しつつ、この日の晩は今迄の激務から解放され、22時台に泥のように眠った。

手術当日、7時起床。目覚めはとてもいい。仕事からの解放と、手術への期待。15時半の手術までまだ時間があり、静かで穏やかな時が流れる。窓辺に腰掛け「お小説でも読もうかしら」とブルジョワ気取りでニンマリしてみる。TVを見てみもつまらない。TVを消す。本を読む。飽きる。やる事が無い。つまらない。このつまらなさが凄く楽しい!「入院生活最高!」心の中で大きく叫んでみた。

気がつくと13時半、手術迄あと2時間。時間が迫ってくると、さすがに不安になり、14時半くらいから心の準備をしようと決心した。その矢先、涼しい顔で看護師さんが病室へやって来るなり「予定が早まって14時から手術です。紙オムツつけてください」。僕は「予定通りの時間でお願いします!」と強く言いたかったが、驚きのあまり声が出ず、窓辺で金魚のように口をパクパクして取り乱していた。心の準備も何も無いままに、オムツを纏い手術室へ徒歩で向かう。恐くてちょっとチビッたが、紙おむつが瞬時に吸い取り「この為の紙おむつなのか」と少し癒された。
眼前にはドラマで見た手術室の風景、エリートな奴らが右往左往している。「皆働いているなぁ」としみじみ思う。この状況下で意外と冷静。
全身麻酔は初めてで、どういうものか興味深かったが、点滴の管から冷たいものが挿入されると瞬く間に意識が落ちた。落ちるまで、時間にして5秒。とても気持ちよかった。
全身麻酔は1934年に初めて行われたらしいが、それ以前は局部麻酔や麻酔無しでの治療だったはず。
自分が生まれ育ったこの時代は最低なロスジェネ世代だが、良い時代に生まれたなと初めて実感した。

手術が終わり2時間ほどで目覚めると病室へ移動。途中で妻が視界に入った。薄い意識の中でもはっきりと確認できた。こういった状況で支えてくれる唯一無二の存在だと改めて気付かされ、愛しく思った。今も思う。
この日は鼻の中がガーゼでパンパン。口呼吸しか出来ず、とにかく苦しくて、苦しくて、苦しくて、睡眠もろくにとれない。とはいえ、本当に苦しいのはこの一日だけ。あとは口呼吸にもある程度慣れ、昼寝も出来た。味は分からないが、飯も食えた。入院生活、満喫出来そう!

手術から二日目、鼻の中につまっているガーゼを遂に抜き出す。片鼻に6本、計12本のガーゼは完全に鼻の機能を奪っているので、待ちに待った診療。全部抜いてくれるのかと思いきや、今日は8本しか抜かないとの事。ちょっと期待はずれで頭に来た。不機嫌な僕。
医師は僕の鼻をほじくり返し、ガーゼを抜く。と、とんでもなく痛い!激痛で気を失いそう。擦り傷だらけの鼻の奥から、指の太さ程の大きなガーゼがほじくり出される。深夜労働で搾取されてきた強靭なメンタリティを持つ僕でも、この痛さは我慢出来そうも無い。しかも1本目で失神寸前。「ぐウ~・・」と自然に声が出る。涙も鼻血もボタボタと、垂れ流し状態。これは凶悪犯への拷問に打ってつけ。8本は正直抜き過ぎ。1日1本でイイっす・・。

手術から三日目、ガーゼを全て抜き終えた後の感覚は、フルマラソンを完走した時の達成感に似ている。それを経て、両鼻に心地よい風が通ったあの瞬間の嬉しさ、というよりも美味しさ。青山の高級フレンチを食した時の鼻から抜けた香り以上に美味しい。空気が美味しい!!

入院から五日目の土曜日、遂に退院。本当にあっという間。正直もっと入院していたい。なぜなら仕事がしたくないから。

そんなこんなで、あっという間に月曜日から職場復帰。復帰週からタクシー帰り、朝帰りの生活に舞い戻りました。これにはさすがに人の冷たさを感じつつ勤しんでいる。

まだ綿球は詰まっているが、鼻通りは良好。脳みそキレッキレの状態。あと1~2週間先の自分が楽しみで仕方ない。
女『車のエンジンがかからないの…』
男『あらら?バッテリーかな?ライトは点く?』
女『昨日まではちゃんと動いてたのに。なんでいきなり動かなくなっちゃうんだろう。』
男『トラブルって怖いよね。で、バッテリーかどうか知りたいんだけどライトは点く?』
女『今日は○○まで行かなきゃならないから車使えないと困るのに』
男『それは困ったね。どう?ライトは点く?』
女『前に乗ってた車はこんな事無かったのに。こんなのに買い替えなきゃよかった。』
男『…ライトは点く?点かない?』
女『○時に約束だからまだ時間あるけどこのままじゃ困る。』
男『そうだね。で、ライトはどうかな?点くかな?』
女『え?ごめんよく聞こえなかった』
男『あ、えーと、、ライトは点くかな?』
女『何で?』
男『あ、えーと、エンジン掛からないんだよね?バッテリーがあがってるかも知れないから』
女『何の?』
男『え?』
女『ん?』
男『車のバッテリーがあがってるかどうか知りたいから、ライト点けてみてくれないかな?』
女『別にいいけど。でもバッテリーあがってたらライト点かないよね?』
男『いや、だから。それを知りたいからライト点けてみて欲しいんだけど。』
女『もしかしてちょっと怒ってる?』
男『いや別に怒ってはないけど?』
女『怒ってるじゃん。何で怒ってるの?』
男『だから怒ってないです』
女『何か悪いこと言いました?言ってくれれば謝りますけど?』
男『大丈夫だから。怒ってないから。大丈夫、大丈夫だから』
女『何が大丈夫なの?』
男『バッテリーの話だったよね?』
女『車でしょ?』
男『ああそう車の話だった』