川野:なるほど。日本を飛び出したからには、現地に合わせた柔軟な姿勢も必要ということですね。

 ところで、そもそもなぜ中国で式場運営をしようと考えたでしょうか?



瀬谷:当初は、老人ホームの事業を考えていました。それでいろいろ動いていたのですが、そのとき紹介された中国企業の社長が、現在パートナーとなっている金庭庄園酒店の社長だったんです。で、結局、老人ホーム事業はタイミングが合わず、断念したのですが、並行してブライダル事業も考えていた時に金庭庄園酒店の社長が、「結婚式場もやってるから、結婚式場を一緒にやりませんか?」という提案をいただいたのがキッカケです。



川野:提案を受けたとはいえ、採算の合う見込みがなければ決断できませんよね? 手ごたえみたいなものはあったのでしょうか?



瀬谷:一番は、金庭庄園酒店の社長の「儲かるよ!」の一言だと思います(笑)。弊社の藍意創貿易(上海)有限公司の社長と金庭庄園酒店の社長との間に、それだけの信頼関係が築けていたということです。実は、この事業の仮契約の時に金庭庄園酒店の社長から急に出資金の提供を求められたんです。弊社の社長は、ここが大きな分かれ道だ、と決断し、総出資額からすればわずかではありますが、即金で応じたんです。これを機により信頼関係が深くなったと考えています。今では良いパートナーとしての関係を築くことができています。



川野:なるほど。金庭庄園酒店の社長からすると、御社の社長の本気度を見ていたのかもしれませんね。それに応えた社長もすばらしいですね!

 では、中国企業がパートナーということは合弁ですか?



瀬谷:いえ。他の6会場は金庭庄園酒店の所有ですが、このVIP威尼斯会場は金庭庄園酒店と藍意創貿易の共同所有です。我々は7つ目の会場としてVIP威尼斯会場を共に出資、設立し、運営を任されているという形です。支配人に上村を迎え、日本式サービスを取り入れた「VIP威尼斯」を我々で回しているという状況です。

 簡単に言いますと、「金庭庄園酒店 VIP威尼斯部門」と言った感じでしょうか。



川野:あまり聞いたことのない形ですね。つまり、「VIP威尼斯」の運営を金庭庄園酒店が御社に任せ、利益はお互いに分けるという契約をしているということでしょうか?



瀬谷:その通りです。この方法だと、設立や営業許可に関する申請や許認可などをこちらで動く必要がなく、ノウハウを提供することに専念できますし、何より、パートナーはもともと中国企業なので、より深く中国社会に入り込んで企業活動ができているのが良いですね。



川野:これからの、日中企業の新しい形のひとつかもしれませんね。

この形のポイントはどこでしょう?



瀬谷:そうですね。やはり信頼できるパートナーを見つけることではないでしょうか? しかし、そのパートナーも現地の中国で活動したからこそ見つけることができ、また信頼関係を築くことができたのではないかと思います。



川野:なるほど。では最後に、今後はどのような「VIP威尼斯」を作り上げていくのかをお聞かせください。



上村:当初は、徹底した日本式のサービスを! と考えていましたが、今後は日本式サービスの良いところ、中国式の良いところを取り入れ、この「VIP威尼斯」にしかできないサービスを作り上げたいですね。そして、そのサービスを心地よく感じていただき、来館されたお客様に威尼斯を好きになって欲しいですね。「ここに来てから日本が好きになった」とか、「日本とは色々あるけど、ここは好き」とか、言っていただけたら嬉しいですね。そしてスタッフが「お客様に喜んでいただくことを考え続けれる」人になってほしいですね。



瀬谷:この事業を始めたときから、「上海No.1になろう!」と言ってきました。サービスもそうですし、ここから発信する情報、日本の商品、日本の良さが上海中に伝わるような場にしたいですね。実は、この「VIP威尼斯」で最初に変えたのは、服務員の制服だったんです。もともとの制服は何と表現したら良いのか、田舎くさい、イケてない感じだったものを、フォーマル風の清潔感ある制服に変えたんですね。そしたらいつの間にか他の6会場も、「VIP威尼斯」と同じような制服に変わってたんですよ。我々が導入した物が受け入れられ、広がっていったんです。今後は、「VIP威尼斯」が発信したサービスや情報や習慣が、上海中に広がっていくような上海No.1の会場にしたいですね。



川野:本日は貴重なお話しを聞かせていただき、ありがとうございました。



※記事内の情報は、すべてインタビュー当時の情報に基づいています。














企業名:「金庭庄園酒店 日中合作 VIP威尼斯VENIS)」

応対者:支配人 上村氏、業務経理 瀬谷氏

日 時:2013227


中国で活躍する日本人老板(ボス)へ直撃インタビュー!-ヴェニスお二方

支配人 上村 進 氏(写真右)

生年月日:197575

趣味:ギター、カメラ、料理、ウェイクボードなどなど

出身県:兵庫県尼崎市

座右の銘:「今を生きる」


業務経理 瀬谷 廣大 氏(写真左)

生年月日:198131

趣味:スノーボード、野球、スポーツ観戦

出身県:茨城県

ちょっとした自慢:高校英語教諭の免許



中国で活躍する日本人老板にインタビューをする第4弾。今回は「金庭庄園酒店 日中合作 VIP威尼斯(VENIS)」さんを訪問しました。上海にて結婚式場の運営をされている企業です。日本の結婚式との違いはあるのか? そもそも中国の結婚式ってどんな感じ? なぜこの業界に進出しようと考えたのか? など尽きない疑問をいろいろ聞いてきました。



インタビュアー 川野(以下 川野):まずは、この式場についてですが、オープンしたのはいつでしょうか?



業務経理 瀬谷氏(以下 瀬谷):昨年2012年の55日にオープンいたしました。この金庭庄園酒店というホテルにはここと同じような結婚式などを催せる会場が6つあるのですが、7つ目の会場がこの「VIP威尼斯」(日本語表記だと「ヴェニス」)ということになります。

 当会場は、土日は結婚式がもちろん多いのですが、平日には企業様の宴会、例えば忘年会や新年会、あるいは新製品発表会やバイヤー商談会、進出記念、創立記念パーティーなど様々なイベントにご利用いただいております。弊社は、この会場をお貸しし、食事とサービスを提供するというのが主な業務となります。



川野:なるほど。結婚式だけではないんですね。この会場ではどのくらいの規模のイベントが開催できるのでしょうか?



瀬谷:10名様の円卓で最低250人から最大500人まで収容が可能です。



川野:えっ? かなり大きいですね! 一般的にそのような規模で中国の結婚式は行なわれるのですか?



瀬谷:いえ。すべてがそうというわけではありません。当会場は他の式場やホテルと比べ、比較的大きな会場になると思います。最低収容人数が250名様で基本料金が設定されています。設備には、正面にある300インチの大型スクリーンに投影するプロジェクターが2台、8台のプロジェクターで天井全面に映し出す「天井スクリーン」。スイッチで見えたり、見えなくなったりする「調光ガラス」、様々な演出にお使いいただける10台の「ムービングライト」、そして音響は映画館のような音をお楽しみいただける「シアターシステム」という風に、派手好きな中国の結婚式で必要なものが全て備え付けてあります。なので、設定金額は少し高めです
ちなみに、2階にも最大80名様がご利用いただけるようになっています。
支払いに関しても、大体の会場は半分前金になり事前にまとまったお金が必要になりますので、ある程度支払い能力のある方じゃないと難しいと思われます。先日ご利用いただいたのは、新郎新婦がどちらも銀行に勤めている方で招待客が多く500名近い列席者でした。招待する方も多くなると金額はやはり上がります。予算としては、500人の招待客で250万円くらいですが、一人当たりの単価は日本よりは安くなります。



川野:なるほど。ちなみに、日本と中国の結婚式での大きな違いというのは何でしょうか?



支配人 上村氏(以下 上村):私は日本にいる間、長年ブライダルに携わってきたのですが、最初に見たとき違いすぎて驚きました。ひと言で言うと、「ド派手!」。



川野:と言いますと?



上村:披露宴の進行は、日本の分刻みのスケジュールや感動をプロディースするのとは違って、基本的にはショーのような雰囲気です。新郎新婦が入場してくるときプロポーズをしたり、抱き合ったり、歌を歌いながら入場したりと「何でもアリ」でスタートします。高砂と呼ばれる新郎新婦専用のテーブルはありませんので、入場して司会者が盛り上げる言葉を言ったらみんなで拍手して、乾杯して、そのまま退場になってお色直しをします。退場もまるでファッションショーのように退場します。

新郎新婦は素敵なドレスを着て、日本で言うブライズメイト、女性の友人等は綺麗な格好でご来館されますが、ほとんどの方は普段着の方です。




川野:え~! 結婚式ですよね?


上村:もちろんです。でも中国ではこれが当たり前なんです。招待客の服装はあまり制限がありません。普通に私服なんです。女性は多少おめかししていますが、男性はヒドイです。夏はポロシャツに短パン、サンダルという人もいるし、冬は、ジーパン履いてジャンパー着てスニーカーとか普通ですから。さらに、新郎新婦のご両親も私服ですよ! 日本のように燕尾服なんてまず着ませんね。



川野:想像するだけでもすごい状況ですね…。そのような中で、他の会場とはどのような差別化をされているのでしょうか?



上村:やはり我々日本人が運営に携わっていますから、日本式のクオリティの高い行き届いたサービスの提供ということになります。ただ、こちらは日本のように各個人のお皿に料理を乗せて提供するという形式ではなく、円卓に大皿の料理をドーンドーンと乗っけて回転テーブルを料理でいっぱいにすることがおもてなし、という感覚なので、すべてが日本式というわけにはいきません。

日本の披露宴列席者は平均50名前後ですが、こちらの式場は平均350400名が通常です。なのでサービス範囲も制限され、時間も限られてしまいます。



川野:日本式サービスを提供するには従業員の教育が重要かと思いますが、どのようにされているのでしょうか?



上村:教えることは基本的に日本と変わりません。お皿の持ち方やグラスの運び方、姿勢や笑顔など。ただ、こちらの訓練方法が軍隊形式で最初はおもしろかったですよ。グラスを運ぶお盆を手の上に乗せますよね。そのお盆にレンガを乗せるんです。それで腕を鍛えさせるみたいなんです。「安全・安心を」というより「速さ」や「汗かいて訓練してる」感はすごい出てるんですが、「これ意味あるんかな?」と思いながら…。確かに筋力も必要ですが…



川野:日本ではあり得ないですね!(笑) 

 そのような従業員教育を改革されて、どのような点に苦労されましたか?



上村:そうですね。先ほど招待客の服装やマナーについて話しましたが、それで分かるように日本とは意識や感覚という点で、すでに大きなギャップがあるんですね。服務員(日本で言う接客係)も、もちろんそれが当たり前と思っていますから、日本のサービスを教育しても「なぜここまでする必要があるのか?」「これをやる意味があるのか?」と思ってしまうんですね。そういった目線を変えることに苦労しました。あとは、楽を知ってしまうと、新しい事を覚えても指導し続けないとすぐに楽な方に戻ってしまう傾向があります。やるなら最初からやらないといけませんね。



川野:具体的には?



上村:トレーニングのとき、先ほど話したのと同じように手の上にお盆を乗せます。今度はレンガではなく、コップのふちギリギリまで水を入れたグラスをお盆に乗せるんですね。その状態で歩かせて競争させるんです。そうするとみんな速さを競ってゴールして、速かった男の子は得意げな顔をしてるんですよ。でも、グラスの水は半分くらいまで減ってお盆は水浸し。私は一番最後にゴールした女の子に「一番!」と言いました。彼女は、グラスの水をこぼさないように歩いてたんですね。ところが、彼らからすると「え? 何で?」となるんですよ。グラスの中に水は残ってるじゃないか…と。中国人には、その「何で?」の説明からしなくちゃいけないんですね。この部分は日本では必要ないんですよ。お客様の立場で考えれば普通分かりますよね? 水浸しのグラスなんて誰も欲しくはないじゃないですか。ただ…服務員は田舎から初めて出てきた17歳の子からいますので、僕らの「常識」は彼らにとっては「常識じゃない」部分が多いですね。披露宴はもちろん、マナーが必要なパーティーやホテルでの食事をしたことのない子たちですから、当然と言えば当然と思います。



川野:なるほど。この意識改革は大変ですね。



上村:そうですね。最初、中国に来る前は、「日本のサービスを徹底して、良い式場を作ってやる!」という意気込みがあったんですが、この現状を目の当たりにして、相当ヘコみましたね…。意識のギャップがあまりにもありすぎるということで。しかも、先ほど言ったように、日本のサービスを教え込もうにも「その必要あるの?」「こっちはこっちのやり方があるから…」みたいな態度が見えたので、しばらくはかなり落ち込んでました。自分がここに来た意味があるのか…という思いで。でも、毎日のように悩んで、現場を観察して、方針を少しずつ作っていき、やっと気持ち的にも乗り越えることができたと思います。



川野:それはどのようにして?



上村:日本式サービスがベースにあって、この現地に合わせたより良いサービスを提供しようと考えることにしたんです。中国には中国のいい文化やサービスがあり、日本の良さはもちろん通用すると。だから両方のいいところを融合させて「威尼斯のサービスの形」を作ろうと。
これは、自分にしかできないと思っています。



※記事内の情報は、すべてインタビュー当時の情報に基づいています。


つづく

















 戦場視察のため、とある街に来た劉備、関羽、張飛の3兄弟。列車に揺られること10時間。ようやく目的の駅にたどり着き、改札を出た。窮屈な車内から解放されホッとしたのもつかの間、今度はまとわりつくような蒸し暑さに汗がふき出してきていた。3人は汗を拭いながら、駅前から目的地まで行く方法を探していた。しかし田舎の地方都市で目的地も郊外の辺鄙なところ。交通手段が見当たらなかった。


「兄貴達。こんな田舎まで来て、いったい何をしようってんだよ。目的地まで行く足がないようだから、もう帰ろうぜ」


 張飛が明らかに面倒くさそうな表情をしていた。


「何を言う、翼徳。戦場視察は戦の前の重要な情報収集だ。いやならお前ひとりで帰れ」


 関羽は大真面目で、自慢の髭をなでながら言った。


「雲長の言う通りだ。帰ってもいいんだぞ」


 劉備も冷たく言い放った。張飛の文句は毎度のことだった。


「兄貴、冗談だよ。お、ほら、あそこにタクシーがいるようだぞ。あいつに連れて行ってもらおう」


「しかし、あれは正規のタクシーではないぞ。会社名もないし、メーターもない」


 いわゆる黒タクシーだ。関羽が眉をしかめた。


「仕方あるまい。見たところ他に手段もなさそうだ」


 額の汗をハンカチで拭いながら、劉備が大らかに言った。


 そんな話しをしていると、その車の横に立ってじっとこちらの様子を窺っていた男が手招きしながら寄ってきた。


「お三方、どちらまで行かれるんで? ここいらは交通手段が車しかないから、不便だよ。さぁ、乗ってくれ」


 人の良さそうな笑顔だ。年は30前後。元気の良さが、張飛は気に入った。


「兄貴、こいつなら信用できるだろ。さっさと終わらせて、飲み屋に行こうや」


「分かった。行こう」


張飛に促され、劉備と関羽は車に乗り込んだ。


「どちらまで行かれるんで?」


 男が運転席に乗り込み、尋ねた。


「赤壁のあたりまで」


 助手席に座った張飛が答えた。


「ちょっと遠いな。1時間以上はかかりますぜ」


「いくらだ」


500元はいただかないと…」


「高けぇ! てめえ、ボッたくるつもりだな!」


 張飛が目をむいて叫んだ。


「大兄、降りましょう。別の車を手配します」


 関羽が冷静に言った。


「分かった、分かった。あんた達は友達だ。特別に300で連れて行く」


200ならいいぞ」


 張飛が横柄に言った。


「分かった。特別に250だ」


 運転手は粘った。


「兄貴達、降りよう」


 張飛がドアを開けた。


「分かったよ。200で連れて行ってやるよ」


「始めからそうしとけばいいんだ」


 張飛が、腕組みをしたままあごを突き出し、車を出すよう促した。

 渋滞もない中心部を走り、高いビルも見当たらない市街地を抜け、郊外のホテルを通り過ぎると、運転手が急に車を停めた。


「おいおい、赤壁まではまだまだだろう。どうした、小便か?」


 張飛が冗談交じりに言った。


200元ならここまでだ。さ、降りてくれ」


 運転手の顔から、さっきまでの笑顔が消えていた。


「てめえ、どういうことだ! 話しが違うじゃねぇか!」


 張飛が怒鳴った。


「命が惜しくば、有り金置いてさっさと降りろっつってんだ!」


 運転手が大声で凄み、最初の印象とのあまりギャップに、さすがの張飛も一瞬ひるんだ。

 運転手は車の外に出ると、トランクから棍棒を取り出し、さらに威嚇した。


「おらぁ! 出て来い! 有り金置いていくなら見逃してやる!」


 3人が慌てて車から飛び出すと、運転手が棍棒を振り回しながら攻撃してきた。


「くそっ! 蛇矛があればこんな奴、一刺しにしてやるのに!」


「翼徳! 見知らぬ地での争いは災いの種だ! 逃げるぞ!」


 劉備の判断は素早かった。


「もうすでに災いだろう……分かった! しんがりは任せろ!」


「良し! さっき通り過ぎたホテルに助けを求めよう。退け!」


 劉備たち3人は、運転手の攻撃をけん制しながら、ホテルに駆け込んだ。


「すまんが公安を呼んでくれ。タクシーの運転手に襲われて、金を奪われそうになってるんだ」


 関羽がロビーのカウンターに飛びついて、ホテルの従業員に頼んだ。


「ああ。それなら金を渡せばいいんだよ」


 従業員は冷たく言い放った。


「なっ…」


 言葉を失った関羽は、周りにいた従業員を見回した。しかし、誰も助けの言葉を発することはなかった。

 劉備と顔を見合わせた関羽の紅顔から、血の気が引いて青ざめていった。


「こいつら、グルか…」


 劉備が、腹の底から搾り出すようにつぶやいた。


「兄貴達! 外に公安の車が停まっているぞ!」


 ロビーの玄関で運転手とにらみ合っていた張飛が叫んだ。


「でかしたぞ! 助けを求めよう!」


 劉備と関羽は、ホッと胸をなで下ろし、勝ち誇った顔で従業員達をにらみ付け、ホテルを後にした。


「助けてください。暴徒に襲われているんです!」


 劉備は、パトカーの横に立っていた制服の警官に懇願した。

 しかし、その警官は聞こえなかったのか、無表情のまま答えなかった。


「すみません、警官の方。暴徒から我々を守ってくれませんか?」


 劉備はもう一度、丁寧にお願いした。


「この街に暴徒はいない。自分達で解決しろ」


 警官は、こちらに眼を向けることなく言い放った。


「なっ…」


 今度は劉備が言葉を詰まらせた。警官に言っても助けてもらえないのならどうしようもない。金で解決をする以外……


「大兄、こいつもグルです。あきらめましょう」


 関羽があきれた表情で言った。

運転手は事情を知っているのだろう。慌てる様子もなく、こちらにゆっくりと近づいてきていた。


「いくらだ」


 劉備が観念して運転手に聞いた。


3000で赤壁まで往復してやるぜ」


 立場が逆転した運転手が横柄に言った。


「赤壁はもういい。1000元やるからこの場から去れ」


「ふん。いいだろう。しかし、これからどうする?」


 劉備の手から、手荒く1000元を奪い取った運転手が言った。


「公安の方に駅まで送っていただく」


 劉備が警官に目線を移した。


 初めてこっちに顔を向けた警官が手のひらを突き出して言った。


500だ」


 3人が顔を見合わせながら目をまん丸にして驚いた。


「てめえも金を取るのか?」


 張飛が何とか言葉を発した。

 警官は無言だった。


「しょうがねえな。友達だから200で駅まで送ってやるよ」


 愛想のいい笑顔を取り戻した運転手が言った。「前払いな」と付け足して…


※この物語は事実を元にしたフィクションです。