令和元年9月1日。
私は初めてアクアスロンの大会に出た。
地元の小規模なマラソン大会には出たことがあったが、複数(スイム、ラン)の競技をやる大会に出るのは初めてだ。

きっかけは、昨年に姉がトライアスロンの大会に出たこと。高額なバイクを購入し、スイム、バイク、ランの3競技をやる大会だ。私はまだバイクを買うほどやる気は出ておらず、バイクの輸送のための車の手配などの面倒くささを考えると、身一つで参加出来るアクアスロンの方が気軽で参加しやすいと思ったのだ。

この日の1週間前、姉が出た木更津トライアスロンに応援に行った。そこで、大会に出る人達のレベルの高さを目の当たりにして凹みつつも、無事に完走し、まさかの年代別で入賞してしまう姉に感銘を受けた。また、最後のランを走り終わった後の姉の最初の一言が「楽しかった!めちゃめちゃ楽しかった!」だったのも感動した。身体的にキツイはずなのに、それよりも「楽しい」が勝っているのだ。
姉と一緒に参加した、姉の友達とその妹さん。みんな楽しそうにしていて、キラキラしていた。私もこんなふうになりたいなと思った。

話は戻り、私のアクアスロン大会。
早朝の4時に起き、始発の電車で会場へ向かう。
応援で来てくれる父と姉も一緒だ。
電車を乗り継ぎ、2時間ほどかけて青堀駅に到着。参加者であろう、スポーツウェアを着た人が沢山いた。
バスで富津公園入口まで行く。そこからは歩いて現地へ。
公園を抜けるとそこは海。ただの海。
砂浜をひたすら歩くと、アクアスロンの本部と思われる場所が見えてくる。
そこで受付を済ます。オリジナルTシャツやスイムキャップなどを受け取り、身体にナンバリングをする。
水泳を含む競技なので、腕に直接ゼッケン番号を書くのだ。このナンバリング、「選手感」が増すのでテンションが上がる。思わずパシャリ。

この後、浜辺清掃の時間があり、あとは準備時間。
今回、私が出るコースはショート。
スイム1km、ラン5.5km。
ショートが1番早いスタートなので、トランジションの準備をする。トランジションとは、競技種目の移行のことで、ここではスイムからランに移行するための準備のことを指す。ランのための、ランシューズや靴下キャップやサングラス、飲み物、タオルなどを置いておき、スイムから上がった後にスムーズにランに移行できるように準備しておく。ここでいかに早く次の種目に移行できるかで総合タイムに影響が出るため、「第4の種目」(トライアスロンの場合)と呼ばれるほどである。
私は今回、オールインワンタイプの水着で泳ぐため、そこにゼッケン付きのTシャツを被って走ることにした。
トランジションの準備を終えると、「ショート部門に出られる方は試泳を行ってください。」のアナウンスが。スタートの前に、海で試し泳ぎをする。そこで、その日の海の温度や波の感じを掴むのだろう。先に試泳している人達を見ると、浅瀬の激しめの波に身体を持っていかれながら泳いでいる。怖い、とても怖い。
不安な気持ちを抱えながらも、私も試泳してみる。砂浜を歩いて少し深くなったところで泳ぐ体勢になり、顔を水面につける。早速波が来る。身体が流される。クロールをしようと手をかくが前に進まない。息継ぎのタイミングでまた波が来る。鼻や口に海水が入る。しんどい!浅瀬でまだ足がついたので、足をついて立ち上がり、歩いて砂浜へと帰る。
…………まずい。これは本当にまずい。
後になって気づいたことだが、そういえば私はこれまで海で泳いだことがなく、海に顔をつけたのはこの日が初めてだったのだ。幼い頃に行った海では潮干狩り。最近言った海では水をパシャパシャしたりする程度。
この時の一回の試泳で、なんとか自分を保っていた少しの自信が、音を立てて崩れさったのだ。
海に顔をつけたら水の濁りで前が全く見えない。波や流れで思ったように進まない、呼吸すらままならない。海水だから塩辛い。奥に行ったら足もつかない。
普段、足のつく25メートルの温水プールで泳ぐのとは全くわけが違うのである。
一回目の試泳を終えた時点で私の頭の中にある言葉はこれだけ。「今日本当に無理かもしれない…。」
ただ、スタートの時間は迫る。どうせスタートはする。少しでも「海で泳ぐ」しんどさを感じておこうと、そこから2回ほど試泳を重ねた。
試泳を終え、ショート部門の選手の招集がかかった。コースの説明などがある。
スタートの俵ブイ2個の間を通り、第1ブイ、第2ブイを周り、また俵ブイの間を通ってまた戻る。この三角形を2周して1キロのスイムとなる。そのあと、トランジションでランウェアに着替え、5.5キロのランに入る。
説明が終わり、計測タグを受け取り、足首に巻き、取れないようにマジックテープでしっかり留める。
午前9:00。いよいよスタート。
スタートゲートを通り、スタートラインに立つ。同じショート部門の参加者は約80名。男女比は8:2。男だらけである。(笑)

ブーーーーーーーーッ

スタート音が鳴り、みんな走り出したので、私も砂浜を走って海に入る。手をかく。泳ぐ。早速波に身体を持ち上げられる。息継ぎしようとしたら波が来たタイミングで上手く息継ぎできず。試泳の時に味わった絶望感がまた押し寄せる。
更には、一斉にスタートしてるので、他の選手と揉みくちゃになり、身体もバンバン当たる。進もうと思っても前に人がいると進めない。しんどい。とってもしんどい…
きっとまだ100メートルも泳いでないが、私の脳裏によぎった言葉。「棄権」の2文字。この10倍の距離をこの状態で泳ぐのか?あと30分も泳ぎ続けるのか?無理だろ…死ぬだろ…。今ここで、ライフガードに手を振って合図すれば、棄権できる。ヨットか何かに乗せてもらって砂浜へと運ばれるのだろうか。楽になれる。楽になりたい…楽になりたい…。
波にもまれてまともに泳げず、心はボキボキ折れまくり。とにかく後ろ向きな考えしか浮かばない中、水をかく手を止めないたった一つの理由が、「応援してくれている人の存在」だった。今回参加する上で、周りの友人にも話している。当日、休みの日なのに早起きしてはるばる富津まで来てくれている父と姉、そして姉の友人。その人たちの前で「棄権」するなんて、できない。「棄権しました」で、帰れない。
この、ちっぽけなプライド1つで、なんとか泳ぎ続けることが出来たのである。
1周目(500メートル)を泳ぎ終え、2周目に入る。
ここでやっと「海で泳ぐ」ということに慣れてきたが、今度は体力的な辛さが私を襲う。当日までの練習でも、1キロという距離は泳ぎ続けるギリギリのライン。しかも、今回は海の中。体力の消耗が尋常ではないのだ。また、コースが決まっているので目標のブイの位置を確認し、そこへ向かって泳がなければいけないのだが、位置を確認し、そこに向けてしばらく顔を水につけて泳いで顔を上げるとブイから離れているのだ。海の波に流されてしまうのだ。そのため、無駄な距離を泳ぐことになり、これまた体力を消耗してしまう。海水の塩辛さも、30分も泳ぐとしんどくなってくる。ずっとクロールも疲れるので、呼吸を整えるために平泳ぎをしてみる。すると、足を蹴飛ばす動作をするからだろうか、足首に装着している計測タグが外れそうになる。これはまずい。平泳ぎは却下。
ラスト150メートルくらいでキャップがズレそうになったので直したら、ゴーグルまで動き、左目に海水が入ってしまった。あともう少しなので、そのまま泳ぐが、これ、確実に目に悪い気がするのだが。
なんとか1キロ泳ぎ切り、砂浜に上がる。もう、フラフラである。

応援隊に手を振られ、なんとか振り絞って笑顔で手を振る。 
すぐトランジションコーナーで砂だらけの足を洗い、靴下を履き、靴を履き…
Tシャツを被り、スイムキャップの代わりにランキャップを被り、サングラスをし、アームカバーを持ってすぐさま走り出す。トランジションの時間は約2分。
砂浜エリアを越えて、道路に入る。しかし走り始めて1分ほどで、もう感じてしまった。「体力の限界」を。
気温は30℃。灼熱の太陽。音楽なし…。
何より、スイムでクタクタの身体で走るのはキツすぎた…。
いつもの「止まったら逆に辛いから走り続けよう!」なんていう気休めが通用しないほど、心も身体も限界を迎えているのだ。
結局、何度も止まり、歩いてしまった。歩いているとどんどん後ろから抜かされる。体感でも20人くらいに抜かされた気がする。そして、ランの間も何度も「棄権」の2文字が脳裏をよぎる。
吸水ポイントも少なくて辛かった。
なんとか走り、ラスト100メートル。ラストスパート。なのに、ラストスパートがまさかの砂の上!進まない…!
最後の力を振り絞って…
できれば前の人抜きたい…!
もうすぐゴール!!
私を狙う一眼レフ(笑)
結局、目の前のお姉さんを抜くことは出来ず、そのままゴール。

足首の計測タグを取ろうと屈んだ時、少しふらついてしまった。
しかし、何よりも完走出来たことに安心し、嬉しかった。
が、「また挑戦しよう!」という前向きな気持ちはほぼ皆無。
しんどすぎた…。
結果としては、女性年代別でビリ。つまり、大会全体での順位としてもほとんどビリ。
実力も事前準備も精神力も、何もかも不足していたことが明らかになった。
ある意味、自分の力の程度を知ることが出来る、良い機会ではあった。
アクアスロンでもこんなにヘタってしまったのだから、トライアスロンなんて全然出来ないだろうな…。
しかし、目標の「完走する」こと、また、第2の目標の「70分切る」が達成出来たのでよかった。

着替えて一息ついた時に食べた、エイドの焼きそばがとても美味しかったなぁ。

かなり良い経験ができた。
今後また、アクアスロンやトライアスロンに挑戦するかは分からないが、短距離のマラソン大会は参加していきたいし、日頃の運動は向上心を持って続けていくつもりだ。
腕の焼け方がすごい(笑)