Mike Oldfield/ Discovery (1984) | 勝手にシドバレット(1985-1995のロック、etc.)

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ロックを中心とした昔話、新しいアフロ・ポップ、クラシックやジャズやアイドルのことなどを書きます。

(この記事は、2007年に以前のブログで書いた文章を改訂したものです)
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  10代のころというのは、あれはどうなっていたのだろうか。
 夜は明け方近くまでラジオを聞いていて、朝は7時に起きて、学校で6時間勉強する。その中には体育というのもあって、暑かろうが寒かろうが走らされたり跳ばされたりで大変なのである。
 それで終わるとどうなるかというと、まだ暴れたりないやつは、さらにクラブ活動でよりハードな肉体鍛錬にいそしむし、そうでない私などは、ダラダラととりとめのない会話に興じたりする。それで帰って飯食って、風呂入ってまた夜中に腹が減ってラーメンなどを食っても太らない。
 
 音楽の聴きかたも、むちゃくちゃだった。80年代であって、情報は文字くらいしかないから、ライナー・ノーツ読んで、ミュージック・マガジン読んで、ロッキン・オン読んで、ミュージック・ライフ読んで、FOOL'S MATE読んで、FMレコパル読んで、FMfan読んで(もちろん、大半が立ち読み)、『サウンドストリート』を毎日聴いて、『ベスト・ヒットU.S.A』を見て、とにかくメモリーのギリギリまで吸収しようとしていた。
 私なんか、ザ・スミス聴いて、ストーンズ命で、RCが大好きで、カルチャー・クラブも聴いて、ブライアン・アダムスも聴いて、ジュリーも聴いて、フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドも聴いて、そのうちキンクス、なんか知らんけどキング・サニー・アデの「アシェ」を♪イエミイェイェイェオオ~ッ♪なんて鼻唄うたって、グレイス・ジョーンズやアート・オヴ・ノイズの12インチをレンタルして、ほんでもってリック・オケイセックみたいな大人になりたくて、ミカドの女の子にポ~ッとなってたのだ。
 なにがどうなって、どうつながってなんてことは、一切考えなかった。そんなこと、考える必要ないのかもしれない。そういう幸せはある。
 
 マイク・オールドフィールドの名前を知ったのも、そんな高校2年のある日のこと。FMでやってた30分の新譜紹介番組だった。
 『エクソシスト』はさすがに見ていたし、もともと映画音楽が好きだったのでそこで主題曲に使われた「チューブラー・ベルズ」は知っていたが、その作者マイク・オールドフィールドのことまでは想像が及ばなかった。ロックに興味を持つようになっても、あのヘンテコリンな音楽の作者が誰かなんて、まったく気にも留めなかった。 
 そのFM番組では、「マイク・オールドフィールドと言えば、あぁまたシンフォニック・ロックか、と思われるかもしれませんが」とDJ(矢口清治じゃなかっただろうか?)がしゃべっていて、そこで初めて「そうか、シンフォニック・ロックというものがあるのか」と思った。ぼんやりと、ときどき『題名のない音楽会』でやってるポップスのオーケストラ演奏のことを考えた。
 DJは続けた。「今回のアルバムは半分がヴォーカル入りで、これがとっても美しくてポップなんですよね。早速聴いていただきましょう。アルバム『ディスカヴァリー』から、To Franceです」
 そして私の耳はその最初の旋律に釘付けになった。
 
 
 マンドリンって、ナターシャ・セブンとか諸口あきらとかが使うカントリーの楽器じゃないのか?それがなぜこんなに涼しく透明感があるのだろう。その透明感は、すぐにヴォーカルに受け渡される。女?マイクって、女の名前か?ここが私の想像力の限界でもあった。
 ドラムがうまいなぁと思った。サイモン・フィリップスだから当たり前なのだが、そんな名前は知らなかった。
 
 続けて同じアルバムから「クリスタル・ゲイジング」がかかった。
 

 gazingって......あぁ、サイモン&ガーファンクルの「アイ・アム・ア・ロック」に出てきた単語だ (gazing from my window・・・)。「水晶を見つめる」、水晶占いかぁ。ぴったりだなぁ、この曲。ちょっと黒魔術というか、妖しい雰囲気がある。
 一発で気に入った。でも、これも女の声だ。マイク.......?
 かくて歌っている女性がマギー・ライリーということもわからないまま、翌日学校の帰りにLPを買いに行ったのだが、駅前商店街のレコード屋には置いていない。あぁまた四条まで行かなあかん、とため息をついた。それが、1984年の地方の高校生。 そんなふうにして手に入れたアルバムのことは、今でも細部までおぼえているものだ。
 
 今では、マイク・オールドフィールドが最初お姉さんとサリアンジーというフォーク・デュオを組んでいたこと、彼の作る音楽にはイギリスのトラッドの影響があること、マイクがケヴィン・エアーズのバンドでギターを弾きまくっていたこと、「チューブラー・ベルズ」がヴァージンの第1弾アルバムで、これの大ヒットが同レーベルの屋台骨を築いたこと、なども知っている。「トゥ・フランス」で歌われたメアリー・ステュアートのこともずっと後に知った。
 しかし、そんな後付けも、「マイクって女の名前なのか」という疑問から先へ進めなかったあのアホやけどいとおしい時間の前には輝きが失せてしまう気がする。
 年とった、のだろうか。