果たしてどれくらいの時間が経ったのだろう?
手持ちの爆弾は調合分まで全て使い果たした。
(まだ足を引きずる気配がない…)
サナは唇を噛み締めた。
(古龍って、どれだけ体力あるの⁉︎)
まだ人間だった頃、自分が戦ったモンスターはどれもそれなりに強かった。
命の危険を感じたこともある。
が、今戦っているテオ・テスカトルは古龍と呼ばれる存在だけあり、なかなか弱っているところを見せない。
(そういえば、先代の黄龍陛下も古龍と戦ったんだっけ…)
サナは戦いの最中なのに、ふと笑いが込み上げてきた。
もしかしたら、黄龍となるものは古龍と戦う運命にあるのかもしれない。
そんなことを考えながらも、やはり戦士としての感覚は残っているらしく、無意識に身体がテオの攻撃を避けつつテオの後ろ足に双剣を当てていく。
永遠とも思える時間が流れ、その時は突然訪れた。
基本的に後ろ足を狙って斬りつけていた為、テオは頻繁に転倒した。
何度目かわからない転倒から起き上がったテオの後ろ足に再び斬りつけた時、テオの体がふいに仰け反り、そのまま崩れ落ちた。
「やったニャ!」
「さすがサナしゃまなのニャ!」
オトモのグレルとケイが、飛び上がってバンザイしたあと、嬉しいのかサナのまわりをピョンピョンと走りまわる。
「終わった… の…?」
イマイチ実感がないサナは、なかば茫然としながら呟いた。
「ニャ! おつかれさまなのニャ!」
グレルがサナの膝をポンポンと叩く。
その仕草が可愛いやら可笑しいやらで、サナは脱力して座り込んだ。
「サナしゃま、だいじょうぶニャ⁉︎」
すぐにグレルが覗きこんでくる。
「大丈夫よ。 ありがとう」
(そういえば、オトモは2匹いたはず?)
サナが慌ててまわりを見渡すと…
「ワタシのポーチ、まだあいてるからさいしゅしていくニャ!」
誰に向けて言ってるのか、ケイは楽しそうに近くの地面に座り込んでせっせと採取に励んでいる。
(終わったんだ…)
ようやく古龍との戦いが終わったことを実感して、サナは肩の力を抜いた。
「やるじゃない」
風鏡を覗きこんでいた西王母は、扇で口元を隠しながらもニヤリとした。
「嬉しそうだねぇ?」
隣で一緒に風鏡を見ていた清源妙道真君が片眉をあげる。
「そりゃそうよ。 引退したはずの某一族の老いぼれが、まさか今さらサナの黄龍後継にイチャモンつけてくるなんて思わなかったもの。」
「だよねぇ…」
「リオレイア希少種を倒して、天鱗と紅玉を同時に入手して、しっかりと次代の黄龍に相応しい実力を見せたのに…」
「ふむ?」
「それを、今さら『若過ぎる』なんて…」
その時のやりとりを思い出したのか、西王母の美しい眉がつり上がる。
そんな妻の顔を見た真君は、宥めるようにポンポンと西王母の膝を叩いた。
「何はともあれ、こうして見事に古龍を倒したんだ。 さすがに彼ももう、何も言えないだろうよ。」
夫の言葉に西王母は頷く。
「そうね。 また何か言ってくるようなら、次は叛意ありとして潰せるものね。」
サラリと怖いことを言う。
やがて、風鏡が天晶宮に戻ったサナを写すと、西王母は風鏡を閉じた。
「お帰りなさいませ!」
「お帰り~」
「ご無事で何よりです」
サナが天晶宮に戻ると、転移門の前には四神とユイナが待っていた。
「ありがとうございます。」
サナが頭を下げると、青龍が荷物を受け取った。
「お疲れでしょうから、今はひとまずお休みください。」
「はい。」
サナは頷くと、ゆっくりと自室に向かって歩き出した。
その後ろ姿を見ている四神たちの表情は、安堵と、何かを案ずるような顔が混ざり合っていた。