5年前、当時小学1年生の娘を残して、俺の弟は死んだ。


弟の嫁(義妹)は、その娘を連れて実家に帰った。


時には、こちらの両親に孫の顔を見せるため、遊びに来てくれる。


ただ、時が経つにつれ、訪ねてくれる回数も減ってきた。

以前は、3ヶ月に一度だったのが、半年に一度になり、

やがて今は、1年に一度ほどになってきた。


親父もおふくろも少し不満げ、寂しげな感じだ。


だけど無理を言うことはできない。

義妹は、自分の実家にいながらも、生活の糧を得るためには、働かなければいけないから。


ピアノを教えたり、コンビニでのパートで働いたりで、何とか食っている状態だった。



だけど姪っ子は、明るい性格に育ってくれた。


いや、そういう素振りが身についていたのかもしれない。


できるだけ、周囲に心配させないように振舞いなさい、

それが義妹の、娘に対するしつけだったのかもしれない。


先日、俺は6年生になった姪っ子に「おじさんとデートしよう」と誘った。


「欲しいものは何でも買ってやる。でも車とかいうのは無しだぜ」

「行きたいところに連れてってやる。でもハワイとかいうのは無しだぜ」


俺がふざけて言うと、姪っ子はケラケラと笑った。


その日は早起きして、渋谷までジブリの映画を見に行った。


それが終わったら、お昼に鯨料理を食べさせて、その足で原宿へ行った。


正直、俺は原宿なんてよく知らないんだけど、姪っ子に言った。


「なんでも買ってやるからな。欲しい服選びな」


真剣な目でお気に入りを物色する姪っ子の横顔。


なんだか、…というか当然だけど、バカな弟の面影を宿していた。


いくつかの服を、時間をかけて迷ってる姪っ子のさまはとてもいじらしかった。


俺は姪っ子をびっくりさせたくて、迷ってる服全部をレジに持っていった。


姪っ子は目を丸くして、キョトンとした。


はっきり言って、韓国あたりに数泊で旅行に行けそうな合計額になったけど、

俺は涼しい顔でカードで払った。


もちろん、冬のボーナス一括払いだ。


両手一杯の紙袋を持って、「うれしい、うれしい」と何度も繰り返す姪っ子。


俺は照れくさくって

「やっぱり気が変わった、お店に返しに行こうか」

とか言ってからかった。


だが、次の瞬間、姪っ子の言ったひと言で、

俺は照れくささなんか吹っ飛んでしまった。


多くの人が行き交う往来で、人前かまわず涙が込み上げてきた。

姪っ子は言った。…ポツリとひと言。


「こんなにうれしいことがたくさん一日に起きるなんて、もったいない」


もったいない、か……姪っ子があまりに明るかったから気づかなかった。


きっと色々あるんだろう。


母親が忙しくて、寂しくて、心細くて、

6年生の小さな胸の中にしまいこんで我慢していることが…。


こんな小さな少女から、まさか「もったいない」という言葉が出てこようとは。


同じ年の女の子ならば、もっと甘えて、もっと飽きっぽくて、もっと贅沢に慣れてるだろうに。


本当は教育上、よくないことかもしれないけど、たまにしか会えないからな。


おじさんは、お前の父さんと同じでバカだから、こんな愛情表現しかできないんだ。


「疲れてないか?…そうか、ようし!これからディズニーランドに行くぞ!!」