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『月と蟹』
道尾秀介(文藝春秋/2010年9月)
「世界は大きくて理不尽だから、
僕たちは神様を創ることにした
海辺の町、
風が吹きすさぶ秘密の場所で
子供たちが見つけた
『ヤドカミ様』の正体は――」 (前オビより)
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道尾さんが昨今大きなテーマとしている、
子供が受けた心の傷、虐待、成長が、
今回も主題となっている。
率直にいえば、直木賞を狙った(と邪推したくなるような)、
たいへんに文芸色の強い、理解しやすい作品。
「賞を狙う」なんて、
大好きな作家の方にとても失礼な言い方だけれど、
「子供の受けた傷」という、ある程度、
ご自身の中では熟成されたテーマを、
巧みにまとめ上げた感は否めない。
わたしの受け取り方がひねくれているのかもしれない。
でも、主題も、筆致も、構成も、
「自分の土俵で勝負」している感じがして仕方がないんだよねー。
もしくは、「絶対にこのテーマで直木賞をとる」というこだわりとか。
うーん、常に進取の気象を期待されても、
作家の方は困るだろう。
これだけ完成度の高い作品を、コンスタントに刊行している方に、
「もっと」と言ってしまうのは、
読者のわがまま、それこそ理不尽だろう。
だけど、道尾さんだからこそ、
「こうきたか!」という作品を求めてしまう。
十分に堪能できます。
こころを震わすフレーズもあります。
たくさんの人が手にとってほしい本でもあります。
でも、道尾さんが、
子供、虐待、心の傷という、ある種ご自身の「トラウマ」から脱せられ、
新たなテーマで作品を発表なされることを、
一読者として楽しみに待っています。
