§地上15Mの遠距離恋愛 7
「琴南さん?どこに行くの?」
急に奏江が外回りの札を自分のネームボードに置き始めたので、蓮は首をひねった。
「あの・・すぐに戻ってきますから」
少し焦っている奏江に蓮は自分の鞄を持ち出して、ネームプレートの所に外回りの札を置いた。
「俺も出るから送るよ」
「いえっ・・半分は私用でして・・・」
「じゃあなおさら急ぐんだろ?」
いつもは冷静沈着な奏江が慌てているということは、何か事情があると感じたのだ。
「いえっ・・あの・・・大丈夫です・・」
奏江は周りの視線・・おもに女性たちばかりだが・・を気にして断るものの蓮は、サクサクと奏江とともに会社を出始めた。
「この間から世話になりっぱなしだからね・・少しぐらいお返しさせて?」
少しくらい周りの女性たちから睨まれる自分の立場を考えて欲しいとは思いながらも、どこか憎めない蓮の無邪気な様子に奏江は渋々申し出を受けるのだった。
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「・・え・・・ここ?」
「はい、ありがとうございました。後は自分で戻れますので」
蓮は奏江を降ろした所の意外性に目をパチクリしていた。
そんな蓮を気に留めることなく、いつもの調子に戻った奏江は一礼して車を降りた。
「琴南さん!」
「はい?」
歩き出そうとした奏江を蓮は慌てて呼び止めた。
「ここ・・琴南さんの家なの?」
見覚えのありすぎるマンションを真正面にしたこじんまりとした二階建てのアパート。
そこは『彼女』が住んでいる家だ。
「いえ・・友人の家でして・・・」
そう言いながら、階段を登っていく琴南を蓮は車から降りて慌てて追いかけた。
「その友人って・・どうかしたの?」
『彼女』の部屋の前に来ている奏江に、蓮は意を決してそう声をかけた。
すると案の定、奏江に不審な眼で睨まれた。
「・・・・・・あの・・?」
奏江の表情と声が硬くなったことで、蓮は慌てた。
「いやっ・・その・・・・そこの人と、最近話し・・というか顔を合わせることが多かったんだけど三日前から会えなくて・・・病気なのかな?とか思っていたから・・・」
しどろもどろそう言い募っている間も、奏江の表情は硬く蓮は焦ったままになった。
しかし、奏江は何かを思い出したようにはっとした。
(・・・もしかして・・・)
「あの・・・敦賀氏の住まいはあのマンションですか?」
このアパートの目の前にそびえたつマンションを指さす奏江に、蓮は一瞬呆然としたがすぐに頷いた。
「え?・・・あ、ああ・・・そう、あの10階・・・」
「はあ・・・・」
全ての事項に一致点が見つかった奏江のみが、小さくため息をついた。
蓮は何事かわからずに、怪しまれなくなったことだけにほっと一安心した。
そして奏江の言葉を待った。
「・・・例え、このように合鍵を渡される間柄で彼女のことを知り尽くしていても敦賀氏においそれと話すわけにはいきません」
鞄から鍵を出しつつ、そう説明した奏江はそれを扉のカギ穴に差し込むと当然のように開けた。
「え・・っと・・・琴南さん?話していることと、行動が一致していないいんだけど・・・」
ズカズカと部屋の中に入り、着替えなどを物色している奏江に玄関先から声をかける蓮はどうすればいいのかと辺りをキョロキョロした。
(・・これじゃあ、俺は怪しい人・・・だよな?)
早く奏江が出てきてほしいと思いながらも、ちらりと玄関からすぐのキッチンを見やった。
全体的にすっきりと片付いていた。
数日家にいなかったとは思えないほどキレイだった。
狭い部屋なのに、狭さを感じさせない家具の配置などで蓮はそこの住人に好感が持た。
(というか、彼女だと決まったわけじゃないけど・・・)
蓮は部屋をこれ以上みないように、外を眺めているとあらかた終わった奏江が鞄を手に戻ってきた。
「敦賀氏」
「は、はい」
奏江に思わず敬語で返してしまうところが悲しいが、今の状況下ではいた仕方がない。
緊張した面持ちの蓮をじっと見た後、奏江は一つの提案をした。
「敦賀氏、明日のランチをおごってください」
「!?」
突然の誘いに蓮が驚いいるころ、キョーコはようやく熱が引いて深い眠りの中にいるのだった。
つづく