§だから・・・46
―苦行はいつでも人を賢者にする・・・―
(・・・賢者っていうか・・・もう『仏』の域だろう?)
牙を抜かれた豹。
たてがみの抜け落ちたライオン。
色白になったドーベルマン。
・・・・・。
今の蓮はそんなものと比較にもならないほど、安全安心。紳士で実直な青年になってしまっている。
共演者の女性たちに笑顔を振りまいているのはいつものことなのに、そこにさえも何だか雄の色香がまったくまとわりつかない。
キョーコといるとなおさら。
「敦賀さん!このシーンなんですけど・・・」
「どれ?・・・・ああ・・ここはね?」
演技について話し合う姿は、今までの見慣れた光景なはずなのに・・・。
蓮の周りに後光が差しているように見える社は大きくため息をついた。
(・・・この二人がまさか身内のみで結婚式挙げたって・・・誰も思わないよな・・・)
書類的なものは全て記入し終えた状態で、ローリィが預かることとなった。
そのため戸籍上はまだまっさらで公言もしていないので、蓮にしてみれば不安で仕方ないだろうにキョーコが出した条件をクリアするまでこの状況に甘んじることとなった。
条件・・それは、三ヶ月間キョーコには肉体的に親密度を上げるようなことはしないこと。だった・・・
(不憫とか不憫じゃないとか・・・そんな次元じゃなくなったな・・・)
悟りを開いた僧侶でもあんな風に後光は差さないだろうというほど、蓮の笑顔は清らか過ぎた。
過ぎたので・・・社の中で不安がどんどん広がっていった。
(・・・・・・・あと2週間で約束の3ヶ月目・・・・・キョーコちゃん・・・・どうなるんだろう・・・・)
野獣が本来の能力を取り戻したら?
想像しようとして社は恐ろしさのあまり、身を一頻り震わせた後考えないことにした。
(キョーコちゃん・・・・・)
社は、蓮と演技についての意見が一致して嬉しそうに微笑むキョーコに両手を合わせ拝むと数日後に迫ったXデーに備えてスケジュールを調整することにしたのだった。
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