『三井探偵事務所記録簿』  File.2 | なんてことない非日常

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《こちらはうっかり付け足した文章で書き始めた蓮、キョーコで演じているドラマです。
文章での説得はかなり困難(泣)》



『三井探偵事務所記録簿』    File.2




 「・・・・・・あの・・・」


「あ?」


うららは呆然としながら三井に声をかけてみたが、三井からは生返事しか返って来なかった。


「あ、あの!?」


そのためうららは、はるか上にいる三井に向かって声を上げた。


「なんだ?!」


「あの・・・・私・・なに探せば・・いいのでしょう?」


「説明しただろ!?『ミミちゃん』だよ!」


「ここ・・・川・・・ですよね?」


魚を掬う網を手に、ゴムで出来たサロペット風の長靴と一体になった作業着を着せられ浅い川の中に立つうららは、橋の上から指示を出す三井に疑問を振った。

説明されたのは、この間の美女の依頼でペットの『ミミちゃん』を探すことだった。


「あ、あの・・・・」


うららが何を言いたいかわかったようで、三井は大きく頷いた。


「大丈夫、現れたら解る」


「現れたら?」


「ほら、そこら辺を漁れ目撃情報が出ててここら辺にいるってわかってるんだ」


「は・・・はあ・・・」


うららは、府に落ちないまま川底を網で掻き回すと足元に何かが動く気配がして固まった。


「あ・・・・ああああのっ!!」


青ざめるうららに、三井は大きく頷いた。


「よし、近くにいるなっ?!・・・・!!足元!網を入れろっ!!」


三井の叫び声と共に、うららはざぶっと網を突っ込むと何かがその中に入り絡まり捕まえることが出来た。


「よしっ!!!よくやった!!!」


目をつむって、ただ言われた通りにしたうららは網の中で蠢く物を薄目を開けて確認した。


「・・・・!?きっ・・・ぎゃあああああ!!!!??」


「あっ!?バカ!網は放すなっ!!」


+++++++++++++


「ありがとうございました!!」


蓋をされた水槽の中でとぐろを巻くニシキヘビを前に、先日うららと入れ替わりに依頼をしてきた美女は嬉し涙を滲ませた。


(・・・・こんな綺麗な人がヘビ・・・・・お金持ちはわかんないなあ・・・)


うららはお茶を女性の前にそっと置くと、ヘビを見ないように部屋の隅に隠れた。


「いえいえ、結構大きな子だったのであっという間に見つかりました」


「普段は大人しいんですけどね・・・・・あ、これ・・・」


そう言いながら女性は分厚い札束を三井に差し出した。


「ああ・・・どうも・・・300万ちょうどいただきます」


(・・・あの金額本当だったんだ・・・)


うららは呆然と目の前で行われているやり取りを眺めていると、女性はまた小さく頭を下げて水槽を持ち上げた。


「では、これで・・・」


「ああ、下までお持ちしますよ」


「あら・・すみません・・・」


「おい、留守番しておけよ」


うららにそう声をかけて、にこにこと笑顔を振りまく三井はヘビの入ったケースを軽々と持ち上げて女性をビルの下まで送っていった。


「・・・人にヘビ捕まえさせといて・・・・ハルちゃんを見つけてくれたら直ぐにここから出て行ってやる!!」


いーっ!!と歯をむき出してうららは、閉まった扉を睨みつけたのだった。


うららが付いて行かなかったビルの入り口では不似合いなハイヤーが停まっており、そのトランクに三井はヘビの入ったケースをそっと置いた。


「どうも、お世話になりました」


「いえいえ・・こちらこそ・・・・」


「では、失礼します」


そそくさと帰ろうとする女性が車に乗り込もうとする前に、三井はその扉を閉めた。


「・・・ちょっと・・・気になることがありまして・・・『ミミちゃん』に・・」


「え?・・・なんでしょう?」


女性の表情を伺うように三井はその魅惑的な瞳で見つめた。


「いえ・・・あの子のお腹に・・異物がありましてね?もしかしたら迷子中に何かを飲み込んだのではないかと思いまして・・」


「・・そ・・そうですか・・・」


女性は見る見る顔色が悪くなり始めた。


「一応・・・動物病院で見てもらいしまして・・」


「!!そ、それでっ・・中の物は!?」


明らかにヘビの方ではなく、その中の物の心配をしているように見える女性に三井は目を見開いた。


「あ・・・いえ・・ど、どのようなものが入ってたんですか?」


「ええ・・・・ダイヤです・・・しかも総額2億相当の小粒のダイヤモンドがいくつも・・・丸呑みできても消化は出来ませんからね?」


「出したんですか!!?」


美女台無しの剣幕で三井に掴みかかった女性に、三井はにやりと口の端を上げた。


「ええこれです」


三井が小さな皮袋を女性の目の前に差し出すと、女性はものすごい剣幕でそれを奪おうとしたが三井は素早く上に持ち上げた。


「・・・・・・ちょっとお待ちください!」


三井の言わんとしている事がわかったのか、女性は運転手に何か言付けると小切手を取り出した。
そして、それにサラサラと書き込むと三井の胸に叩き付けた。


「これで私たちがここにきたこと自体お忘れになってください!・・・もし、他言されるなら・・・わかってらっしゃるんでしょう?」


きっと睨みつける顔には、ヘビのような冷たさを感じ三井は顔を歪ませた。


「ええ・・・わかってますよ?・・・こっちも巻き込まれるのはごめんですから」


「!・・・・ふんっ」


女性は三井から顔を背けると勢いよく車に乗り込み走り去っていたのだった。





「あっ!三井さん!!・・ミミちゃんどうでした?」


事務所に戻ってきた三井に、引き上げた後ぐったりしているヘビの様子から動物病院に連れて行くことを提案したうららは様子を聞くと三井に頭を撫でられた。


「・・・・・まったく・・」


「へ?」


「いや・・・とりあえずミミちゃんがバックになることはなさそうだ」


「え!?なんですかそれ!?」


心配そうな顔で三井を見上げるうららを、三井はじっと見つめた後ポフポフと頭に手を置いた。


「お前はいいな・・・」


「な、なんですか!?急に」


「なんでもない・・・さ、行くぞ」


「へ?どこにですか?」


「お前のペット・・探しに行くんだろ?」


「!!はいっ」


うららは急いで三井の後を付いて事務所を飛び出した。

しかし、三井はまるで目的地が決まっているように脇目も振らずにずんずんと歩いていった。


「あの!!探しに行くんじゃないんですか?」


「まあ・・最後の確認というところかな?」


「へ?・・・あ・・・ここ・・・」


それは昨日ミミちゃんを連れてきた病院だった。


「芽衣子先生~」


三井が声をかけると、黒髪をなびかせて不機嫌そうな美女が診察室から白衣姿のまま出てきた。


「翔真さん・・・面倒ごとはごめんなんだけど?」


「昨日は助かったよ・・・それで?」


軽く謝る三井に、獣医師の女性は小さくため息をついた。


「たぶんあの子なんじゃない?」


預かり用のゲージに入っている白い犬を指差した。


「!!ハルちゃん!!!」


それを一目見たうららは飛びつくように駆け寄った。


「もう!!どこに行ってたのよ~!!」


グズグズと鼻を鳴らし泣きじゃくりながら、ゲージを開けてフワフワな白い犬を抱き上げた。


「翔真さん・・・あれ、あのボルピノ・・」


「・・・・黙っててよ?芽衣子先生・・」


三井はそう、うららには聞こえない声で言うとゆっくりうららに近寄った。


「そんなに抱きしめたら苦しいってよ?」


「!・・ご、ごめんハルちゃん・・・!!あ、足!!どうしたの!?」


小さな前足に少し包帯を巻かれていることに気がついたうららは、三井と芽衣子を振り返った。


「見つけた時に前足を軽くすりむいてたの・・2~3日で包帯は取れるわ・・・」


「よ・・・よかった・・・」


大きく安堵の息をつくうららに芽衣子もゆっくり近づき、側にしゃがんだ。


「本当に大事な子なのね?」


「はい!!・・私の・・・最後の家族ですから・・・」


「・・・・・そう・・」


芽衣子は、ハルの頭を撫でながら涙で真っ赤になった目元でにこっと笑ううららに微笑んだ後、それを優しく見下ろす三井に驚いた。
その視線に気がついたのか、さっと顔を逸らした三井は待合室の方に向かった。


「あ~・・芽衣子先生、その子は今日連れて帰っても大丈夫なのか?」


「・・そうね・・・出来たらもう少しここにいたほうがいいかもしれないわ」


「え!?どうしてですか?」


驚くうららに芽衣子は言いにくそうに顔をしかめた。


「実は・・・その子が発見された時、とても怯えていたの・・・だから・・・てっきり飼い主から酷い目に合わされたのかと思って・・・」


「そんなっ!・・私、ここ4日ずっと探してたのにっ」


「ああ・・違うの、貴方を見てそれは違うとわかったけど・・・何か原因があるかも知れないから・・・消毒もしたいし・・明日、また迎えに来てちょうだい?」


獣医師にそう言われてしまっては、素直に従うしかなくうららは頷きながらも下を向いて顔を上げれなくなった。


「おい、そんな通夜みたいな顔でここにいると病院の評判が落ちるからやめてやれ、ただでさえ女豹の病院って言われてるのに・・」


「それを言ってるのは翔真さんだけです!!・・・大丈夫よ?ご飯も昨日からちゃんと食べ始めたし・・・明日、検査が終わったら帰せるから」


「はい・・・・じゃあ・・・お願いします」


「はい、わかりました・・・翔真さんにお代はつけとくから」


「は!?なんでだよ!?」


「なんでだよじゃないです!!診療時間外に来て何でも押し付けるんだから!!昨日のもちゃんといただきます!!・・・どうせ、報酬以上のモノ・・・もらったんでしょう?」


「へ?」


「・・・・いいだろ?・・あのヘビは命が繋がったんだから・・」


「全く・・・」


お互い顔を背けながら言い合う内容に、うららは全くついていけなかった。


「あ、あの?・・・」


「・・・・きっと、あのヘビの飼い主が餌にダイヤを混ぜて飲み込ませたのよ・・・脱税か何かのために・・・事が終わればあの子の腹を切ってダイヤを出して換金するつもりだったんでしょうね」


「ひ・・・酷い・・・・」


「でも、ヘビは苦しさからケースを逃げ出した・・・もしかしたら自分が何か酷い目に合わされてるってわかってたのかもね?」


芽衣子の言葉に、うららは憤りしか感じられなかった。


「まっ、俺達に簡単に見つかったなら同じことしたってマルサには通じないよ・・・もう二度としないだろうよ」


三井はガムを口に放り入れると噛み砕き始めた。


「うらら、帰るぞ・・芽衣子先生あとよろしく~」


「はいはい・・・えっと・・・うららちゃん?」


「あっ、池尻 うららです・・・」


「じゃあ、池尻さん・・ハルちゃんはお預かりするわね?」


「はい!よろしくお願いします!!」


芽衣子に深々と頭を下げたうららは先に外に出た三井を追いかけた。

その途端、ハルが吠え始めたため芽衣子は驚いた。


「あ・・あら?・・ずっと大人しくていい子だったのに・・落ち着いて?」


しかし、病院の外までは聞こえないらしくうららは三井と共に事務所に戻ってしまったのだった。



事務所まであと数十メートル前の信号待ちをしている時、うららは三井を見上げた。


「なにかな?」


「・・・芽衣子先生が言っていた・・報酬以上の物って何ですか?」


「・・・・・君には関係ない」


「むっ!・・でも、ミミちゃんを捕まえたのは私ですよ!?」


「その代わり君の『ハルちゃん』を見つけてやっただろう!?」


「そ・・それは・・・そうですけど・・・・でも、なんだか以前から見つかっていたみたいな感じなんですが・・・」


「ああ・・・3日前に拾われて芽衣子先生の病院にいたらしい」


「え!?じゃあ、昨日の時にも!?」


「奥で寝てたらしい・・・あんなバタバタしている時に見せたら怪我しているハル・・ちゃんが可哀相だろ?」


「・・そ・そうですけど・・・」


三井に言いくるめられるうららは気が付いていなかった。
一台の車が二人に向かってきていることを。

先に気がついたのは三井だった。


「うらら!!」


下を向いて不貞腐れていたうららを抱きかかえて三井は横に飛んだ。

赤信号待ちしている歩道に突っ込みかけて、その車はタイヤ音を激しく響かせて右折していった。


周りの人々が倒れこんでいる二人を遠巻きに見て、危ないだの、救急車だの口々に叫ぶ中、先に動いた三井は庇うように抱きかかえたうららの顔を覗き込んだ。


「大丈夫か!?」


「は・・はいっ・・・あ・・ありがとう・・・ございます・・・」


三井のお陰でうららはかすり傷一つなく立ち上がることが出来た。


「ぃ・・今の・・・まるで・・私たちを狙ったみたい・・・」


青ざめたうららの言葉に、三井は険しい顔をした。


「・・俺のせいかな?」


「へ?」


「ミミちゃんの飼い主が・・」


「あ・・・脅し?・・」


そう言い二人見合ったとき、三井の携帯が鳴った。


「はい・・・え?芽衣子先生?・・・・ああ・・・まあ・・・何かは・・・あったな?」


芽衣子からの電話を取った三井がチラリとうららを見ると、うららは首を傾げた。
大丈夫だと断りを入れ携帯を切った三井は、うららを立ち上がらせながら電話の内容を伝えた。


「ハル・・ちゃんがお前を引き止めるように吠えていたそうだ・・・・」


「え?・・・そうなんですか?」


「心配してるみたいだし・・・一度、戻るか?」


「はい!!」


三井の言葉に元気よく頷いたうららが先に行くのを確認した三井は、車が走り去ったほうを見て口の端を上げるのだった。




File.3へつづく


《勘のいい方はお分かりかと思いますが・・・芽衣子先生はモー子さんが演じています。
それはも~キョーコとラブラブで演じておりますww

そしてハルちゃんはイタリアン・ボルピノという犬種のイメージでいってます。
フワフワしててかわいい小型犬ですw》