†破格契約   ② | なんてことない非日常

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†破格契約   ②




バカ松太郎に背を向けた私は就職が決まるまでご厄介になる『だるまや』のバイトに向かいながら、自動車学校のパンフレットを見比べて吟味していた。




「はあ・・・・やっぱり・・・20万以下でミッションも・・・なんて・・ないわよね・・・」




料金は確かに頭が痛いけど・・・それはローンで何とかなりそう・・・。

でも何よりも問題は取得期間だった。


短期間で取得するには合宿という選択肢があるのだけど私にそれは無理だった。


松太郎の両親にお世話になりっぱなしにならないようにと高校入学と同時に始めた『だるまや』のバイトは今では私の生命線であり、休む事なんて考えられなかった。



松太郎の手伝いで働いていた会社の給料は一円も手をつけずにいたのが幸いしてそれを全額返すことで縁を切らせてもらった。


ギリギリの生活費として『だるまや』で稼いでいた程度だった私に蓄えなんてものはもうない。



学校も卒業はほぼ確定のこの時期、行っても行かなくてもいいから夜の片づけのみで働いていた私は渋る大将にお願いをして働く時間を大幅に増やしてもらったばかりだった。



「まいったなあ・・・・・・」



ホトホト困っていた私に一枚のチラシが目を引いた。


いや・・・目はさっきから引かれまくりだった。


だって・・・自動車学校にしては派手すぎる広告。

全部読まなくても高額そうなんだってわかる完全完備のコピー。


大して読まずにスルーしていたけどある一文に私は目が釘付けになった。



『10日間10万で免許取得の特化コース開設』



色んな煌びやかな文字の中、広告の下の方隅っこにあった一文に私は雷に打たれるが如くの衝撃を受け他のパンフレットを落とした。



「こ・・・これだわ!!!ここに決めた!!LME自動車学校の特化コース!!!」



私はその広告を握り締め道の往来で人目も気にせずそう叫んだのだった。





のちに酷く後悔するなんてこの時の私は一ミリも思わないのだった。







****************






「・・・なんですか?この特化コースって・・・」




一人の長身の男がその美麗な顔を歪ませて数ページある書類を自分の目の前にいる人物の机に投げ寄こした。




「なにって・・・お前のために作ったコースだぞ?・・・蓮」




美麗な男は自分の名前を呼ばれさらに眉間の皺を深くした。




「・・・社長・・・だから・・・いちいち俺で遊ばないでください」




「遊んでいるつもりは無いぞ?」




ため息交じりのその言葉に社長と呼ばれた男は、大きな社長イスから降り立った。



社長イスも通常の何処にでもあるような黒の革張りとかではなく、バロック時代か?というような真紅のベルベット生地と豪奢な細工を施したイスで彼が通常の美意識を持ち合わせていない事は見て取れるが、その格好も驚きのものだった。


そのイスにぴったりと納まるような真っ白のマントを翻しながら古代中世の王様のようないでたちはここの部屋の中に置いてある家具ともマッチしていた。


ただ、ここが日本で彼が経営する自動車学校であるという事を覗けば・・・・だが。




しかし、彼のそんな格好にも慣れてしまっているのか蓮はイスから降り立ち自分と対峙する様にほくそ笑んでいる男に大きなため息をついた。




「・・・・・俺は真面目に教習を受ける生徒を回して下さいと言っただけです・・・・いつまでも講習を受ける生徒や人の話を全く聞こうともしない者に俺は講習なんて出来ません」



彼は吐き捨ているようにそう言うと、苦虫を噛み潰したような顔に嫌悪の色も浮かべ始めた。




「俺は・・・俺が教えた者の中から事故を起こすものを出したくないんです!・・・・社長だって・・・わかっているでしょ・・・・・・」




蓮の様子に社長は大きくため息をついた。




「ああ、お前が人一倍事故を起こすのを嫌っているのは知っている・・・けれどこのままだと『約束』・・・果たせないぞ?」




「っつ・・・・・・わかって・・・ます・・」



苦しみの表情を浮かべた蓮とそれを寂しそうに見つめる社長がいる最上階の窓から下を覗き込めば、彼らの運命を変える少女がまさにこの建物の中に入ろうとしていた。







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