「なるほど。面白い……」
育児本なるものを読んでみたが、なかなか興味深い代物だった。
なぜわたしがこのような本を読んでいるのかと言うと、やっとひとつの案件が終わったたので数年ぶりに息子のシルバーと遊ぼうと思ったら、なぜかとてつもなく嫌われていたからだ。
シルバーが小さい頃はジムリーダーをしながらロケット団の計画のために忙しくしていて全く構ってやることが出来なかったが、それでも「おれのおやじはさいきょうのとれーなーだ!かっこいい!だいすき!」と言ってくれていたと言うのに。
これまで関わってこなかったし、そもそも子供という生き物の気持ちなど全く理解できん。
ひとりでアジトにカチコんでボコボコにしてくる子供もいるし、子供は本当に恐ろしい。
故にまずは前提知識を得るべく子供との関わり方の本を読んでいるのだ。
この本を読んだことで、シルバーはいわゆる反抗期というものであるということがわかった。
しかしそんな事情があるとしても、シルバーがわたしに対して反抗的な態度を取るのを容認する訳にはいかないのだ。
なんとか一緒に出かける理由をつくり、共に食事をしながら洗いざらいシルバーの気持ちを吐かせ、形式的に理解を示した上で、態度を改めるよう指示してみよう。
親子トレーナーを集めて最強親子トレーナー決定戦をすると言えば、シルバーは最強トレーナーと言う言葉に釣られてわたしと共にダブルバトルをしてくれることだろう。
その後食事会をしようではないか。
まずはRR団のメンバーで子持ちの面々に声をかけ、アポロに各地の著名な親子トレーナーを呼ぶように指示をしておこう。
フフフ……。当日が楽しみだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
当日。
「シルバーよ……」
「話しかけるな。全員まとめてオレが倒す。邪魔だけはするなよ」
面白い……。話くらい聞けとも思うが、育児書にあった反抗期の行動として、話しかけられるのを嫌がる、偉そうな態度を取る、邪魔者扱いする、などがあった。
お手本のような完璧な反抗期だ。わたしは完璧なものが好きだ。
つまりシルバーが好きなのだ。息子かわいい。
「おや、一番乗りですか。サカキ、久しいですね」
「ゲーチスか。よく来たな」
マブダチのゲーチスが来た。
相変わらずわたしに勝るとも劣らないゲスい顔をしている。
ゲーチスに子供がいると聞いた時は驚いた。子を可愛がっている姿が全く想像できないが、息子は不思議な雰囲気の優しそうな青年だ。
「これが息子のナチュラル・ハルモニア・グロピウスです。Nと呼ぶといいでしょう」
ほほう。まさかゲーチスが子供にキラキラネームをつけてしまうタイプの親だったとはな……。
それにしても我が子をこれ呼ばわりとは。諸悪の限りを尽くしたわたしでもそのような下劣な行為はできないぞ。
「初めまして。ボクは……」
「うるさい!黙れ!化け物が!人間の言葉を語るな!!」
えぇ……。子供が口を開いただけでいきなり理不尽な理由で侮辱しながら怒鳴るとは。親としてと言うか人としてのレベルと沸点が絶望的に低い。
こやつらはわたしたち親子の敵ではないな。
「グラジオ、お待ちなさい」
入口付近を見ると、ルザミーネが息子を呼び止めていた。
「ネクタイが曲がってるわ。せっかくイケメンに産んであげたのにこれでは台無しよ。こちらにいらっしゃい」
ルザミーネは息子のネクタイを結び直し始めた。息子はシルバーと同世代だと思うが、ルザミーネにされるがままだ。
人前で母親に世話を焼かれるのが相当恥ずかしく感じる年齢だと思うのだが。
「これでよし。さすがはカワイイカワイイわたくしの子ね。本当に素敵よ!」
ルザミーネは息子を抱きしめて頭を撫でた。
確かに育児書にはたくさんスキンシップをとるべきであるとあったが、それは乳幼児期の項目にあったと記憶している。
そして、子の成長に合わせて親も親として成長しなければならないとも。
子を幼児のようにしか扱えないルザミーネは親として成長できていないのであろう。
奴らも大したことないのだろうな。
次に来たのは全体的に質量の大きい2人組だ。親の方は顔と名前だけは知っている。わたしがジムリーダーをしていた頃からずっとガラルでジムリーダーをしているメロンだ。
「マクワ、ガラルのジムリーダー親子の強さを見せてやろうじゃないか!恥ずかしいことするんじゃないよ!」
「それはこっちのセリフです。僕には僕のやり方があるので指図はいりません」
ほほう。息子もジムリーダーなのか。
親子で同じ仕事をする関係とは興味深い。
シルバーももう少し社会経験を積んだら一緒にロケット団をしてはくれないだろうか。シルバーの将来が非常に楽しみだ。
それにしても、メロンの息子はもう成人しているような年齢に見えるが……。反抗期をこじらせたまま大人になったと言ったところだろう。
シルバーが大人になっても今の態度のままなど、わたしは到底耐えられんぞ。こうはなるまい。
続けざまに黒い男と派手な髪色の娘が入ってきた。
「ダーッハッハッハ!メロンとマクワは相変わらずだな!オレとボタちゃんはこんなに仲良しなのにな!」
声がデカすぎる。わたしには理解できない人種だ。
アポロの寄越してきた資料を見るに、親の方はガラルの元チャンピオンのピオニーと言うらしい。
娘の方は……マジボス?マジボスとはなんだ。わたしより強そうなボスを名乗るとは。
女の子供だと言っても元チャンピオンの娘だ。一切の油断はできないと言うことか。
娘の方がそっぽを向いてしまっているのに、ピオニーは娘の肩をバシバシ叩きながらゲラゲラと笑い続けている。
娘の方はあからさまに嫌そうな顔をしてボソボソと何か文句を言っている。
シルバーもこのような絡まれ方はしたくないだろうし、わたしもこのような恥は晒したくない。
わたしとシルバーはこの親子よりは分かり合えている関係と言えそうだ。
少し遅れてもう一組入ってきた。
ふむ。パルデアの博士のフトゥーと言うのか。息子は学生ながらに原因不明のポケモンの病気を治す料理を作る天才料理人か。面白い親子だ。
息子の方は超名門校のオレンジアカデミーの制服だ。あまり真面目そうには見えないが、勤勉で優秀な息子なのだろう。
「なあ、父ちゃん」
「なんだ?」
「オレ、バトルは苦手だけど頑張るからさ……」
「……」
「だからさ……」
「……そこの席か。座ろう」
「……わかった」
機械のような冷徹な対応だ。まさかとは思うが、親の方が反抗期なのだろうか。
このような態度で息子がグレずに話しかけてくれているなど、奇跡的で感謝すべきことだ。
シルバーはこちらが話しかけても無視したり生意気な態度しか取らないというのに。正直うらやましい。わたしもシルバーに父ちゃんって呼ばれてみたい。
だが、フトゥーと息子はまるで他人のような距離感だ。
息子、めっちゃ顔色見て話しかけようとんじゃん。かわいそう。
「父ちゃん、あのさ。もう少しオレの話も聞いてくれよ」
「……あぁ」
やはり親の方が反抗期だ。シルバーもそんな感じ。
「さっきからなんなんだよ!なんで父ちゃんはいつもさ……!」
「……すまない。すまないすまないすまないすまないすまないすまない」
なんだ。そこまで謝るなら最初からするべきではないと何故わからないんだ。
「す……すま……ペパーすまなペすぺぺぺペッペッペペパーペペッペぺぺすまぺ……」
なんだ。フトゥーは煙を上げながら壊れたブリキ人形のように踊り始めた。
機械のような態度かと思ったが、フトゥーは機械だった。
「なんだあれは!化け物か!」
ゲーチスは立ち上がって息子をフトゥーの方へ突き飛ばした。
「お前も化け物だろう!化け物は化け物がなんとかしろ!」
そう言ってゲーチスは逃げて行った。ひどい。
ルザミーネは戸惑って怯えた様子だが、息子が立ち上がってルザミーネの前に出た。
「大丈夫だ。母さんはオレが守る。母さんには指1本触れさせはしない!」
え、ルザミーネの息子かっこよ。
でもさりげなくめっちゃ隅っこにルザミーネをつれていって、一緒に隅っこに立ってる。なんだ。戦わないのか。かっこつけめ。
メロンは立ち上がってボールを構えた。
「マクワ、ボサっとするんじゃないよ!あたしがこごえるかぜで動きを鈍らせるから、あんたは……」
「指図しないでください。僕ひとりで充分です。一撃で押し潰します」
「馬鹿言ってんじゃないよ!あの子の前で親を潰すって言うのかい!?あたしゃあんたをそんな人でなしに育てた覚えはないよ!」
「うるさいですね!明らかに人間じゃないでしょう!あなたの言う通りにして良かったことなど一度もないんですよ!」
ケンカが始まっちゃった。
「ボタちゃん、大丈夫だ!パパに任せろ!よーし!娘にかっこいいところみせちゃうぞー!」
ピオニーはやる気満々だ。元チャンピオンともあれば実力は申し分ないだろう。
この親子はこの中では1番マシかも知れない。
「オヤジ待って。遠隔で操作されてる可能性がある。もしそうならその回線を乗っ取って強制停止のプログラムを……」
娘がパソコンを取り出した。なんかすごそう。
「海鮮が乗ってる……?なんだ?海鮮丼が食べたいのか?」
娘はピオニーを無視してパソコンを操作している。
「ねぇねぇボタちゃん。せっかくカントーに来たんだし、パパは海鮮丼より本場のスシが食べたいよ」
「ボタちゃんボタちゃん。スシじゃダメ?ねぇねぇ聞いてる?」
「オヤジうるさい!黙ってて!!」
「ええ……。パパ悲しい……」
ピオニーは縮こまっていじけ始めた。もうめちゃくちゃではないか。どうしよ。
シルバーがため息をつきながら立ち上がった。
「フン……。オヤジ、ダグトリオで窓の外の地面に穴空けろ。オレのフーディンのねんりきでそこに放り込むから首から下を埋めとけ。それからどうするか考えろ」
え、いいじゃんその作戦。さすがわたしの息子だ!
「よかろう。ダグトリオ!」
「フーディン、いくぞ」
素早く連携してフトゥーを埋めた。フトゥーはしばらく暴れたあと、充電切れになったのか動かなくなった。
「シルバー、なかなかやるようになったな」
「フン!当然だ。ただ、あと少し埋めるのが遅かったらこの部屋ぶっ壊されてたかもな。さすがはオヤジだと言っておいてやるか」
えー!嬉しい!
シルバーはできる子に育っているし、わたしとシルバーは結構いい親子ではないか。
あまり焦る必要はなかったのかも知れないな。