:私と影
私の朝の街角には影がいて、こちらを観ている様な、観ていない様な目をしている。おいで、と手招きをすると猫の様な愛らしい声で鳴いているのかもしれない。でも、その姿じゃあね…なんて言ってみたのなら、泣いているのかもしれない。大丈夫?と声を掛けたい日はきっと来ない。私とすれ違うと、影は消える。まるで私みたいだ、と呟いたりしない。大丈夫だよ、とも呟いたりしない。夜になると、影は元の位置に帰っていくらしい。私もはやく元の位置に還れます様に。
明日、影を観られない朝が来ません様に。
:釘
ぐさりと刺さった分だけ、あなたが私を見てくれた分だけ、もうここに立っている気がしてくる。ありがとう。
足の裏に釘を刺す。立ち止まったまま、足踏みしたまま、やっぱり動けない、なんて嘘も言えない。誰かに伸ばす手よりも先に足が出る。指した物は手に入りますか。射した物はあなたのためになっていますか。刺さった物があなたの足になりますように。今日も明日に釘を刺す、丁寧に丁寧に、「あなたの何かになれていますように」
:これはまた別の話かもしれない
昨日に刺した釘が、まだ刺し足りないよ、と笑っている。こちらを見ることのない、あるはずのない手につかまり続けた影は雨音のしない傘とすれ違うことが出来ない。釘を、歩き出したくない足にたくさん刺していく。こんなに動けるのに、何故、傘を投げ捨てられないのだろう。雨音はしないのに、雨音はしないから、ずっと晴れ過ぎないことを祈っている。転ぶところが見たいのかもしれない。でももう知りたくないから、もうその手段は見ていたくない。大雨の中、水溜まりに映った顔が見えなくなりそうで、つい傘をさしてあげた今日もいつかあれば良い。釘を刺されて、感覚を引きずっていく。昨日も今日も、晴れ過ぎないことを祈る、またすれ違うことの出来る温度がある日がいつか来たら良い。
(またべつのはなし)
乾いた道路で影と出会う。「やぁ!」と言っていそうな感じで片手を挙げて、なんだか馴れ馴れしそうだ。怪訝な顔をしてみたら、影が怯んで、少し面白かった。にゃー、と、か細く後ろから猫の鳴き声がしていることに気付いて、影を見てみたら、直ぐ様駆けていって、猫とじゃれている。「べ、別にお前に手を挙げたんじゃないからな」と言っていそうだ。じりじりと照りつける太陽が痛い。晴れ過ぎた空、溶けてしまいそうだ。思わず、影に日傘をさしてあげたら、こちらを向かずにか細く「…ありがとう」と言った。私は思わず笑ってしまった。でも「こちらこそありがとう」と言った。
:キレイナサカナタチ
僕の目の前で今、魚が泳いでいる。それを写真ではとれなくて、悩んだりする。とても綺麗だけど、触れたりするよ。壊したくもなるよ、だってとても綺麗だから。私はいつもそう思ってしまっては、触れなくなる。水が濁ってしまって、ごめんね。
:分からないこともないのだ。
/
影が日傘を持って、にたりと笑う。大丈夫じゃないでしょう。大丈夫じゃないよ。大丈夫です。大丈夫なの?きっと大丈夫。絶対大丈夫。大丈夫、だよ。私が傘を持っていても、悲しいかもしれない。ちゃんと立ててますか。笑えてますか。笑ってください。私は笑います、泣きません。泣いていいよ。日傘も傘も要らないよ。
/
真っ暗じゃないよ。
:台無しの水溜り
水溜まりに映りたくて覗いてみたら、痛かった。
雨が振り続いて、たまらないの。傘をあげるから、早くやまないかな。底がないから嫌になるよ、覗いたら、やっぱり除かれるよ、私は私に。すべて水浸しになって、少しだけ嬉しくなる。すべてが台無しになる。すべてが底有りになったら、それはそれで底無し。すべてが台無しになる。すべてに雨を、私はいっそのこと台無しになりたい。じめじめした空気に洗脳された人が来るよ。底有りの水溜まりに落ちて、助けを求めている。ああ台無し。台無し。台無し!じめじめとした空気が水溜まりに底を造るの、私は早くも雨がやまないことを祈り始めた。
:無題
影の首をしめる。失言に目を瞑りたくない。口をとじる。もう何も言いたくないから、もう何も言わないでいいよ。電柱にぶらさがって、こちらを見つめていた羨ましい目もとじる。今日の予定を握り潰すくらいの強さも、今日もゆらゆらしている自身に使えたら良かった。
:裁断
影は人間らしくないので銃で撃たれても死なないと言い張ります。飛び散る赤を観ましたか。あれは溜め息だ、って笑うんです。
温かすぎて、苦しくなります。その手を退けて、全て自分のために使ってください。