2022年6月28日
日銀が保有する国債の含み益が急減したもようだ。民間2社が金融政策決定会合前の15日に2000億~6000億円程度の含み損に陥ったと試算した。3月末に4.3兆円の含み益だったが、海外金利の上昇で新発20年債や30年債が3月末から0.3%ほど利回りが上昇(価格は下落)したことが響いた。その後の金利低下で含み損状態は解消したとみられるが、今後の金利動向によっては実質的な債務超過に陥る懸念もある。
日本経済新聞社が野村証券、みずほ証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の3社に日銀の国債の含み益の状況について試算を依頼した。試算結果によると、金利上昇圧力が高まった6月の決定会合前の15日に、野村証券は日銀が2000億円の含み損に、三菱UFJモルガン・スタンレーは日銀が6000億円の含み損に陥ったと試算した。
みずほ証券の試算では15日時点でも1兆3000億円の含み益が残ったが、3月末から3分の1以下に落ち込む計算になる。同社は金利全体が上昇して10年債の利回りが0.65%に達した場合、国債の含み損が日銀の3月末時点の自己資本である10.9兆円を上回り、「実質的な債務超過とみなされるリスクがある」(同社の丹治倫敦氏)と分析する。
試算について、日銀側は「日銀は6月時点の含み益の状況を公開していない」としている。これらの試算はいずれも国債の時価を基としており、簿価評価を採用する日銀にとって「財務には影響しない」(日銀関係者)。ただ、市場が「日銀の財務の信認が揺らいだ」と判断すれば、金利・為替動向などに影響が及ぶ可能性がある。
日銀の財務悪化は、大規模緩和を維持するために大量の国債を買い入れていることが影響している。海外金利が上昇して国内市場への圧力が強まる中、日銀は指定した利回りで国債を無制限に買い入れる「指し値オペ(公開市場操作)」や臨時の国債買い入れ、定例の国債買い入れの増額といった措置で金利を抑え込んでいる。
結果として、日銀は超低金利(価格は高値)の国債を大量に抱え込んだ。日銀の運用資産全体の利回りは19年度の0.242%から21年度に0.169%まで低下した。日銀は当面国債を保有し続けるとみられるが、今の状況で本格的な利上げ局面を迎えれば、財務悪化は避けられない情勢だ。
もう一つの財務の懸念は逆ざやリスクだ。日銀が銀行から国債を買い入れた際は売却代金を日銀当座預金に積み、その預金に金利を支払う必要がある。もし利上げ局面が到来すれば、日銀が保有する国債からの金利収入が上がらない一方で、日銀が支払う当座預金の金利負担だけが増えていく。逆ざやは避けられないとみられている。
東短リサーチの加藤出氏によると、当座預金に付ける金利を0.5%に引き上げただけで逆ざやが発生するという。日銀が赤字に転落して財務の悪化が進めば、政府が発行する大量の国債を日銀が間接的に引き受けるというこの国の財政の在り方自体に厳しい目が注がれかねない。