今日もまた、過去世の魂の遍歴を通し、魂の学習をしたいと思う。
話は今より三千年以上の昔。日本で古事記に描かれた出来事が実際に起きた時代の話である。
この我が国は、南方からの民族と、大陸の民族の融合和合によって出来上がった。幾つかの部族が互いに派を競い、やがて大和地方を中心として、古代の天皇家に繋がる王朝が形成されていった。このあたりの出来事は、神武天皇の東征物語に詳しく書かれてある。
ところが我が国にはもっと古い時代に、土着の民族がいた。東北の蝦夷民族、そして、古代出雲のオロチ族である。オロチ族は大小約64カ国を従え、現在で言う出雲地方を中心に大きな朝廷を作り上げていた。その頭こそ、私達が古事記で耳にする大国主命であった。この大国主命はたいそう福徳円満な王で、争いを好まなかった。大和地方に広がった古代日本の王朝は、このオロチ族、出雲民族をも従えようと、度々使者を差し向けた。
しかし、特殊な文化と特殊な民族から成り立つ出雲の民は、これを拒絶した。為に、大国主命は大和王朝に付くことを固く拒絶した。この大国主命に、そなたはかつて仕えていたことがある。当時、名をイマキ姫と呼んだ。イマキ姫であるそなたは、度重なる大和王朝からの服従の申し出に、心を痛める大国主命を心から哀れんだ。
「王よ。さぞ御辛いことでございましょう。」
すると大国主命はこう言った。
「大和王朝と我らでは性格が異なる。彼らは国土を拡張に次ぐ拡張を重ね、どこまでも領土を広げようとしている。ところが我らにはその意思が無いのだ。己の分を守り、己の民族の平和だけを考えておる。そのような部族が、手を組んだところではたして、うまくいくと思うか。」
そなたは大きく首を振った。
「王の仰せの通りでございます。私にもうまくいくとは思えません。」
「そうか。だが、国民の中には強大な大和朝廷と組めば、この出雲族も更なる発展を遂げると勘違いするものもいる。そなたの方で、しかと説得して欲しい。」
こうして、何事もなく数年が過ぎた。しかしやがて、恐るべきことが起きた。大勢の軍勢を差し向けて、ついに大和王朝が武力討伐に踏み切ったのである。国土は荒され、多くの民が生け捕りにされた。
戦争の最高責任者に仕立て上げられた大国主命は、砂浜に連れて行かれて、斬首の刑と決まった。大国主命はこう言った。
「私一人が血を流せば、戦いは無事終わるのだな。私一人の首を刎ねれば、民の平和を約束してくれるのだな。」
大和王朝は大きく首を縦に振った。
「その通りだ。おまえ一人が死ねば、この争いは終止符が打たれる。さあ、ここで、とっとと腹を切るが良い。おまえの首を、我自らが刎ねてみせる。」
大国主命は、しばし躊躇した。それを見ておった大和王朝は
「おい。此期に及んでおまえは、死ぬことが怖くなったのか。」
と、大国主命は、
「そうではござらん。最後に申し伝えたいことがある。」
こうしてイマキ姫であるそなたが呼ばれた。
「姫君よ。わしの最期のときが近づこうとしておる。」
そなたは言った。
「何故死ななければならないのですか。何故平和を愛するあなたが首を刎ねられなければならないのですか。戦争を仕掛けてきたのは大和王朝の方ではありませんか。宣戦布告を仕掛けてきたのは大和王朝の方ではありませんか。それなのに、なぜあなた様が戦争の責任を取らされなければならないのでしょうか。何故平和を守る善の民は、悪の権化のような力強いものに虐げられなければならないのでしょう。こんな残酷な歴史が、一体いつまで続くものなのでしょうか。」
すると大国主命が因幡の浜を遥かに見やって、そして言った。
「イマキよ。わしは今、初めて目覚めたのじゃ。」
「どういうことでございますか。」
「わしは長きに渡って、国王の座に居過ぎたようだ。」
「国王の座に居過ぎるのが長過ぎましたか。でも、あなた様に代わる人はおりません。」
「そうではない。何故このような運命を招いたのか。わしは今初めて知ったのじゃ。わしは自分の後継者がいないと思って、いつまでも国王の座におった。それがそもそもの間違いであった。私はもっと早くにこの国王の座を捨てなければならなかったのだ。」
「捨てると?それは一体いかなる意味でございますか。」
「わしがこの国王の座を捨てたら、大和王朝より参っておるスサノオがこの出雲族を統一することになるであろう。その時おまえは、そのスサノオに従わなければならぬ。」
「何故力の強い者が王の座につくのでしょうか。それが正しい政治のあり方でございましょうか。大国主様のように民の幸福を、ひたすら願う人が、国王の座につくべきではありますまいか。いつになったら、平和な世の中が来るのでございましょう。」
「イマキ姫よ。よく聞くがよい。そしてこれがわしの今生の最期の言葉と思うて聞け。わしは数時間後にはこの稲佐の浜に死体をさらけ出すことになる。わしの肉の身は引き千切られ、海岸縁にばら撒かれるだろう。一週間もせぬうちに、わしの体は魚の餌食となる。だが、わしの魂は不滅だ。よいか。わしは今初めて、この私が肉体ではないことを悟った。私はもっと早くに国王の座を捨てて、次なる世界へと進化加速せねばならなかったのだ。この私は居心地のいいことを言い訳として、いつまでも政治の表舞台におった。しかしわしには、違う使命があったと、今気がついたぞ。」
「王様の本当の使命とは、何でございますか。」
「よい。聞かせてやる。今は、我が国は目に見える領土の奪い合いとして、目に見える世界に安住しておる。しかし、本当は目に見えない世界の方が大切なのだ。目に見えない世界の方が目に見える世界よりも遥かに広大無辺な世界なのだ。しかし、その目に見えない世界を、解りやすく民衆に教えるのは難しい。わしはもっと早くに心の目を開いて、目に見えない世界と目に見える世界との橋渡しをすべきであった。そして、目に見えない世界の大切さをわしはもっと早くに説くべきであったのだ。わしにはもうひとつの使命があったのだ。国王や政治家としての使命ではない。目に見えぬ世界を説くところに、わしの本当の使命があったのだ。よいか。偉大な人間は、常に自分のいる地位に安心安住してはならない。常に一日一日と進化向上を目指し、自分の本当の役目は何かと問い続けなければならなかった。それが今回のようなつけとなったのだ。わしは死んで目に見えない世界の真実をおまえに伝える。おまえはその目に見えない世界と、目に見える世界との関係を、民衆生に説かねばならない。心が平和であれば、何もかもうまくいく。心に争いがあるうちは、何をやっても駄目だ。この単純な真理を、おまえはよく覚えておくがよい。目に見える世界で結果だけを求めては失敗するぞ。目に見える世界だけの物資的繁栄や、やれ病気が治った、病気になったと現象に囚われているうちは、人間の魂は一向に進化せぬ。人間の目に見えぬ世界に心を集中し、荒れ狂う己の心を静めることだ。人間が生きてきた最上の目的だということを、知らねばならぬのだ。
然るに、我が国においては、政治家であるこのわしが、目に見える世界だけに安住しておった為に、病気が治った、金が儲かったというご利益信仰に終始しておる。今、この出雲王朝が滅ぶのは、その大きな付けなのだ。わしはそのことを深く懺悔せねばならない。私は肉の身を捨てて、異界の世界へ行く。しかし、わしはまた戻ってくる。」
そう言い残して、数時間後。大国主命は斬首刑の為に砂浜に縄を括られてなおられた。
あのように偉大な方ですら、己の使命を忘れるとこのようなことになるのか。何と人間の生きていく道は奥深いものなのか。首を刎ねられるときに、大国主命は天を見上げ、何のためらいも無く合掌した。
「さあ。わしの首を刎ねてくだされ。わしの血ひとつでこの出雲の地に平和が来るなれば、何をか言わんや。私は命を民の為に捨てることはひとつも厭うてはおらん。」
大和王朝から派遣されてきた斬首の担当の役人は、屈強な若者であった。その姿を見ると涙が出て堪らなかった。何故このような立派な人を殺さねばならぬか。その若者もまた、しばし合掌した。そして、
「許してくだされ。」
と言って、ひとかぶり。大きな鉄剣を空中深く高々と掲げた。そなたは大国主命を制止することは出来なかった。振り上げられた鉄剣が、大国主の首筋をめがけて振り落とされた。
とその時、大国主命の心の潔さを見て取った天の神は、俄かに稲光を起こし、振り上げた鉄剣に稲光を落とした。鉄剣は粉々に砕け散ったのだ。しかし、鉄剣を砕け散った稲光は、同時に大国主命の体を真っ二つに貫いた。大国主命の体は鮮やかな紫色に輝くと、やがて小さな光の玉へと変わった。そして跡形も無くなったのだ。異様な光景であった。大国主命の体は斬られること無く、空中へと飛び散った。
「イマキ姫よ。」
空中から声がした。
「我今こそ不死身の肉体を得たり。我肉の身に何の執着もなし。」
大国主命は紫色の火花となって、大宇宙の彼方へと駆け巡った。
この不思議な出来事があって以来、そなたは稲佐の浜に、瞑想の為にしばしば座ることが多くなった。夜更けてある晩、海岸に向かって瞑想をしておると、海上遥か彼方より、異様な光を放つ物体が飛んでくる。蛍の光のような小さな光であった。身の丈数cmという、小さな体であった。
「イマキよ。我が何者であるかわかるか。我は肉の身を離れて、今はこのような小さな体に変身し、そしてこれより後は、この地上において、人々の病を治す人間に光を送っておる。我は今日から少彦名命となるのだ。」
「どうしてそのような小さな体になられますか。」
「偉大な魂はな、人々に仕え、頭を垂れるのだ。威張り散らしてはならぬ。もしこの世の人々で、偉大な力がありながら人々に頭を下げ、人々を軽蔑することなく、ただひたすらに人々を救うことに専心する者あれば、我はその者を背後より守らん。」
と言って、空中に消えた。
我らの使命とは何であるか。この地上において栄耀栄華を築くことでもない。何千億という資産を築くことでもない。
我らの目的はただ一点にある。霊なる己の本性に目覚めること。人々に尽くす。奉仕のエネルギーで出来ていることを自覚すること。このことをおいて、他に一切我らに役目はない。
この地上に出たる多くの聖者。偉大な力を得たる者達よ。ひとときも己の立場に止まってはならぬ。人々に先生と言われて崇まれるからと言って、それに甘んじて傲慢になってはならない。ひたすら頭を垂れ、ひたすら人々に尽くす。その使命を忘れたとき、堕落と滅亡が待っている。
道を求める上において、これでよいという限界はない。人の病を癒す技術においても、これでよいという限界はない。止まるなかれ。自己満足するなかれ。道は永遠に続くからである。人に褒められようとけなされようと、認められようと認められまいと、陰日向なく、道を求め続ける、これを誠実さという。
そなたは前世において、この偉大なる大国主命より、誠実さとは何かを、まざまざと見せられた。
どこまでも、その誠実さを極めてゆけばよい。いつになったら世間が認めてくれるか、己の努力が評価されるかなどは、微塵も考えてはならない。さすれば、すべての環境は与えられる。
この場に大国主命並びに、少彦名の精霊も臨済がある。
アカシックレコード書記官