年末の日経新聞にこんなことが書かれていた。
「中国の自動車販売台数、日本を抜く」
これは反発を招くかもしれないが日本は基幹産業である製造業から次の産業に移行したほうがいいと思っている。経済学者の野口 悠紀雄氏も著書で主張していて私もこの意見に賛同している。
この産業の移行はこれから世界のミドルパワーとして日本が新たな方向に進んでいくという新たな転換点なのだ。スイス、シンガポール等の小国ながら世界に対して強みを見せている国を研究して日本経済がどういう方向性に進むべきか考察したい。
具体的にどの業種に今後、日本が力を入れるべきかお伝えしよう。
それはずばり金融・保険・時計だ。
金融・保険について説明しよう。
・まず大規模な工場などの設備投資が必要ない。仕入れも必要ない。仕入れは普段、我々が何気なく銀行に預けているお金や毎月保険会社に支払っているお金だ。安価な調達コストで手に入る。簡単にいえば資本効率が非常に高い。「お金」「保険」という商品は腐ることも、型落ちして価値がゼロになることもない。自動車であれば材料を集め加工・製造し、販売場所へ送らなければいけないが、お金であれば支払は100万円も100億円も送る経費はほぼ同じだ。
・金融・保険業は免許制でありライバルが比較的少なく、強固な参入障壁が存在している。さらに金融システムが崩壊すると国が止まるため、政府による強力なバックアップや公的資金の注入が行われるなど、倒産リスクに対して他業種より強い保護が存在している。自動車産業は新たなEVメーカーが世界でどんどん生まれてきており参入障壁がなくなってきている。
・金融・保険業は強力なストック型ビジネスであり住宅ローンの利息や保険料、カードの決済手数料などは、営業活動をしなくても「仕組み」として入ってくる。海外に広く展開できれば強力な参入障壁の1つである「顧客の囲い込み」の拡大が可能となる。
・日本は国土を海で囲まれており永世中立国のスイスのように資産を安全に保全できる場所と言える。そして金融・保険業の肝である信頼という点において政治が安定しており汚職が少ない。モラルが高い民族であり教育水準が比較的高く金融商品や保険を安心して扱える。
・日本には約2,100兆円を超える個人金融資産があり、これは世界的に見ても驚異的な資源である。この巨額の資金が預貯金として眠っている状態は、経済的に見れば宝の持ち腐れ。これを金融業が吸い上げ、成長著しいアジアや新興国のインフラ、あるいは国内のスタートアップに投資(配分)する仕組みを強化することで、日本は世界の投資家として配当や利息で潤う構造を作れる。
・日本は「巨大災害(地震・台風)」や「超高齢社会」を経験している課題先進国であり、ここで培った高度な損害予測データや生命保険の設計ノウハウは、これから同じ課題に直面するアジア諸国にとって極めて価値の高い「商品」となる。
・中国に「箱(車体)」の製造で負けたとしても、その車を走らせるための「決済システム」や「自動運転保険」を日本が握っていれば、利益の源泉(バリューチェーンの最上流)を抑えることが可能。
自動車産業は、巨大な工場、材料、そして数百万人の労働力を必要とする「労働・資本集約型」のビジネスだ。一方、中国のような巨大な市場と安いエネルギー・労働力を持つ国と「量」で競うのは、現在の日本には限界がある。金融・保険は、物理的な資源をほとんど使わず、「信用」と「データ」と「数理モデル」で付加価値を生むビジネス。自動車1台を売って得る利益よりも、巨額の資産をグローバルに運用して得る利益の方が、少子高齢化で労働力が減る日本にとって効率が良い「稼ぎ方」になる。
そして時計。
日本が「時計産業」に注力し続けるべき理由は、自動車産業が直面している「コモディティ化(汎用品化)」の罠から逃れ、「高付加価値・高収益」な経済構造へ転換するための鍵が詰まっている。
・大量の原材料を輸入し、大量の製品を輸出するモデルは、輸送コストや関税の面で不利だ。この点で時計は非常に小さくて軽いため、海外に輸出するとしても空輸コストが安く済む。時計は数グラムの金属やネジが職人の手によって数百万円、時には数千万円の価値に変わる。材料費(原価)に対して販売価格が極めて高い「超・高付加価値」ビジネスといえるだろう。
・時計の歯車やネジを作る超微細加工技術は、医療機器(カテーテルや手術ロボット)、半導体製造装置、航空宇宙産業など、他国が容易に真似できない高付加価値分野と直結している。さらにセイコーやシチズンのように、自社で工作機械から油、ヒゲゼンマイ(心臓部)まで作れる国はスイスと日本以外にほぼない。
・時計のブランド化は歴史と信頼に基づいたものであって偽物のロレックスを大量製造している中国が歴史と伝統に裏付けられたブランドを作るのには大変な時間が掛かる。海鴎表(1955年創業)、北京表(1958年創業)などの高級時計メーカーもあるのだが中国には世界の工場としてのイメージがあり中国製=安いという負のブランドイメージが高価格帯への参入を阻んでいる。
・その点、日本は世界で成功してきたCASIO(1946年創業)、CITIZEN(1918年創業)、SEIKO(1881年創業)がある。どの企業も特徴的な時計をそれぞれ作ってきている。CASIOは最近、機械式時計EDIFICE(エディフィス)を発売し、SEIKOはグランドセイコーというラグジュアリーブランドを磨き上げている。世界でMade in Japanのイメージは悪くない。先人が築き上げてきた歴史に感謝し、さらにプラスし新・Made in Japanとして磨き上げていくのが現在の我々日本人の役目である。
・「正確な時計」はスマホに取って代わられたが、「時を刻む芸術品」としての需要は消えることは消えない。時計産業で培うラグジュアリー・マーケティングのノウハウは、他の消費財にも応用可能な強力な武器になる。さらにインフレになった日本において、自動車販売は景気や関税、ガソリン価格に大きく左右されるが高級時計は一種の「資産」として扱われるため世界的なインフレ局面でも価格を維持・上昇させることが可能。過去に製造した「良質な日本時計」が世界中で転売・流通し続けることは、日本という国家の信用と認知度を永続的に高める「広告塔」としての経済効果を持つ。
以上が私がこれから日本が進む方向だと考えている。今回は金融・保険・時計を取り上げたがほかにもたくさん違った考えがあると思う。どんな方向性に進むにしろ日本の為になるのであれば間違いではないと思っている。読者の方が考えるそのような企業を暴落時に買ってじっと保有していればいい。
これは単に自分が儲けるという概念を超えて真に日本の経済に役立つという立派な価値を持つ行為となる。これこそが本来の投資というものだと思う。インデックスの積み立てもしながらこのような投資も可能な範囲で割いて資金を投じて欲しい。投資という行為が本当に輝き出し自分が社会に役に立っていると感じることができるだろう。