~月の光の照らす場所~



この場所はとても綺麗だ…。辺り一面に溢れんばかりの月の光が満ちている。空から降りだした光は、やがて地面に降り注ぎ、木も花も私でさえもその光で包み込んでいく。


私がこの場所に来たのは、2日前のことになる。あの日、私はふとまだ外の風景を確認してないことに気付いた。(部屋の中に窓はなかったが、扉はちゃんと備え付けられていた)しばらくの間、その扉をぼーっと眺めていると、ふと、隙間から光が差し込んでいることに気付いた。私はこの先に誰かいるだろうと信じて扉を押し開けた。

そこには幻想的な風景が広がっていた。空には蒼く光輝く月があり、風が吹く度に、その美しい光が雨になって草木の上に舞い落ちていた。その光は辺り一面を包み込み、空と地面が互いに呼応するように光続けていた。

私は一度部屋に引き返し、探索に必要なもの(といっても私が詰めたものと言えば、この日記帳、一日分の食糧、夢を刻む時計、だけであったが)を鞄に詰め、部屋を飛び出した。久しぶりの外の空気だし、風景は美しいしで、私はほとんどピクニック気分で歩いていた。ふと、後ろを振り返るとそこに扉の姿は無かった…。

あれから、この光の中をただ宛もなくさ迷い続けている。ただ宛もなく何かの予兆を探しながら………
~眠りの中で時を刻む時計~



目覚めてみると、部屋の時計は6:37を指していた。どうやら、私が眠っている間に時を刻んでいたようだ。試しに、少しの間眠ったふりをして見たが、時計はそれが嘘だと気付いているらしく、一秒たりとも針を進めることはなかった。

私が眠っている間、この時計は何を刻んでいたのだろうか?

一般的に時計が刻むもの…それは時間だ。しかし、私の元にある時計が刻んでいるものは現在の時間ではなく、他の何か…私が眠っている間にある何かの時間を刻んでいるのだ。

私の親友は時間についてこう言っていた…


"時間はなにもしなくても ただとりとめもなく まるで雲のように流れていくものだよ"


私の時間は、この日記帳を書いている間もたんたんと流れ続けている。目覚めている間は、時計を見ればそれを一つの形として実感することが出来る。しかし、眠っている間はそれを確かめる事は出来ない。

もしかしてこの時計は、私の夢を刻んでくれているのかもしれないな…


私はこの時計のことを「夢を刻む時計」と呼ぶことにする。

今日もまたこの時計に、夢を刻んでもらいながら、眠りにつくとしよう。幸せな夢を見れることを願って………
~私は私 でも 私は誰?~


今日からこの日記を書こうと思う。

私はこの日記帳を、古い化粧台の中から見つだした。この日記帳、一見新品のように見えるのだが、中を覗くと所々何かを書いたあとが見受けられる。何が書かれていたのかは………残念ながら読み取ることはできない。

この部屋で目覚めておそらく3日はたつ。この部屋の中で、正確な時間を知るのは難しい。この部屋の時計は11時42分を指したままピクリとも動こうとはしない。


私は誰なのだろうか…。この3日間その事ばかりを考えてきた。私は殺人者なのか?事故で死んでしまったのか?それとも、私という存在は初めから存在していないのではないだろうか?

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ダメだ…混乱してきた……。しばらく休んでまた考えてみよう………。

書きたいことはまだあるが、新たな発見があることを願い今日は眠りにつくことにする。