新型コロナウイルスの影響で、撮影がストップしているが「誰かにとっての救いになったら、うれしいな」と願いを込める。
緊急事態宣言発令後の今月9日。新型コロナウイルス感染予防のため、ビデオ通話でインタビューを行った。

 「え? 何これ? こんにちは~。海外と中継してるみたい(笑い)」。中村は画面越しの記者へ満面の笑みで手を振った。中村にとって初のオンライン取材となったが、戸惑いの表情は一切見せず、新鮮な取材方法を楽しんでいた。

 ドラマ業界は未曽有の事態に巻き込まれている。新型コロナの感染拡大を防ぐため、4月期の連ドラは軒並み放送延期。同作は、通常より早い1月からクランクインしたため、無事に初回を迎えられた。

 「予定通り放送できることは良かった。毎日自宅待機して、自粛して、いろんなニュースが巡り、閉塞感がある。そんな中でフィクションは、一つの逃げ道になるんじゃないか。ちょっとしたガス抜きを、みんなの人生のプラスになればいいな」

 暗い世相を吹き飛ばす―。フィクションの無限の可能性を信じている。

 13年ぶり2度目の連ドラ主演。「気負いはない」と普段通りの様子だ。現場に心地よい雰囲気をもたらすことを心掛けている。

 「ずっとゲラゲラ笑っています。シリアスな現場は僕と小池栄子さんのシーンが多く、6話で炎の中で会話するシーンも、実は愉快に撮っています。スタッフもこいつら面白いと思って見ている。漂っている空気感の中に遊び心、物作りを楽しむスタッフ、キャストが多いので、すごく平和。ただ、推理する時の長セリフを覚える時に余裕がなくなります(笑い)」

 演じるのは、超美食家で変人の私立探偵・明智五郎。類いまれなる味覚と推理力で事件を解決する異色の探偵だ。

 「明智は変人で、感覚が見えづらい。ドラマ的な緊張感、盛り上がりをどの程度出していいのか、手探りでやっています。2話からいろんな展開が起こり、どんどんグルーヴ感が生まれ、明智という存在が僕になじんできた」

 原作のイメージにより近づけるために、ワイン色のスーツ、ループタイなど明智の衣装はオーダーメイドで制作した。役に合わせて、オーダーメイドをするのは初体験だったという。

 「生地から選ばせてもらった。気を付けたのは、色味と映像になった時の艶感。明智という人がこだわって何着も仕立てて、毎日着ているのを見えるようにした。あと、ベストの背中の生地に、切り返しでかわいい柄を入れています。今思えば、衣装合わせの時から遊び心があり、そこから愉快な空気ができていましたね」

 美食家役ということもあって、撮影を通しておいしいご飯に舌鼓を打った。

 「2話に出てきたフレンチトーストがおいしかった。作り方まで聞いたけど、まだやっていない(笑い)1、3話で肉、2話で海鮮丼などいろんなものを食べさせてもらっています。食べ過ぎないように気を付けないと」

 自身は「グルメではない」というが、元気の源はしょうが汁。自らキッチンに立って作る。

 「にんにくとしょうがとネギの青いところをみじん切りにして鍋で香りが立つまで炒める。水を入れて、中華スープのもとを入れて鶏肉と大根いちょう切りにして、ひたすら煮て、ちょっと風邪引いた始めに飲むと、風邪をぶっ壊せる。20分くらいで作れますよ。辛い物もすきなのでスンドゥブチゲ作ったりする。手軽に作れるものが多いです」

 謎多き役柄同様、インタビューではひょうひょうとした言葉が印象的だ。2005年に俳優デビューし、今年で15年。振り返るのは好きではない。

 「不思議な15年。運良く、そして努力もちょっとだけ加味し、今仕事をさせてもらって、こうやって取材も受けて、中村倫也という名前が浸透してきた状況。でも、過去に興味がない。今後、明日、何ができるかを考えてしまう脳みそ。これからの15年でどうやって驚かせようかなと、考えられるようにしたい。15年後は48歳。生きているのかな? 釣りをしていたいなあ」

 それでも、積み重ねた演技力は本物だ。これまで演じてきたのは束縛夫、モテ男、冷静な刑事…。5月15日に公開を控える主演映画「水曜日が消えた」では1人7役に挑戦。“カメレオン俳優”として心掛けていることもある。

 「作品をちゃんと読み取ること。初めて台本を読んだ時、自分の役が一番最初ではない。作品性、行程、それぞれの役割や自分の役の言動で、別の役に何をパスするのかというのを念頭に置いて、物作りのスタートにいる」

 ドラマは現在、撮影がストップ。中村の出演パートは7話、全体では5話まで撮っている。先行きが見えない状況だが、確固たる俳優像があるため、不安はない。

 「役者は現場があって、本があって、仲間があって初めて成立する仕事。いろんなことに左右されずに、行ったその場で芝居をして、自分ができることをする。どんな時もベストを尽くせるコンディションを整えることがプロだと思う。今は撮影が止まっていますが、気持ちは切れない。うまいこと気を休ませながら、撮影が再開できる時に何ができるかをずっと考えている」

中村といえば、2018年に放送された「ホリデイラブ」(テレビ朝日系)でモラハラ夫を演じ、その狂気的演技で注目を集め、さらに同年放送のNHK連続テレビ小説「半分、青い。」で癒やし系ゆるふわイケメンを好演。一気に知名度がアップした。幅の広い演技をする役者として知られ、昨年はドラマ「初めて恋をした日に読む話」「凪のお暇」(ともにTBS系)にメインキャストで出演し、着実にファン層を広げている。一方、俳優デビューは18歳で、ブレイクするまで15年近くかかった遅咲きだ。

「デビュー半年後に朝ドラに出演するも、すぐに華々しく活躍したというわけではありません。以前トークバラエティ番組で下積み時代を振り返っていましたが、当時は仕事がなくて腐っていたとか。21、22歳の頃も仕事がなく、引越しのバイトなどをやっていたそうです。そんな中、『俺役者だよな?』と思いバイトを辞めることを決意したそうですが、それでも役者で食べられず、先輩におごってもらうこともあったとか。また、『ごくせん』や『花ざかりの君たちへ』など、当時の若手の登竜門的な作品にかすりもしなかったとも明かしていました。そのとき自分には需要がなく、しっかり下積みをやらなきゃいけないタイプだと気付いたそうです」(テレビ情報誌の編集者)

 色々と葛藤はあったかもしれないが、10年以上も諦めず挫折しなかった中村。柔らかな外見とは裏腹に根性がすわっているのだろう。一方、「ウチのガヤがすみません!」(2019年12月17日放送)では、デビュー当時の生意気でトガっていた頃のエピソードを披露。オーディションで身長や芸歴、特技などの自己紹介を「いらない」と感じていたそうで、「仕事がなかった理由はオーディションなのに何もやらない」と明かしていた。当時は「早く芝居を見てほしい」と思っていた。
「若い頃は人見知りで、人から言われることを気にするタイプだったとインタビューで明かしてましたね。現場でもあまり人と喋らなかったそうですが、20代前半の頃に『人見知りはやめよう』と決意。それから現場が楽しくなったとか。そんな、自分の性格まで変えようとしていたところを見ると、色々と試行錯誤していたのでしょう」(同)


8月1日に中村さんの最初の本『童詩(わらべうた)』が発売されますが、この本をつくったきっかけは? 
もともとは26歳の時から5年間、雑誌『プラスアクト』に掲載してもらっていた記事をまとめたものです。企画がスタートした時は書籍化なんて想像してもいなかったので、自分としては感慨深かったですね。新しく撮り下ろしたポートレイトやインタビューもあるので、盛りだくさんの内容になっていると思います。

――『童詩』というタイトルは、中村さんが自ら考えたそうですが、どのような意味が込められているのですか? 
僕にとって、役者という仕事が“大人のままごと遊び”のように感じる瞬間というか、ふと不思議な感覚に陥る時があるんですよね。実は今でも、演じることを7割くらいは恥ずかしいと思っているんです。でも同時に、それを職業にして生活ができるなんて贅沢だなと思うし、作品を見て、感動したり笑ったりできるのもまた贅沢なことのような気がする。だからこの本のタイトルを考える時、どこかに“ままごと遊び”というニュアンスの言葉を入れたいと思って、『童詩』と名付けました。

――本の中では、さまざまな設定のもと、変幻自在に変化する中村さんの姿が印象的でした。 
実は、演じる役柄については事前に知らされないのがルール。僕は当日、現場へ行ってはじめてテーマを知り、衣装を見て、その場でどうしようかと考えながら撮影に挑むだけ。だから、まさに“ままごと遊び”なんです。

――特に印象的だった撮影のシチュエーションは? 
2016年に撮影した、“夜の梅”のシーンは好きですね。「生きているのか、死んでいるのか」というテーマで、自分でも梅の木の下に埋まっている幽霊のようになれたらいいなと思って挑みました。こういう撮影は、映像と違って“風情勝負”。セリフがないので、佇まいや居様で物語や人物像をにおわせることが必要になってくると思います。

――5年間の自分を振り返って、改めて何を感じましたか? 
5年間を1冊の本にまとめてもらったこの本は “ベストアルバム”。見た目や考え方の変化も含めて、いろいろなものが年輪として残ったな、と思っています。自分にとって、26歳から31歳までの間は決して短くはありませんでした。“中村倫也”という一人の人間が男として成長していく姿を、この本を手に取った読者の方にも感じていただけたらうれしいです。