運転中、前方にカメがいた。
25㎝ぐらいの、おそらくミドリガメ。
道路を横断しかけている。
なんとかカメをよけて通過できそうだった。
前輪の間を通せば無事だろう。
次第に近づいてきた。
通過した後の光景が頭をよぎった。
カメを踏まずにすんだとして、カメはその後反対車線も通らなくてはならない。
反対車線も踏まれない保証があるのだろうか。
運がよければ通れるだろう。
でも、既に今運転席から見えるだけでも5台以上、前方の反対車線に車がいる。
田舎の道で車道も狭い。よける余地は一般的な道よりもない。
気が付いたら車を止めてしまっていた。
自分でも驚いていた。後ろの車も驚いていたと思う。
もっと驚いたことに、ハザードをたいて、車から降りてカメを安全なやぶの中へ運び逃がしていた。後ろの運転手は優しく笑ってくれていた。
今までは道路に動物がいても、よけて通ることしか選択肢として頭に浮かばなかった。
車から降りて、ひかれないように何かするというのは欠片も浮かんでこなかった。
どうにかやり過ごしてしまうことだけだった。
自分で新しい選択肢を出しておきながら、そういうのもあるのか、と自分で自分に驚いた。
その新しい選択肢を気が付いたら選び実行していた自分にも驚いた。
気が付いたらカメを逃がして車に戻っていた感じだった。勝手に動くとはこういう感覚なのだろうか。
不思議だった。
でも、自分がしたかったことができたような気がして、晴れ晴れとした。
理論とか自分の常識とかでない、自分の中から湧いてくる考えを尊重できた気がして、自分で自分に感謝した。
ふっと湧いてくるものを大切にしたいなと思った。
帰りも同じ道を通った。
その道にカメの姿はなかった。
そのままやぶ伝いにどこかへ行ったかもしれないし、もう一度横断をチャレンジし無事渡り切ったのかもしれない。
僕が持ち上げた時のカメの気持ちは分からなかったけれど、とりあえず無事であることがわかってよかった。