信州読書会さんに参加させていただいて、毎週金曜日に
課題図書の感想文を提出させていただいています![]()
今回は、カズオ・イシグロ氏の『 わたしを放さないで 』 の
感想です![]()
カズオ・イシグロ氏は日系イギリス人で、2017年に
ノーベル文学賞を受賞しました![]()
この小説も、ノーベル文学賞受賞以前に、綾瀬はるかさん主演で
ドラマ化されていました。私は、イシグロ氏のことを知らずに
たまたまドラマを観ていました。ドラマ自体は、あまり注目されずに
終わったのが残念でした
テーマが気軽に観られるものでは
なく、非常に重かったからかもしれません。
小説の舞台をすべて、日本に変えていましたが、テーマの
「現実にある恐ろしさ」に打ちのめされてしまいました。
信州読書会さんの読書会で、原作を読む機会をいただいて、
また「人間の欲」について、深く考えることとなりました。
あらすじは、臓器の「提供者」と呼ばれる人々を世話している
優秀な介護人キャシー。キャシーが生まれ育った施設の
ヘールシャムの仲間も提供者であり、キャシー自身もそうでした。
ヘールシャムの施設の残酷な真実が明らかになっていくうえで、
「命」と「人間の欲」に「医療の発達」が絡み合い、皮肉な運命を
辿っていく・・・。
ざっくりとはこうですが、この小説の「真実」は、是非実際に
読んでいただきたいのです。
これは、いずれ自らが向き合わねばならない「現実」です![]()
決して、小説の絵空事ではない未来がそこまできているのです。
『 人は何に跪くのか 』
以前、白血病で夫を亡くした知人の縁で、骨髄バンク登録を考えたことがあった。ところが、登録には身内の承諾が必要だった。「ドナーリスクがあるなら、承諾はできない。身勝手かもしれないけど。」との身内の意志を無下にできずに、登録できないままになっている。骨髄だけではなく、すべての臓器提供が善意によって成り立っている。
善意だけでは「安定提供」はできない。でも、技術的に治せるなら治したいとの欲求が首をもたげるのは自明の理だ。その為には「安定」が欲しいのだ。人間の果てしない欲望の闇が、この小説に横たわる。
世界初の試験管ベイビーが誕生して、40年が経つ。当時は宗教指導者、政治家、医師、科学者らが誕生の是非を論じたらしい。しかし、今では体外受精は当たり前の治療だ。この治療が誰かの光である限り、否めないことだろう。
この小説の臓器提供のためのクローン人間の世界も、現在は宗教的・倫理的見地のハードルがまだ高い。しかし、人間の欲望の前には、そんなハードルは心許ないということを歴史は証明している。だから、エミリ先生とマダムの思惑は頓挫したのだ。犠牲になる人間の一方で、救われる人間がいるという事実がどうしようもなく…切ない。
この小説のクローンの子供たちは、何ひとつ私たちと変わらない。友情や恋愛、いじめや嫉妬など、私たちと同じ思春期や人生を送っている。ルースのように、他人の欲を欲するというところまで同じだ。どうしても、この子供たちをマダムのいう「かわいそうな子供たち」という視線で見つめてしまうが、自らが提供を受け入れる側になっても同じ気持ちを持ち続けられるのだろうか。感謝こそすれ、人間はその先を考えないように、あるいは論点をすり替えるようにして、欲を満たしていくのだろう。人間は、これからも神ではなく「欲」に跪きながら生きていくのだろう。
古代の人間は、槍で狩りをしていた。その方法は、不安定で死活問題だ。そこで、家畜というシステムができた。なるほど…供給は安定するし、計画的に「生産」できる。現在の私たちにとって、何の疑問も罪悪感も持たない。当たり前だからだ。だが、家畜は自由に草原を走れないし、人間の食の為だけの人生だ。養豚場の豚とペットのミニブタは何が違うのだろう。生きている豚とスーパーの切り身の豚は認識しているが、その間の「屠殺」という事実は忘れたふりをする…私を含めて。
「提供」のために亡くなる人間のことも、この小説のように見ないふりする時代も近いのかもしれない。やり切れないけれど。
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