信州読書会さんに参加させていただいて、毎週金曜日に
課題図書の感想文を提出させていただいています![]()
今回は、カフカの『 断食芸人 』の感想です![]()
作品中に描かれている断食芸は、ヨーロッパで19世紀後半から
20世紀前半にかけて、実際に興行が行われていたらしいです。
この小説の主人公の断食芸人は、檻の中に入り、敷き詰めた
藁の上に座ってじっとしています。見張りが入る中、断食芸は
続けれますが、断食芸に自信があるので、見張りが厳しければ
厳しいほど喜びます。
ただ、興行は決められた40日間で断食も終わりを告げます。
断食芸人は、40日以上続けられないのが、とても不満でした![]()
次第に断食芸の人気がなくなり、断食芸人はサーカスに移りま
す。そこで、断食を続ける断食芸人でしたが、人々は興味を
示さず、忘れ去られてしまいます。発見されるまで断食を
続けていましたが、「自分に合った食べ物を見つけることが
できなかった」と言い、息絶えてしまいます。
その後、その檻には生命力あふれる豹が入れられたのでした![]()
断食は、ゆるやかな「死」です。
そんな「死」に近づく芸人を見に、人々は集まりました。
しかし、人間はやはり「生」きたいのでしょう![]()
生命力溢れる豹に今度は釘付けになる、人間心理の不条理さを
味わってみませんか?
『 美味い食べ物 』
( 引用始め )
「美味いと思う食べ物が見つからなかったからなんだ。見つかってさえいればな、世間の注目なんぞ浴びることなく、あんたやみんなみたいに、腹いっぱい食べて暮らしていただろうと思うけどね」それが最後の言葉だったが、その光を失っていく瞳に浮かんでいたのは、もはや誇らしげでこそなけれ、まだ断食を続けられるぞ、という強固な確信であった。
( 岩波文庫 P.128)
( 引用終わり )
この断食芸人最後の言葉で、彼の命をうばったのは断食ではなく、自身の膨れ上がった矜持に飲み込まれたせいではないかと感じた。
断食芸人は、40日間の興行では飽き足らず、「このまま断食を続けて、古今東西もっとも偉大な断食芸人になるという栄誉」を信じ、さらなる高みに登りつめようと考える。そして、それを観衆の方が、なぜ40日間以上我慢できないのかと腹立たしく思う。
だが、彼は「芸人」なのだ。断食を見世物にして、生活の糧とするプロのはずだった。観衆の前に断食を披露したいのなら、観客が飽きる40日間で断食を打ち切り、次の断食までに体調を整えるのが「芸人」としての正しい姿のように思う。世間に認められたい承認欲求と自らの自己研鑽の区別がつかなくなったように思えた。
承認欲求を満たすには、他人の欲求も鑑みなくていけない。流行りのYouTuberも自らの欲求だけではなく、他人の欲求を体現して人気を集めている。ただの自己満足に観衆は興味を惹かれない。
断食芸人は、自らの「断食」の才能にのめり込み、もっと先へ行きたくなる。それは、自らの欲であって、もはや「芸人」ではなくなっていた。
藁の中に沈む死にかけの人間を観衆は観たいと思っていなかった。「まだ断食を続けられるぞ」という強固な確信は、芸人としてもサーカスとしても何の役にも立たない。その証拠に、芸人亡き後の檻に入れられた若い豹に観衆は群がり、豹から漏れる「生きる悦び」にうっとりするのだ。
「美味い食べ物」は、断食芸人にとっては何であったのだろうか。彼の自己表現の手段は間違いなく「断食」だった。だが、親方のように腹いっぱい食べて暮らしている人間に対する皮肉を投げたつもりが、彼にとっての「美味い食べ物」が「断食」であったとする断食芸人自身に対する強烈なブーメランとして返ってきたために、彼は命を落としたように思うのだ。
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