転載です。かなり読み応えのある記事なので紹介します。
萩原家に猫がやって来たのは16年前。
奥さんがペットショップの前を通りかかると、子猫たちが3000円の値札をつけられていました。
そこで目が合ったのが、当時生後2か月の小鉄くん。
萩原家の長男・小鉄くん
彼は鳴きもせずじっと奥さんを見つめ、目を離さなかったそうです。
奥さんはそのまま通り過ぎることができず、家に連れて帰ることにしました。
新しい家族ができた頃、萩原さんは多忙を極めていて、夜中に疲れ切って帰宅する毎日が続いたといいます。「帰ってイスに座っていると、当時まだ小さかった小鉄が、僕の膝に乗ろうとして一生懸命なんです。いじらしくてその姿を見るだけで、疲れを忘れたものです」
「小鉄くんは老齢になった今も、萩原さんがイスに座るとすぐ膝に乗ってきます。萩原さんが晩酌をするときは、この特等席に座って肴を少し分けてもらうのが、恒例になっているのです。
また猫との生活の中で、生き物の愛おしさや命の大切さ、そして動物だけでなく草や花の命も大切にしたいといった、意識も強くなったと語る萩原さん。「うちの奥さんなんて、雑草を抜くのもためらうようになりましたよ」 人と猫がお互いを尊重し、信頼と愛情を与え合っている、そんな温かさと強い絆が伝わってきます。
(「日刊サイゾー」のHPより転載)
──2002年に浜崎あゆみが火付け役となってチワワブームが起こったように、
芸能人をきっかけにして、ペットに流行が生まれるケースもあります。
また、最近では“ペット好き”が高じて(という建前で)、ペット服のブランドや愛犬の写真集をつくったり、有料でペットの名付け親になったり、自身のビジネスに生かす芸能人も少なくありません。
大の猫好きとして知られ、現在も2匹の猫と暮らす俳優の萩原流行さんですが、まず、どうして芸能人にペット好きが多いのか、お尋ねしたいのですが。
萩原 ん~、単純に友達がいないからじゃないの?
少なくとも僕はそう。僕は、動物ならなんでも好きだよ、人間以外は(笑)。
犬でも猫でも馬でもなんでもそうなんだけど、彼らの要求するものはただひとつ、「愛情」なんだよね。
確かにご飯は欲しがるけど、ご飯をあげる人間の愛情によって彼らは生きてる。肉欲とか金銭欲とか、どうして神様は人間に不必要なオプションを付けたんだろうって、
不思議に思うね。
──流行さんは、自身のホームページ内にある「小鉄日記」で、一番最初の愛猫・小鉄くん(オス/01年に他界)の気持ちになって日記を書かれていますね。それほどまでに小鉄くんの心を理解し、深い絆で結ばれていた“2人”ですが、最初から猫はお好きだったんですか?
萩原 いや、小鉄と会うまでは犬派だったんだよ。
実際、小学5~6年生の頃まで犬も飼ってたし。
その犬はトミーという名前で、毎晩一緒に寝るほど可愛がっていたから、亡くしたときは本当につらくて……「もうこんな経験は二度としたくない!」って思った。
それで、小鉄と出会う31歳のときまで動物とは暮らしていなかったんだけど、ある日仕事から自宅のマンションに帰ったら、カミさんが片手に載るくらいの大きさの子猫を抱いていたんだ。
あの頃、西荻窪(東京)にいかがわしいペットショップがあって、
彼女はそこが嫌いだからいつも避けて通っていたのに、たまたまその日は通っちゃったらしいのよ。
そしたら、店先で「1匹3000円」って書かれたケージに、生後2カ月の子猫たちがギュウギュウに詰められていて、その中の1匹がすごい眼力で彼女を見て離さなかったらしい。それが、小鉄との出会い。
──小鉄くんと暮らすようになってから、一番実感したことはなんですか?
萩原 それまで猫に対して「目が怖い」ってイメージがあったんだけど、
小鉄によって初めてその理由がわかった。
猫って、目が合った人間が腹の中で何を考えているかがわかるんだよ。
僕が映画の撮影で1カ月間家を空けることになったときも、出発の前夜に
「しばらくお別れだから寝かしつけてやるか」と思って小鉄を撫でていたら、
僕の目をジーッと見て、なかなか眠らないの。結局、あのときは2人で見つめ合ったまま朝を迎えちゃった(笑)。
きっと僕が遠くに行くのがわかっていて、心配だったんだろうね。
ホント、猫ってすごい。犬も同じ能力を持っているけれど、彼らは表面に出さないんだ。
犬にとって僕らは「ご主人様」だけど、猫にとってはただの「共同生活者」、
もしくは「召し使い」だから。
いろいろな本で猫の歴史をひもといてみたんだけど、世界中で猫は“特殊な能力を持った存在”として扱われてきているんだよ。日本では猫の妖怪“化け猫”が出てくる伝説や怪談があるし、西洋では黒猫が魔女の化身として魔女狩りの対象にされていたでしょ?
エジプトなんか、バステトという猫の神様を奉っているくらいだし。現代で猫はペットとしてすっかり定着しているけど、今もそういった不思議なパワーを宿しているはず。
──どうして、そう思われるのでしょうか?
萩原 だって、どんなにクタクタになって帰ってきても、小鉄がひざの上に載るとスーッと疲れが取れていったんだもの。あれは僕が背負ってきたイヤなものを、小鉄が吸い取ってくれていたんだよ。それでいて、僕が考えごとに集中しているときなんかは、決して近寄ってこなかったしね。よくワガママ女のことを「猫のようだ」なんて比喩したりするけど、とんでもない! もし本当に“猫のような女”がいるなら、僕は結婚したいくらいだよ。ワガママ女となんか一緒にしたりするのは、猫に失礼!(笑)
愛猫・小鉄と出会ってから虫も殺せなくなった
──「小鉄日記」には、小鉄くんが亡くなる過程も書かれ、「彼はまた生まれてきて、僕の前に現れてくれるだろうか」という萩原さんの言葉に、読んでいて胸が詰まります。「このような内容のものを不特定多数の方に発表すべきではないと思いましたが、あえて、批判を覚悟の上で書きました」という断り書きもありますが、それでも書かれたというのは、萩原さん自身、このときはいわゆるペットロスだったのでしょうか?
萩原 ペットロスといえばそうだったのかもしれないけど、僕と小鉄は単なる“飼い主とペット”ではなく、もっと対等な関係だったと思っている。
今も小鉄は僕の中でずっと生き続けていて、何かある度に励ましてくれたり、アドバイスしてくれているような気がするんだよ。断り書きを入れたのは、読んだ人から「いつまでも小鉄が死んだことを引きずっていないで、前に進めよ!」って批判があるかと思ったからなんだけど、実際はなかった。でも、きっと小鉄はそう思っているだろうし、一緒に暮らしている猫はほかにもいたからね。
僕はね、小鉄から本当に多くのことを学ばせてもらったんだよ。
僕は、ひどい人間だったんです。
──どういう意味ですか?
萩原 自分さえ良ければいい、他人のことなんて関係ねぇ、正直言って女房のことすらどうでもいい……そんなふうに生きていた僕に、小鉄はたくさんのことを教えてくれた。「ああ、人には優しくしなきゃいけないんだな」「ああ、女房って人間だったんだな」「ああ、生き物は殺しちゃいけないんだな」って。だから、今の僕は蟻んこも潰さない。庭の雑草も、秋になってしおれてくるまで抜かない。
だって、みんな生きているんだから。
──流行さんは今年4月に、17年前からうつ病を患っていることを発表されましたが、そうした日々の中でも小鉄くんの存在は支えになりましたか?
萩原 ウチはカミさんもうつ病なんだけど、2人ともずいぶん小鉄には助けられたね。
それに、小鉄は僕の人格形成にも多大な影響を与えているんだけど、もう少し早く彼と出会えていたら、僕は今より嫌われ者になっていなかったかもしれない(笑)。
昔は、現場で監督やスタッフと衝突することも多かったからさ。
僕は、嘘がつけないんです。その代わり、動物には好かれるんだけどね。たぶん、ホモサピエンスより獣としての血が濃いんじゃないかなぁ。頭じゃなくて、感情で動いてるから。
ペットを捨てるのは日本人の国民性
──テレビで取り上げられる“ペット好きな芸能人”は、
いずれも血統や品種にこだわっていて、中にはアクセサリー感覚で飼っていると思われても仕方がないような芸能人も少なくありません。でも流行さんは、そうした芸能人たちとはちょっと違いますね。
萩原 他人の飼い方にとやかく言うつもりはないけど、今までウチで飼った猫たちは5匹。小鉄、チエちゃん、ムーくんの3匹は亡くなり、現在はツルちゃんとター坊の2匹が暮らしているけど、小鉄以外は拾ったり、いつの間にか住み着いたり……
縁があってやって来た子ばかりだからね。
「この品種が欲しいから、ペットショップでウン十万円出す!」みたいな経験は、今まで一度もない。
そうした芸能人ばかりが取り上げられるのは、テレビは見せる要素がないと成立しないからじゃないかな。いまやテレビは、バカが活躍する場になってしまった。
──そういうテレビを支持する視聴者が、テレビで見た芸能人のペットや、CMで話題になったアイドルペットにすぐ飛びついてしまうんでしょうか?
萩原 日本人が流行に左右されやすいのは、昔からのこと。
スピッツがはやったらスピッツ、コリーがはやればコリー、シェパードがはやればシェパードといったように、心移りが激しいのは国民性だね。
日本は戦時中、「天皇は神! 天皇万歳!」とやっていた人たちが、敗戦してマッカーサーに「これからは民主主義だ」と言われたら、それにあっさり従ったじゃない(笑)。
そう考えると、年間約34万頭の犬猫が自治体に持ち込まれている背景にも、
「いらなくなったペットは捨てる」という日本人の国民性があると思う。
個人的に、ファッション感覚でペットを飼う人には不快感を覚えるけど、どう飼うかは個人の自由。
変な飼い主に当たっちゃったワンちゃんや猫ちゃんは……まぁ、諦めるしかないよな。
人間だって自分の親は選べないんだから。僕だって、親が選べるものならもっといい家に生まれて、役者なんて茨の道を歩むような人生は選んでいないかもね(苦笑)。
(構成・アボンヌ安田/「サイゾー」
9月号より)
◆「猫の世話があるから」って大作映画の仕事を断っちゃった
キャットフードがダメなコばかりだったから、ごはんはマグロやタイのお刺身。アジの干物は彼らのために身をほぐしてあげて、僕が余った皮と骨を食べる(笑)。当時のマンションがペット禁止だったんで、猫のためって理由で庭に木のある一軒家を買ったしね。
それに、彼らと暮らし始めてから、僕と奥さんは一度も一緒に旅行に行ったことないんだよ。それどころか、30代の頃に大作映画の仕事の依頼が来たんだけど、1か月は海外ロケだっていうんで、「猫の世話があるから」って断っちゃった(笑)。同じ時期に奥さんもどうしても家を空けなくちゃいけない用事があったし、ペットホテルに預ける気は毛頭なかったから。
でもいいんだよ。僕ね、20代の頃はすごく人付き合いがヘタで、仕事でも相当自分勝手だったと思うんだ。人の気持ちなんてほとんど気にしない人間だった。だけど小鉄と一緒に暮らして、「あ、そうか、こういうことすると相手は嫌がるんだ……それは人間も同じだな」ってわかるようになって。猫から人付き合いの何たるかを教わったんだよね(笑)。だから僕は小鉄がいなければ役者としてとっくにつぶれてたかもしれないな。