■■膵疾患・糖代謝疾患

◎膵臓におこる炎症
膵臓内では活性の抑えられている消化酵素が十二指腸で活性化したのち、再び膵管内に逆流すれば、膵臓は自己消化という事態に見舞われるでしょう。

膵臓に急性の炎症をひきおこす原因は、アルコールの大量摂取や胆道疾患(胆石、胆のう炎)、ウイルス感染や寄生虫のほか、動脈硬化や薬剤(ステロイド、抗ガン剤)性もあるなど多様です。

はげしい腹痛や腹部の膨満感などが症状ですが、やがて軽快するのがふつうです。

なかには重症化するケースがありますが、それには免疫にからんだ炎症性サイトカインや、NO(一酸化窒素)などのメデイエーターのかかわりがあると考えられています。

急性の病態(腹痛など)が消失しても、脂肪の多い食事をしたあとにぶり返したり、消化不良や下痢などを繰り返すケースがあります。

ときには膵臓に無数の石灰化が生じている場合(膵石症)もあります。

低カロリー・低タンパクの食事(栄養障害)も、膵石症や慢性膵炎の原因のひとつとして挙げられています。

また脂溶性ビタミン(A、E、K)の補給が必要とされています。

◎膵ガン
膵臓に発生するガンは、通常“浸潤性膵管ガン”をいい、腺房細胞や内分泌腺などに生じる腫瘍にくらべてもっとも発生頻度が高く、余後が悪いとされています。

膵ガンは、胃ガンなどの消化器ガンのなかで早期発見が容易ではなく、治療も困難とされています。

膵臓は胃の後ろにあるため、肝ガンのように超音波(腹部エコー検査)による発見率が高くありません。

黄疸が生じたり、腹痛や背部痛がつづいたり、体重減少が目立ってきたりなどの、特徴的な症状があります。

◎膵内分泌腫瘍
インシュリンなどの膵ホルモンをつくり分泌する内分泌細胞から発生する腫瘍が“膵内分泌腫瘍”です。

腫瘍化するとホルモンを持続的に分泌するので、血中ホルモン濃度が上昇して、低血糖や糖尻病や、はげしい下痢、消化性潰瘍などが出現してきます。

正常では、ホルモン分泌は調整されているので過剰の状態にはなりません。

インシュリンは血糖値の上昇により分泌され、血糖値が低下すれば分泌が抑えられるというフィードバック制御を受けているのです。

◎糖代謝疾患
代謝疾患とは、生体を構成する物質の同化や異化のプロセスに異常を生じる疾患をいいます。

代謝疾患には、代謝に不可欠の酵素の機能に遺伝子レベルの異常が生じるなどの先天性疾患(フェニールケトン尿症など)と、糖尿病や痛風などの後天性疾患とがあり、後者では遺伝的要因と環境要因とがかかわって発症します。

遺伝要因は多因子とされ、環境因子として食行動や運動などの生活習慣が指摘されています。

糖代謝は、生体のブドウ糖利用を中心にした代謝プロセスであり、生命推持に不可欠のエネルギー獲得にかかわっています。

糖代謝のキーファクターである膵ホルモンが不足したり、本来の機能を果せない状態にあるとき、高血糖や糖尿病という病態を招くことになります。

◎糖尿病
“持続的に血糖値の高い状態がつづく疾患”と定義される糖尿病は、1型(若年型)と、2型(成人型)に分類されています。

若年型は、リンパ球が膵島B細胞に対して抗体をつくり破壊してしまう(自己免疫)ためにインシュリン補給をしなければなりません。

1型は糖尿病全体の5%以下と少なく、大部分が2型ですが、その発症のメカニズムは一般的には下図のように考えられています。

まず肥満にもとづくインシュリン抵抗性が生じ、代償的にインシュリンが過剰分泌される期間があるが、やがて酸化ストレスや小胞体ストレスなどによるB細胞の機能低下がおこってくる、というのです。

インシュリン抵抗性とは、血中にインシュリンがあっても、各臓器でその作用が正常に機能しない状態であり、糖尿病だけでなく動脈硬化をすすめ、いわゆる「メタボリックシンドローム」の基盤になります。
4糖尿病とインスリン

骨格筋や肝臓や脂肪組織などのいろいろの臓器でのインシュリン作用の変化が、混在して生じて全身性の病態をつくるわけです。

B細胞の機能が維持されていれば、インシュリン抵抗性は高インシュリン血症を誘導する原因になり、それがメタボリックシンドロームの病態と複雑にかかわってきます。

たとえば高インシュリン血症では、尿細管でのNa再吸収を増加させて高血圧を進展させたり、肝臓の脂肪酸合成を促進して、脂肪肝のリスクになったりします。
高血糖状態がつづくと、やがてアポトーシスに追いこまれてB細胞の数が減少し、そのため低インシュリン血症へと転じます。

その結果インシュリンの抗アポトーシス作用が失われて、さらにB細胞数を減らすという悪循環におちいり、糖尿病を進行させることになります。

◎日本人の糖尿病
糖尿病の関連遺伝子(インシュリン受容体やアドレナリン受容体など)には民族差のあることが知られており、病態のあらわれ方にもちがいを生じています。

日本人の場合、食後すぐの初期分泌が少なく、おくれてインシュリン分泌がみられます。

またBMIが24前後で、とくに肥満というほどでないのに、軽度の内臓脂肪蓄積や運動不足が後押しして耐糖能(ブドウ糖の利用)異常を生じます。

2型糖尿病の検査で、グルコース経口摂取が行われますが、インシュリン分泌反応は、日本人は欧米人に比較して著しく低下していることが知られています。

進化のプロセスで獲得してきた遺伝子が、状況によって代謝異常の原因にもなるのです。

2010.12.1
メグビーインフォメーションVol.336より

■■人体の構造と機能
膵臓のつくりと腺機能

◎腺上皮(分泌上皮)
生体を構成する組織には、上皮組織や結合組織などがあります。

上皮組織は、消化管や気管などの粘膜や尿路や皮膚などをつくり、それぞれの器官の機能に適合する形態をもっています。

たとえば腸管では“吸収上皮”であり、気道では異物を排除するための“輸送上皮”というように、そのはたらきによって分類されています。そして皮膚や腸粘膜などには“腺上皮’’があります。

腺上皮は、液状の物質をつくって分泌する上皮細胞の集まりで、汗腺や唾液腺、涙腺などがその例です。

腺上皮は、その分泌のしかたによって、外分泌腺と内分泌腺とに区別されており、膵臓は両方のタイプの腺を備えている分泌器官なのです。

外分泌腺は、同じく上皮でできた導管を介して分泌物を皮膚や粘膜の表面へ出します。

内分泌腺では導管はなく、分泌物であるホルモンは毛細血管中へ出されて、標的細胞へ送られることになります。
1上皮細胞の導管

◎膵臓のなりたち
膵臓は、長さが12~15cm、重さは60gほどの臓器で、ホメオスタシス(生体の恒常性)にとって重要な腺のひとつです。

膵臓は、下図のように頭の部分(膵頭という)を凹の字型の十二指腸に囲まれており、そこから左に体部と尾部が伸びています。
2膵臓

膵臓の内部は、多数の腺小葉の集まりで、それぞれの小葉には細い導管が通っています。

腺の導管は次第に合流して膵管をつくっています。

膵管は、膵頭にむかって走り、十二指腸のほぼ中央のあたり(大十二指腸乳頭)で開口しますが、その直前に総胆管と合流しています。

腺小葉は、分泌細胞がとり囲んだ小さな腺房の集合体です(図参照)。

腺房でつくられた膵液が導管によって十二指腸へ分泌されるのが膵臓の外分泌作用であり、腺房と導管が外分泌腺を構成していることになります。

膵臓の内分泌作用を担う内分泌腺は、ランゲルハンス島(膵島)とよばれる特殊な細胞による集団で、膵臓の全体にひろく散らばって存在しています。

膵島は、インシュリンなどのホルモンを分泌します(後述)。

膵外分泌と膵内分泌とは、構造的にも機能的にも密接な関係をもっています。

膵臓内の血液の流れをみると、血流量の11~23%ほどが、まず膵島にゆき、そのあとに膵島腺房門脈とよばれる小血管によって外分泌線へと流れます。

これによって外分泌腺の活性は、内分泌腺が分泌するホルモンの作用により影響を受けており、両方のはたらきが協調して食物の摂取による栄養素利用のメカニズム(消化・吸収、代謝、蓄積など)を支えていることになるでしょう。

◎膵液と消化
膵液の分泌は、自律神経系と腸管ホルモンによって調節されています。

胃からくる内容物は強酸性なので、それを中和するアルカリ性の炭酸水素Na(重曹)を豊富にふくむ膵液の分泌を促すホルモン(セクレチン)が十二指腸から出されるのです。

セクレチンは、肝臓の胆汁づくりも促進します。

アルカリ性粘液は、膵外分泌システムの導管細胞がつくり、膵管へ出しています。

十二指腸粘膜からはコレシストキニンというホルモンも分泌されます。

コレシストキニンは、腺房細胞に作用して消化酵素の産生量を増加させます。

膵液にはいろいろの酵素がふくまれており、糖質、タンパク質、脂肪の分解に重要な役割をつとめます。

膵アミラーゼは、デンプンを二糖類の麦芽糖にまで分解し、リパーゼは中性脂肪(トリグリセリド)から脂肪酸を分離します。

タンパク分解酵素にはトリプシンやキモトリプシンがあり、ペプチドまで分解します。

ふつう1日あたり1.5Lの膵液が分泌されて小腸の内容物に混じります。

膵液は強力なタンパク分解能をもっているので、腸管内へ出される前は不活性化しておかなければ、自己の腺組織を消化することになりかねません。

そこでトリプシンやキモトリプシンは活性のない前駆体(トリプシノーゲン、キモトリプシノーゲン)として分泌され、小腸にはいってから、酵素エンテロキナーゼの作用によって活性型のトリプシン、キモトリプシンに変換されるしくみです。

◎膵島の細胞たち
膵臓の内分泌細胞の集団が膵島で、発見者の名(ドイツの病理学者ランゲルハンス)にちなんでランゲルハンス島あるいはラ氏島などともよばれています。

膵島は、成人で20万~180万個あるといわれ、ヒトではA(α)細胞、B(β)細胞、D(δ)細胞の3種が知られています。

膵島全体の約70%をB細胞が占めており、A細胞は25%ほど、D細胞は約5%ほどでしかありません。

3種類の膵島細胞のうち、数が多いだけでなく機能の点でも最重要なのがB細胞です。

D細胞が分泌するホルモンのソマトスタチンは、脳の視床下部や脊髄や消化管粘膜などにひろく見出されるホルモンで、A細胞が受けもつホルモンのグルカゴンや、同じくB細胞のインシュリンの分泌や、外分泌作用などに抑制性にはたらくとされているものの、腫瘍などで過剰になるような事態でなければ、その役割は特筆されていません。

A細胞とB細胞とは、前者が血糖値を上昇させる作用をもつホルモンのグルカゴンを、後者は血糖値を低下させるホルモンのインシュリンを分泌し、両者の協調によってホメオスタシスの重要な項目である“血糖値”の調節を担っています。

グルカゴンは、標的器官である肝細胞の受容体と結合し、肝グリコーゲン(ブドウ糖の貯蔵型)分解を促進し、肝臓からのブドウ糖の放出を増加させます。

ただし血糖値上昇作用はグルカゴンばかりでなく、副腎髄質の出すアドレナリン、副腎皮質からのコルチゾール、下垂体ホルモンの成長ホルモン、そして甲状腺ホルモンにもその作用があるのです。

それに対して、血糖値を下げるよう働くホルモンはインシュリンしかありません。

◎B細胞とインシュリン
B細胞はグルコース(ブドウ糖)に対して非常に敏感な特性をもっています。
3膵臓とホルモン

B細胞をとり出し、培養皿に入れてグルコースをふりかけると、たちまちのうちにインシュリンを放出します。

ふつう内分泌腺は下垂体ホルモンに支配されますが、膵島は例外で、血中のグルコース濃度を感じとって反応するのです。

食物が消化・吸収されてグルコースが血中にはいると、門脈内の血糖量は150mg/dl以上になります。

門脈から肝臓へゆくと、グルコースの大部分はグリコーゲンに変換されるのですが、血糖値が110以上になると、B細胞がそれを感じとってインシュリン分泌を開始します。

B細胞からのインシュリン分泌量は、血糖値300ぐらいのレベルまでは、血中のグルコース濃度に比例して増大します。

このようにグルコースは、もっとも強力なインシュリン分泌促進物質ですが、そのほかにも脂肪酸やアミノ酸にも反応します。

グルコースやアミノ酸ロイシンは、クエン酸回路(TCAサイクル)でのATPづくりをふやして、またアルギニンや脂肪酸は、細胞内のカルシウムイオンの上昇を介してインシュリン分泌をひきおこすなど、食品成分により影響されています。

水溶性のグルコースは、脂質が主体で構成されている細胞膜を通過できません。細胞膜上に存在するグルコース輸送体の助けが必要で、肝臓や脳や腎臓、小腸、筋肉などには数種類の輸送体が配置されています。

B細胞の表面にもグルコース輸送体があり、とりこんだグルコースを代謝してATPをつくり、Caチャネルを開きます。

Caイオンがインシュリン合成にかかわる酵素を活性化するしくみです。

2010.12.1
メグビーインフォメーションVol.336より

■■銅ホメオスタシス
微量金属研究の進歩

◎微量金属元素
人体内には、宇宙や地球に存在するほとんどの元素を見出すことができ、多量元素、少量元素、微量元素および起微量元素に分類されています。

多量元素はたった6種類(酸素、炭素、水素、窒素、カルシウム、リン)ですが、人体中の98.5%を占めています。

イオウ、カリウム、ナトリウム、塩素、マグネシウムの5種類が少量元素で、多量元素の6種とあわせた11元素を主要元素とよび、これが人体の99.3%を構成しています。

そして生命活動にはごくわずか存在するいろいろの元素が不可欠であることが知られており、これが微量元素になります。

そのなかでとくに晴乳動物に欠かせない必須微量元素として、鉄、亜鉛、フッ素、マンガン、鋼など、そして超微量元素のセレンやヨウ素、クロムなどがリストアップされています。

必須微量元素のうち、鉄、亜鉛、鋼などは金属であり、原始の地球上に誕生した基本物質を生理機能をもつ生命体へと進化させる役割をもちました。

金属イオンは酵素などのタンパク質と結びつき、その機能を高めることで、生体にさまざまな能力を与えたのです。

金属といえば、水銀やカドミウムなどの公害が連想され、健康へのかかわりは問題にされにくい時代が長くつづいていました。

ところが、近年、国際的に微量元素への関心が高まり、WHO(世界保健機関)やFAO(国連食糧農業機関)の微量元素摂取への勧告や、国際微量元素医学会議の開催などの変化がおこってきました。

その理由には、食生活の変化による欠乏症が指摘され食品の分析技術開発や高齢化社会での健康志向があるといわれています。

微量元素の必要量はきわめて少ないにもかかわらず、国民栄養調査(1999年)では、鉄、鋼、亜鉛の摂取不足があるという結果でした。

世界規模では10億人以上の人びとが微量元素欠乏状態であると指摘されているのです。

なかでも銅は、呼吸や神経伝達、鉄代謝など多くの生理機能を担う酸化酵素の協同因子であり、代謝に酵素を利用する生物にとって重要です。

銅は脳や肝臓や腎臓、赤血球に多いことが知られており、その不足がつづくと貧血や心筋機能の低下や大動脈破裂、メラニン合成低下など全身に悪影響が生じます。

一方で過剰の銅イオンは、過酸化水素に作用して強力な活性酸素ヒドロキシルラジカルを発生させる触媒になるという有害性をあわせもっています。

そこで体内の銅には恒常性を保つためのシステムがはたらいていることがわかってきました。

小腸細胞での吸収にかかわる運搬タンパクの銅シャペロンや、門脈を介して肝臓へ移送するトランスポーター(輸送体)や胆汁への分泌、新たな銅還元酵素の発見などが報告され、アルツハイマー病などの予防に役立てられる可能性が期待されています。

2010.12.1
メグビーインフォメーションVol.336より

■■胆のう・胆管の構造と機能
4胆のう・胆管

◎胆汁とコレステロール
肝臓は毎日600~800mlほどの胆汁をつくります。

この胆汁をいったん貯蔵して濃縮するのが胆のうで、胆汁は胆管のなかを流れてゆきます。

空腹時には、胆のう内に胆汁が充満しています。

食事をすると十二指腸から分泌されるコレシストキニンが作用して、胆のうの収縮と十二指腸乳頭の括約筋の弛緩をおこし、胆汁が分泌されます。

胆汁には、水分や胆汁色素、ナトリウムや塩素イオンやヒリルビン、そして胆汁酸、さらにレシチンとコレステロールがふくまれています。

コレステロールは細胞の構造成分であり、ステロイドの原料としても必須をので、全身の臓器が合成能をもっており、それに加えて食物からの摂取があります。

ところが体外へ排出するしくみは肝臓にしかありません。

過剰になったコレステロールは、胆汁へ出されます。

ヒトの胆汁には1日1gものコレステロールが排出されているのです。

◎胆汁酸と腸管循環
肝臓は、コレステロールを原料にして胆汁酸をつくります。

胆汁酸は界面活性作用をもっているので、水に溶けないコレステロールを胆汁に溶けこませるのに欠かせない成分です。

1日あたりの胆汁酸の合成量では、1gというコレステロール排出はできません。

からだは“腸肝循環”という胆汁酸を使いまわす方法でこの間題を解決しました。

十二指腸に分泌された胆汁酸は、回腸で吸収されて、門脈を介して肝臓へもどされるのです。

この腸と肝臓との間の循環は1日に6~9回ほどで、循環システム内には2~3gの胆汁酸がプールされています。

合計すると胆汁へ分泌される胆汁酸は、1日に12~20gほどにもなるわけです。

炎症や胆石、腫瘍などが原因で胆管が閉塞して胆汁成分が血液中に逆流すると、「黄疸」がおこります。

黄疸で皮膚などが黄色くなるのは、胆汁成分ビリルビンの色です。

胆汁酸の血中濃度が上昇すると“かゆみ”の原因になります。

胆のうや胆道への血液・リンパからの細菌や十二指腸から上行する腸内細菌の感染により、急性の炎症を発症することがあります。

胆のう炎では90%以上が胆石を合併していますが、軽症状の場合が少なくありません。

2010.11.1
メグビーインフォメーションVol.335より

■■人体の構造と機能
代謝…生命物質の自己生産

◎同化と異化
外部から物質をとり入れ、分解し、加工して生体が利用できるエネルギーや、生命活動に必要を物質を合成する営みを代謝(メタボリズム)といいます。

栄養素の分解によりエネルギーを獲得するプロセスと、簡単な分子を素材にして生体高分子を合成するプロセスとは、それぞれ“異化”と“同化”とよばれています。

代謝は多くの反応のつながりで成りたっており、それぞれのステップでは特異的な酵素がはたらかなければ反応がおこりません。

すなわち代謝は多くの酵素反応の連続であり、これを代謝経路とよんでいます。

代謝経路は、その生理機能によってグループにまとめた代謝系に分けられます。

異化代謝系は“エネルギー代謝”であり、同化代謝系は“物質代謝”です。

物質代謝系は、糖質、タンパク質、脂質などの変換される物質により、糖質代謝、タンパク質代謝、脂質代謝などに分けられています。

細胞胞は、それぞれが必要とする代謝を休みません。

消化システムと呼吸システムによって運びこまれる栄養物質と酸素がそれを可能にしています。

◎代謝系の中枢・肝臓
いろいろの代謝系の中枢に肝臓があります。

肝臓は人体の化学工場といわれ、多くの酵素をもち、多彩な仕事をこなしています(表参照)
1肝臓の機能

肝臓は大きい臓器で、重さは1.0~2.3kg、体重の約2%を占めています。

腹腔の上部右側にあり、上部は横隔膜に接しています。

そして下面にはふくろ状の胆のうが付着しています。

肝小葉とよばれる直径約1mmの構造単位の集合体が肝臓で、肝小葉の中央の中心静脈から肝細胞が放射状に並んでいます。

肝細胞は立体的に配列し、細胞間には迷路のように毛細血管網がひろがっています。

迷路状の毛細血管には、壁の不完全な太い血管があり“類洞”と名付けられています。

類洞には、酸素を多くもつ動脈血と、栄養分を高濃度にふくむ門脈血とが混じって流入してくるのです。

門脈は、消化管血流の静脈にあたり、栄養分が豊富で、肝血流のほぼ70%を僕給しています。

肝臓はつねに多量の酸素と栄養を必要としている臓器なのです。
2肝臓とグリコーゲン

◎糖質(炭水化物)代謝
炭水化物とは、構成元素の炭素に対して、水素と酸素とが2:1(水と同じ割合)の化合物をいいます。

炭水化物が酵素などにより加水分解(反応の途中で水が加わって分解する)されると、最終生成物として単糖のなかまが得られます。

すなわち炭水化物は、単糖類かそれが結合した化合物なので糖質といわれることになりました。

単糖類には、グルコース(ブドウ糖)やフルクトース(果糖)などがあり、単糖が2個結合した二糖類にはスクロース(ショ糖)やマルトース(麦芽糖)、乳の成分ラクトース(乳糖)があります。

単糖類が多数、化学的に結合(重合)したデンプン、グリコーゲン、セルロースなどは多糖類に分類されています。

生体は食物中の糖質を消化・吸収して、エネルギー源として利用します。

またタンパク質や脂質の機能を助ける糖鎖をつくります。

食品中の糖質が摂取され、細胞で利用されるまでの経路には、肝臓が中心となる代謝の流れがあります。

◎グルコースの活用
糖代謝は、肝機能のなかで最重要といって過言ではありません。

消化された糖質は、グルコースや他の単糖になって、小腸壁の上皮細胞で吸収され、門脈(腹部臓器の静脈)によって肝臓へ運ばれます。

肝細胞には、血管にむいた側の細胞膜に“グルコーストランスポーター”とよばれるタンパク質が配置されていて、グルコースを運びこみます。

肝細胞内には、グルコースを変換してグリコーゲンにする活性の高い酵素が待ちかまえています。

そのはたらきで細胞内にはいったグルコースは貯蔵につごうのよいグリコーゲンになってゆきます。

肝細胞内に蓄えられたグリコーゲンは、空腹時に加水分解され、血中へ出されます。

このグリコーゲン合成・分解は、膵臓が分泌するホルモン(インシュリンとグルカゴン)の作用に支配されており、血糖値の調整システムになっています。

肝臓の貯蔵能力を超えたとき、グルコースは脂肪酸合成にむけられ、脂肪酸は脂肪組織に中性脂肪として蓄えられることになるのです。

グリコーゲン合成と脂肪酸合成とは、しばしば同時に進行しており、女性ホルモン(エストロゲン)は後者を後押しします。

また酵素活性の個体差があり、脂肪合成が優位になるケースがあり、グリコーゲン生成量が不足します。

グリコーゲンは、ふつう1~2日間の飢餓により使い切ってしまう量なので、その不足があると短時間で血糖値が低下して食欲が刺激されるため、間食が多くなり肥満のもとになります。
◎糖新生システム
脳のエネルギー消費量は1日に約300kcalで、空腹時にも血糖値が60mg/dl以上に推持されなければなりません。

肝臓は、貯蔵していたグリコーゲンがなくなり、血糖値が低下したとき、糖新生システムを出動させます。

糖新生システムでは、筋肉からアミノ酸や乳酸などの“糖原性化合物”を調達し、グルコースをつくるのです。

筋肉の運動に“嫌気的解糖”がおこると、乳酸が生じ(通常この反応は白筋でおこる)、これが肝臓へゆきグルコースヘと再転換されるのですが、この仕事ではエネルギー物質ATPの消費量が大きいことが知られています。

乳酸は酸性が強いので、すみやかに処理されるしくみになっているのです。

糖新生用のアミノ酸は、筋肉の分解によって供給されます。

筋肉内のアミノ酸の多くは、アミノ基転移反応(これにはビタミンB6が必要)によってグルタミンおよびアラニンになって血中へ出され、肝臓にとりこまれます。

アミノ酸からグルコースへの変換には、乳酸の場合よりもさらにエネルギーが多く消費されます。

アミノ基の窒素を尿素にするのにATPが使われるのです。

グルコースは、必須アミノ酸・必須脂肪酸・ビタミンや、これらの物質から代謝によってつくられる化合物を除いて、細胞交代に要求される体成分のほとんど(脂質、核酸、アミノ酸など)を合成する原料になる重要な栄養物質です。

病気のとき、絶食状態でいると、体タンパクが失われて抵抗力が低下するので、輸液によってグルコースを補給して、病状の悪化を防がなければなりません。

糖質の供給がないと、脂肪組織で脂肪の分解による脂肪酸放出がおこり、肝臓や筋肉でのエネルギー源になります。

これは糖新生による組織の消耗を防ぎ、グルコースを節約する合目的的な現象です。

◎肝臓と脂質
脂肪酸をエネルギー源とする代謝では、中間代謝物としてケトン体が生じます。

ケトン体は酸性物質で、細胞の環境物質として好ましくありません。

ケトン体がふえると血液は酸性に傾くのです。

ブドウ糖の輸液には、ケトン体対策の目的もあるわけです。

肝臓では、食事による脂肪酸や脂肪組織からの脂肪酸はエネルギー代謝の原料にまわすほか、再び脂肪に合成されて、リポタンパクVLDLとして分泌されます。
3グリセロールの利用

肝臓は脂質の合成がもっともさかんな臓器ですが、健康な人では肝細胞に脂肪は蓄積していません。

肝細胞内に脂肪が蓄積した状態は「脂肪肝」とよばれ、かつては軽度の肝障害と考えられていましたが、内臓脂肪型肥満やインシュリン抵抗性にともなって認められることが多く、近年メタボリックシンドロームとのかかわりが重要視されるようになりました。

高血糖のとき、肝細胞内で脂肪合成が進行しますが、運び出し役のVLDLの構成成分であるアポタンパクやリン脂質が不足すると、滞貨になってしまうことになります。

その一方で、低血糖では大量の脂肪酸が肝細胞へととりこまれます。このときミトコンドリアの機能低下や、ビタミンCやニコチン酸の不足などでエネルギー代謝システムヘはいっていかないと、脂肪酸が余ってしまいます。

ところが肝細胞は脂肪酸を分泌する機能をもっていません。

やむなく脂肪合成にまわされてしまうのです。

脂肪肝は、過食や過度の飲酒、内臓型肥満、運動不足を基盤にしているので、食事療法や運動療法がすすめられます。

栄養療法ではエネルギー代謝を促進するどタミンB群やCのほか、とくに“レシチン”が有効とされています。

レシチン(コリンリン脂質)は、リポタンパクの最外層をおおって、血中の脂質移動を可能にする役を担っているのです。

◎薬物・毒物の処理
体外からはいり、体内でも生じる毒性物質の処理をする薬物代謝は、肝臓で発達しています。

このシステムは脂溶性薬物を水溶性物質に変える第一段階と、硫酸・グルタチオンなどを結合(抱合)してさらに排出されやすくする第二段階との組み合わせで進行します。

それによってフェノールなどのさまざまな薬物やステロイドホルモンやどリルビンなどを体外に出すのです。

第一段階を受けもつ酵素チトクロムP-450はヘムタンパクで、生理機能の異なるファミリーがあります。

チトクロムP-450は、細胞内小器官ミクロゾーム(小胞体)に存在しており、肝細胞にもっとも多いのです。

アルコール飲料の成分エタノールは、細胞質でアルコール脱水素酵素、ミクロゾームでエタノール酸化系、およびペルオキシゾームのカタラーゼにより分解され、アルデヒドになり、そのあとミトコンドリアのアルデヒド脱水素酵素により酢酸にされるというコースをたどります。

酢酸は血中に出て、主に筋肉にゆき酸化されて二酸化炭素(CO2)と水(H20)に分解されることになります。

◎過酸化物の処理
薬物代謝システムには、多くの酸化酵素が属しています。

解毒という生体防衛機能は酸素を利用しており、そのプロセスで活性酸素の発生は避けられません。

酸素を用いた反応の過程では、必要以上の過酸化物(過酸化脂質)がつくられています。

過酸化脂質は直接に生体組織を傷つけたり、炎症をひきおこしたりし、また新たな活性酸素の発生源にもなります。

“アラキドン酸カスケード”とよばれる生体膜の構成不飽和脂肪酸を出発物質として、局所ホルモンのなかま(プロスタグランデインなど)が合成される経路ではたらく各種のヒドロキシラーゼ(脂質過酸化物を水酸化し活性を失わせる酵素)は肝臓に多いことが知られています。

活性酸素の除去を担う酵素グルタチオンペルオキシダーゼの活性も、肝臓が最大です。

2010.11.1
メグビーインフォメーションVol.335より