■■膵疾患・糖代謝疾患
◎膵臓におこる炎症
膵臓内では活性の抑えられている消化酵素が十二指腸で活性化したのち、再び膵管内に逆流すれば、膵臓は自己消化という事態に見舞われるでしょう。
膵臓に急性の炎症をひきおこす原因は、アルコールの大量摂取や胆道疾患(胆石、胆のう炎)、ウイルス感染や寄生虫のほか、動脈硬化や薬剤(ステロイド、抗ガン剤)性もあるなど多様です。
はげしい腹痛や腹部の膨満感などが症状ですが、やがて軽快するのがふつうです。
なかには重症化するケースがありますが、それには免疫にからんだ炎症性サイトカインや、NO(一酸化窒素)などのメデイエーターのかかわりがあると考えられています。
急性の病態(腹痛など)が消失しても、脂肪の多い食事をしたあとにぶり返したり、消化不良や下痢などを繰り返すケースがあります。
ときには膵臓に無数の石灰化が生じている場合(膵石症)もあります。
低カロリー・低タンパクの食事(栄養障害)も、膵石症や慢性膵炎の原因のひとつとして挙げられています。
また脂溶性ビタミン(A、E、K)の補給が必要とされています。
◎膵ガン
膵臓に発生するガンは、通常“浸潤性膵管ガン”をいい、腺房細胞や内分泌腺などに生じる腫瘍にくらべてもっとも発生頻度が高く、余後が悪いとされています。
膵ガンは、胃ガンなどの消化器ガンのなかで早期発見が容易ではなく、治療も困難とされています。
膵臓は胃の後ろにあるため、肝ガンのように超音波(腹部エコー検査)による発見率が高くありません。
黄疸が生じたり、腹痛や背部痛がつづいたり、体重減少が目立ってきたりなどの、特徴的な症状があります。
◎膵内分泌腫瘍
インシュリンなどの膵ホルモンをつくり分泌する内分泌細胞から発生する腫瘍が“膵内分泌腫瘍”です。
腫瘍化するとホルモンを持続的に分泌するので、血中ホルモン濃度が上昇して、低血糖や糖尻病や、はげしい下痢、消化性潰瘍などが出現してきます。
正常では、ホルモン分泌は調整されているので過剰の状態にはなりません。
インシュリンは血糖値の上昇により分泌され、血糖値が低下すれば分泌が抑えられるというフィードバック制御を受けているのです。
◎糖代謝疾患
代謝疾患とは、生体を構成する物質の同化や異化のプロセスに異常を生じる疾患をいいます。
代謝疾患には、代謝に不可欠の酵素の機能に遺伝子レベルの異常が生じるなどの先天性疾患(フェニールケトン尿症など)と、糖尿病や痛風などの後天性疾患とがあり、後者では遺伝的要因と環境要因とがかかわって発症します。
遺伝要因は多因子とされ、環境因子として食行動や運動などの生活習慣が指摘されています。
糖代謝は、生体のブドウ糖利用を中心にした代謝プロセスであり、生命推持に不可欠のエネルギー獲得にかかわっています。
糖代謝のキーファクターである膵ホルモンが不足したり、本来の機能を果せない状態にあるとき、高血糖や糖尿病という病態を招くことになります。
◎糖尿病
“持続的に血糖値の高い状態がつづく疾患”と定義される糖尿病は、1型(若年型)と、2型(成人型)に分類されています。
若年型は、リンパ球が膵島B細胞に対して抗体をつくり破壊してしまう(自己免疫)ためにインシュリン補給をしなければなりません。
1型は糖尿病全体の5%以下と少なく、大部分が2型ですが、その発症のメカニズムは一般的には下図のように考えられています。
まず肥満にもとづくインシュリン抵抗性が生じ、代償的にインシュリンが過剰分泌される期間があるが、やがて酸化ストレスや小胞体ストレスなどによるB細胞の機能低下がおこってくる、というのです。
インシュリン抵抗性とは、血中にインシュリンがあっても、各臓器でその作用が正常に機能しない状態であり、糖尿病だけでなく動脈硬化をすすめ、いわゆる「メタボリックシンドローム」の基盤になります。
骨格筋や肝臓や脂肪組織などのいろいろの臓器でのインシュリン作用の変化が、混在して生じて全身性の病態をつくるわけです。
B細胞の機能が維持されていれば、インシュリン抵抗性は高インシュリン血症を誘導する原因になり、それがメタボリックシンドロームの病態と複雑にかかわってきます。
たとえば高インシュリン血症では、尿細管でのNa再吸収を増加させて高血圧を進展させたり、肝臓の脂肪酸合成を促進して、脂肪肝のリスクになったりします。
高血糖状態がつづくと、やがてアポトーシスに追いこまれてB細胞の数が減少し、そのため低インシュリン血症へと転じます。
その結果インシュリンの抗アポトーシス作用が失われて、さらにB細胞数を減らすという悪循環におちいり、糖尿病を進行させることになります。
◎日本人の糖尿病
糖尿病の関連遺伝子(インシュリン受容体やアドレナリン受容体など)には民族差のあることが知られており、病態のあらわれ方にもちがいを生じています。
日本人の場合、食後すぐの初期分泌が少なく、おくれてインシュリン分泌がみられます。
またBMIが24前後で、とくに肥満というほどでないのに、軽度の内臓脂肪蓄積や運動不足が後押しして耐糖能(ブドウ糖の利用)異常を生じます。
2型糖尿病の検査で、グルコース経口摂取が行われますが、インシュリン分泌反応は、日本人は欧米人に比較して著しく低下していることが知られています。
進化のプロセスで獲得してきた遺伝子が、状況によって代謝異常の原因にもなるのです。
2010.12.1
メグビーインフォメーションVol.336より