精神世界に興味を持つ人の中には、神仏に祈ることで自分の運がよくなったり、願望が叶うと信じている人がいる。もちろん、そういうこともあるが、人生経験を積み重ねた人なら、神仏に祈っても願いが叶わないことが多く、人生は思うようにならないと感じているだろう。

過去の日本の歴史を振り返っても、近代化以前は繰り返し起こる飢饉や疫病、地震などの天災、戦乱などに対して、人々は苦しい時の神頼みで、神仏に祈り厄除けを祈願してきた。だが、思うような効果が得られることは少なかった。

願いが聞かれるどころか、信心深い人が不幸になることも少なくない。戦国時代には一向宗徒(浄土真宗)の起こした一揆は徹底的に弾圧され、天台宗の総本山である比叡山は、信長の命によって焼き討ちにあい、何千人もの僧が殺された。

中でも悲惨を極めたのは、江戸時代初期に起こった島原の乱だ。重税に苦しむクリスチャンの農民たちが、天草四郎を盟主として蜂起し、長崎の原城に立てこもったが、幕府の連合軍に攻められ、３７０００人の老若男女が無差別に全員惨殺されている。

　　　　　天草四郎

追いつめられた信者たちは救いを求め必死に神に祈ったが、祈りは聞かれず奇跡は起こらなかった。初期のキリスト教でも迫害され殉死する人たちが多かったが、危機的状態で神に祈っても神は沈黙し続け、救いはなかった。祈りが聞かれないという深刻な疑問は、キリスト教では神の沈黙として現在まで議論されている。　　　　　　　　　　　　　　　

　どうやら神仏は、人間の欲望を叶え、危機的状態から救ってくれる存在ではないようだ。では、祈っても願いが叶わないのに、なぜ人々はそれでも神仏を信じるのだろうか?

最悪の状態に直面した時ほど、人は成長する。神は、人が自分の内面を見つめ直し、生れてきた使命を果たさせるために、願いを叶えないのだろう。おそらく神は、人間を精神的に鍛え成長させるため、人間が危機に陥っても沈黙を守り、苦しみや試練を与えるのだろう。

最近は、引き寄せの法とか、祈祷やまじないで願望を達成する法などがか流行っているらしいが、神仏は人間の欲望を叶えるための召使ではない。

人生は予期せぬことや苦しみの連続である。いくら注意していても病気なるし、事故で障害者になるかもしれない。それに社会で生きていく以上、ストレスから逃れられない。たとえ、引きこもって社会からドロップアウトしても、将来の不安や体調不良でけっこうストレスが溜まる。

病気や失業などの個人レベルの事なら、努力や、生活習慣や環境を変えることで改善は可能である。努力や工夫で悩みが改善できるなら、変えた方がいいが、人生には自分ではどうにもならな事態に遭遇することがある。

巨大地震などの天災、経済恐慌、戦争などは、個人レベルを超えており努力では何ともならない。それに過去に起こってしまったことも、元に戻すことはできない。

　人生には何をしてもうまくいかない時期があるが、運命を受けいれ自分を宇宙の力に明け渡す必要があるのは、そんな時である。

人間は不遇の時期でも成長する。いかなる状況でも、起こることにはすべて意味があり、そこで経験することは宇宙の力が魂を成長させ、人生の使命を果たすために必要な経験であると信じるのが信仰である。

　それは人生に絶望し降伏するのではなく、自分を宇宙の力に明け渡すことだ。多くの人が経験しているように、明け渡し直感に従えば道が開け、人生は思いがけない方向へ展開するものだ。

本当の力は社会的地位、資産、肩書から生まれるものではない。不安をなくすため、他者、物、状況を思う通りにコントロールするのが最善と思うが、それは不可能であり、幻想にすぎない。自力の限界を知り、物事をコントロールするのをやめれば、むしろ物事が自然の秩序通りになてゆく。

状況をコントロールしようとせず、なるようになるという現実に身をゆだねることは危険だという迷妄の中で多くの人が悪戦苦闘している。勝ち目の戦いに挑んでも、疲れ果て消耗するだけだ。

　物事がなぜ起こるかその理由を知っている人はいない。宇宙の力(神仏)は人間の理解力をはるかに超えている。何かを変えようとして変わらなかったら、それは変わらないものだと考えた方がいい。人生の大半のことは自然に任せればうまくいくものだ。

祈りが通じて宇宙の力(神仏)が人間の願望を叶えてくれることもあるが、基本的には人間の心の成長や使命を果たさせることにしか興味が無いように思える。祈っても神仏が人を助けないのは、困難な状況を与えることでしか人間を成長させ、癒せないからかもしれない。

たいていの人は幸福というものをある出来事に対する反応と考えているが、実際の幸福とは心の状態のことであり、周囲で起こる事とはほとんど関係がない。人は、何かを変えた時または何かを成し遂げた時幸福になり、大変なことが起こった時不幸になると思っている。

だが、それは生活に困った人が宝くじの高額当選をした時のようなもので、一時的な高揚感でしかなく、その時期が過ぎるとまた元の不幸な状態に戻ってしまう事が多い。真の幸福は、出来ごとの結果ではなく、状況に左右されるものでもない。

人生は思った以上に短く早く終わってしまうし、人はいつ死ぬかもわからない。明日死ぬかもしれないと思って、毎日最善を尽くそうと思う人間は後悔が少ない。死ぬ時、後悔しないように、やりたい事や、やり残したことがあればすぐにやった方がいいようだ。

変えられないことは受け入れる