黄昏老人の棺桶丸隠遁生活 -3ページ目

黄昏老人の棺桶丸隠遁生活

浮世から何里あらうか山桜

東日本大震災から8年がすぎ、日本は電力の供給が途絶える危機からは脱した。しかし再生可能エネルギーはコストや安定供給に課題があり、火力発電に頼る現状は温暖化対策に逆行する。政府は新たに設ける電力取引の市場を通じ、競争による値下げと環境への責任を促す改革を目指す。未完の「電力自由化」は前に進むか。

「新電力より安くしますよ」。東京電力ホールディングス傘下の新電力、テプコカスタマーサービス(TCS、東京・港)が顧客を奪いにかかっている。TCSは法人向けで他の新電力よりも安い価格を提示して大口顧客を獲得。2月には新電力の電力販売量で、小売りが全面自由化されてから初めて首位に立った。

巨大な設備が負担となるはずの大手が値下げ攻勢をかけ、設備を持たず身軽な新規参入組が守勢に回る。こんなことが起きるのは、発電コストが安い電力は大手しか持っていないためだ。

電気はエネルギー源が安定し、昼夜を問わず継続して稼働できる設備ほど安くつくることができる。今、安価なのは規模の大きい水力や石炭火力の発電所でつくる電気だ。この設備を持つ大手の系列は得意先に安価な電力を提供できる。

一方の新規参入組は自社設備を持たなければ、卸売市場から電気を調達する。市場にある電気は大手で余った分。液化天然ガス(LNG)火力などでややコストが高い。

消費者にとっても矛盾がある。今の暮らしには照明や冷蔵庫などに「どうしても必要な電気」がある。仮に新規参入の事業者と契約すると、ここにコストの高い電気がまわる。

経済産業省は「大手電力が持つ安い電気を開放しないと、公平な競争環境にならない」(幹部)とみる。そこで新設されるのが小売業者が安価な電力を調達できる「ベースロード市場」だ。

この市場は大手に水力や原子力などでつくる電気を出してもらう。一定量を提供しなければ、独占禁止法違反とみなされる恐れがある。

大手は不満を募らせる。安価な電力を市場に出せば新電力の調達価格が下がり「顧客が流れてしまう」(東北電力幹部)。東北電は宮城県の女川原発2号機などを再稼働しても、電気を拠出すればライバルを利することになる。

電力の自由化は新規参入組を増やして競争を促し、電力コストを下げることが目的だ。東京都に本社を置くある新電力の幹部は「大手電力系のライバルに顧客が流れている」と危機感を募らす。顧客が大手の系列に戻り新規参入組が淘汰されれば、価格競争のおきにくい寡占市場に戻りかねない。

一方で北陸電力の幹部は「コスト競争力のある水力発電を増強し、ベースロード市場に振り向ける」と話し、市場を活用した収益の最大化に目を向け始めた。「安価な電力」の供給に向け、市場を通じた競争の促進が改めて求められている。

「安い電気」は誰のものか 開放に大手は反発 電力 未完の自由化(上)

https://www.nikkei.com/nkd/company/article/?DisplayType=1&ng=DGXMZO46319560Z10C19A6EE8000&scode=9501&ba=1