動き始めた患者会
厚労省 がん対策推進基本計画における喫煙率の数値目標明記は「国民の意見次第」と明言
政府の「がん対策推進協議会」は先月、がん対策推進基本計画に「喫煙率半減」の数値目標を掲げることで合意したが、厚生労働省が作成した基本計画の事務局案には、この目標が盛り込まれていないことが分かった。年間2兆円を超えるたばこ税に配慮する厚労省の姿勢が、背景に見え隠れする。海外では喫煙率の削減目標を設定する国も多い。喫煙が寿命を縮めることを示す研究データもある中で、命より税収を優先するともいえる姿勢に批判が出そうだ。
協議会はがん患者や専門医らで構成。基本計画のもととなる厚労相への答申を今月中にもまとめる予定だ。4月に施行されたがん対策推進基本法は、協議会の答申を踏まえ厚労相が基本計画案を策定、閣議決定することを定めている。
喫煙率半減の目標は4月17日の第2回会合で合意された 。会長の垣添忠生・日本対がん協会長は報道陣に「がんによる死亡率を減らすなら、喫煙率の引き下げを数値目標として示さないわけにはいかない」と明言した。
ところが、毎日新聞が入手した基本計画の事務局案には目標は入っていない。合意について事務局を務める厚労省がん対策推進室は「意見の一つで、合意とは認識していない」と説明する。
たばこ税収は04年度で2兆2992億円。関係者によると、喫煙率削減は税収減につながるため、目標を基本計画に盛り込むと、財務省などが反対し閣議決定できないことを厚労省は恐れているという。
日本たばこ産業は先月下旬、「たばこは合法な嗜好(しこう)品」などと、目標設定に強く反対する意見書を厚労相や財務相らに送った。同社広報部は「トーンダウンしたことに安堵(あんど)している。委員の先生方が常識的な判断をされたのではないか」と話す。
厚労省研究班(班長、上島弘嗣・滋賀医大教授)が約1万人を追跡した調査では、男性喫煙者の40歳時の平均余命は38.6年で、非喫煙者(42.1年)より3.5年短いことが判明。この余命短縮は、日本人の平均寿命が20年前の水準に戻ることに相当するという。
海外では、英国が10年までに喫煙者を150万人削減するとの目標を掲げ、米、仏、韓国なども目標を設定している。
厚労省は「基本計画に盛り込むかどうかは、残り2回の審議や国民から寄せられた意見を踏まえて検討する」と説明している。【須田桃子】
◇市民団体「たばこ問題情報センター」の渡辺文学代表の話 厚労省が今回のような弱腰で、国民の健康を考えているのかと問いたい。たばこの監督官庁が財務省という国は世界でも日本ぐらいだ。喫煙に起因する医療費や労働力損失は7兆円以上という試算もある。目先の税収に目がくらみ、国全体のバランスを考えていないのではないか。