抗菌薬(いわゆる抗生物質)を服用するとアレルギーになりやすいという記事を読みました。

<抗菌薬>乳幼児は服用注意を アレルギー発症率1.7倍

こういう研究は医学系では多いのですが、政策分析の分野の人たちからするとあまり信頼性の高いものとは捉えられません。

この記事の内容だけだと、明らかになっているのは相関関係だけであって因果関係ではありません。
2歳までに抗菌薬を処方された経験のある子どもとそうでない子どもが5歳のときにアレルギーになっているかどうかを調べたということです。しかし、この調査では、
もともとアレルギーになりやすい素質を持つ子ども(鼻炎、ぜんそく症状を頻繁に出す子ども)は抗菌薬を処方されやすいという「逆の因果関係」(reverse causality)を否定できません。

極端な例でいきますと、
警察官がたくさんいる地域は犯罪件数が多い→警察官を増やすと犯罪件数が増える
という推論と同じです。
アホらしい、犯罪件数が多い地域に警察官を増やしているに決まっているだろうと言われてしまいます。

抗菌薬を処方された子どもにはアレルギーが多い→抗菌薬を処方するとアレルギーが増える

同じ構図ですね。

このreverse causalityを否定するためには、抗菌薬をランダムに処方することです。
病気の子どもたちにくじを引かせ、当たった子どもには抗菌薬を処方し、外れた子どもには重症でも抗菌薬を処方しない。こうすれば厳密な抗菌薬の因果関係がわかります。

またRCTか、そんなことできるわけないだろう、という声が聞こえてきそうです。
そこで、政策分析の研究者は、偶然そんな状況が発生した瞬間を利用しようとします。自然実験(natural experiment)です。

例えば、災害や戦争、輸入制限などの偶然の事情で抗菌薬が手に入らなかった時期があったとすると、そのときに2歳だった子どもと、抗菌薬の輸入が再開された後に2歳だった子どもを比較する。
自治体が条例で県内の医療機関に対して抗菌薬の処方を禁止したが、その後条例が廃止された場合、禁止中に2歳だった子どもと解禁後に2歳だった子どもを比較する。

こういう状態を探すのは大変ですが、レアな分、貴重な研究結果が得られます。そのため、政策分析の研究者は災害やら戦争やら政策変更のニュースを見ると何か研究に使えないだろうかと考える癖があります。

この抗菌薬の研究の詳細は論文が手に入っていないのでわかりませんが、もしかしたらRCTをやったか自然実験を利用したのかもしれません。その場合は我が家も今日から反抗菌薬派になろうと思います。